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 卓球台でボールを打ち合う。ただし、球の直径は18センチ。そして、使うのはラケットではなくて頭。ドイツの田舎町で、ある青年が遊びから思いついた珍妙な球技「へディス」が、じわじわと広がっている。

 9月下旬。ドイツのケルンにあるテレビスタジオで、ヘディスの番組収録を見学した。音楽バンドが待機するセットのスタジオに登場したのは、コメディアンで人気司会者のステファン・ラーブや、元サッカードイツ代表MFのダビド・オドンコール、俳優や芸人ら6人だ。

 ルールは卓球をベースにしている。卓球台の敵陣に球を打ち込み、1バウンド以内で相手が返せなかったら得点。11点取れば勝ちだが、10点で並んだら2点差がつくまで続ける。

 台をはさんで向き合うラーブとオドンコール。緊迫した空気のなか、ラーブが白いボールを宙に投げ、敵陣に向けておでこでサーブを打った。オドンコールは、跳ねた球をよく見て、これまたおでこで返した。球は放物線を描き、再びラーブの陣地へ。

 ポコム。ポコム。パコム。

 音はやや緊張感に欠ける。ううむ……、頭で打ち合った球の軌道は定まらず、明後日の方向に飛んでいったり、ネットに阻まれたり。その都度、観覧席は笑いに包まれるが、妙にハラハラもする。意外にも、ラーブがオドンコールに競り勝った。その後、6人は互いに楽しく対戦し、番組収録は無事に終わった。

 が、スタジオでは続きがあった。収録終了後、観覧席から「僕もやりたい」と声が上がった。ヘディスの公式大会の優勝経験がある猛者らしい。対戦相手は? 「私がお相手しよう」。審判が帽子を脱いで名乗り出た。 実はこの審判、ヘディスの生みの親だった。ルネ・ウェグナー、33歳。2人の「プロ」による番外戦が始まった。これが、予想以上にすごい。

 ボフ! スパン! シュポン!

 球は先ほどとは明らかに違う音を立てて台を行き交う。回転をかけたり、勢いをつけたりして球威が増した。