クローズアップ現代「チームでつかんだノーベル賞〜日本の物理学が切り開く未来」 2015.12.04


2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さん。
あれから13年。
愛弟子の梶田隆章さんが来週ノーベル賞の授賞式に臨みます。
宇宙から降り注ぐ素粒子ニュートリノ。
梶田さんは、この粒子に僅かな質量があることを発見しました。
現代物理学の常識を覆す発見。
世界の物理学者たちに大きな衝撃を与えています。

巨大な観測装置で行われた研究。
それは困難の連続でした。
未曽有の事故。
そして尊敬する先輩の死。
梶田さんを支えたのは仲間との団結でした。

物理学の未来を切り開く日本の科学者たち。
その知られざるドラマに迫ります。

地下1000メートルの所に高さ41メートルという巨大な水槽が造られその中には大量の水そして水槽の壁面にずらりと並んでいるのが高感度センサーです。
スタジオに再現しましたのはスーパーカミオカンデと呼ばれる観測装置です。
この装置を使った観測から梶田隆章さんの大発見が生まれ今回のノーベル物理学賞の受賞につながりました。
この装置で観測されたのは宇宙を構成する最も小さな粒子素粒子。
その一つであるニュートリノです。
ニュートリノはこの瞬間にも何千、何万という数で私たちの体を通り抜けているんですけれどもその小ささゆえ捉えるのが非常に難しく、幽霊粒子とも呼ばれその存在は謎に包まれてきました。
15年前、私はこの観測装置を取材したことがありますけれども地下奥深くに巨大な水槽を造って地球に降り注ぐニュートリノを観測するという斬新なその発想そして実際に造られた不思議な空間に驚いたことを覚えています。
この装置を使った観測で梶田さんが発見したのはニュートリノには質量重さがあるという、これまでの物理学の常識を覆す事実です。
それまではニュートリノには質量重さがないと考えられ宇宙の成り立ちもニュートリノには質量がないことを前提に組み立てられていたのです。
宇宙はなぜどのように生まれたのか。
それを解き明かす新たな大きな手がかりを人類にもたらした梶田さんの大発見。
その大発見はどのように導かれたのかその物語をご覧ください。

宇宙はどのようにして誕生したのか。
アインシュタイン、湯川秀樹数々の偉大な物理学者たちがその謎に挑んできました。
そして築き上げたのが標準理論。
僅か3行のこの数式で宇宙の成り立ちを記述。
これまで観測された現象はすべて説明できるとされてきました。
この理論では、ニュートリノの質量はゼロとされています。
その常識を覆した梶田さんの発見は歴史上初めて標準理論に修正を迫ることになったのです。

おはようございます。

物理学の世界を揺るがせた梶田さんの発見はどのようにして成し遂げられたのか。
その出発点は、素粒子の観測で世界最先端を走っていた小柴昌俊さんとの出会いにありました。
梶田さんは小柴さんから独創的なアイデアの重要さを学んだといいます。

当時、小柴さんは岐阜県にある鉱山の跡地に前代未聞の観測施設を建設していました。
地下1000メートルに造られたカミオカンデです。
巨大な空洞を掘り3000トンの水で満たします。
その壁一面には高感度の光センサーを設置。
ニュートリノが水の分子と衝突したときに出る僅かな光を捉え、観測するのです。

小柴さんの下で研究に打ち込んだ梶田さん。
日々、データと向き合う中で不思議な現象に気が付きました。
当時、ニュートリノはどの方向からも同じ数だけ飛んでくると考えられていました。
ところが観測データを見ると地球の裏側から来る数が予想よりも少なかったのです。
一体何が起きているのか。
梶田さんがたどりついたのは大胆な仮説でした。
ニュートリノはカミオカンデには届いているものの途中で観測できない形に姿を変えているのではないかというのです。
しかしこの仮説はニュートリノに質量がなければ成り立ちません。
標準理論に真っ向から対立する梶田さんの仮説はいわば常識外れ。
それでも小柴さんは独創性を高く評価しました。
海外にいる小柴さんから送られたファックス。
「梶田君おもしろくなってきましたね」。
出張中でも絶えず研究を気にかけてくれました。
小柴さんの後押しを受け梶田さんは1年をかけて研究の成果を論文にまとめました。
しかし、世界の物理学者の反応は冷たいものでした。

この逆境を救ってくれたのがもう一人の恩師、戸塚洋二さん。
小柴さんの後を継ぎ不屈の精神でチームを引っ張るリーダーでした。
戸塚さんもまた梶田さんの仮説に大きな可能性を感じていました。

梶田さんの仮説の検証にはさらに高性能の観測施設が不可欠でした。
必要な予算は100億円。
基礎科学に対する予算が限られる中、戸塚さんはばく大な研究費を集めるために国や大学の説得を続けました。
数年をかけて建設にこぎ着けたのがスーパーカミオカンデです。
大きさもセンサーの数もカミオカンデの10倍以上。
圧倒的な性能を誇る装置を完成させました。
戸塚さん、梶田さんを筆頭に100人を超える研究チームが24時間態勢で観測。
続々と膨大なデータが集まりました。
そして梶田さんは満を持して国際会議でこう発表しました。

さらに研究を進める梶田さん。
戸塚さんの強力なリーダーシップを感じる出来事がありました。
2001年11月。
スーパーカミオカンデの光センサーが水の圧力によって破損。
全体の6割に当たる8000個近くが一気に失われたのです。

皆がただぼう然とする中諦めなかったのが戸塚さんでした。
事故の翌日、世界に向けてこう宣言しました。
実はこのとき、戸塚さんは大腸がんを患っていました。
病を押しての決意表明でした。
すぐに事故の調査がスタート。
戸塚さんのリーダーシップの下研究メンバー全員が一丸となって復旧活動に取り組みます。
そして事故から僅か1年で観測再開にこぎ着けたのです。

梶田さんの研究を支えた戸塚さん。
2008年、がんのために亡くなりました。
それから7年。
梶田さんの研究が認められノーベル賞の受賞が決まったのです。
今、梶田さんの発見は新たな物理学の可能性を切り開こうとしています。
理論物理学で世界の最先端を走る東京大学の研究所。
宇宙の始まりは一体どんな数式で書き表せるのか。
世界中から研究者が集まり熱い議論が交わされています。
研究所のトップ、村山斉さんです。
梶田さんの発見以来ニュートリノに質量があることと標準理論を統合するための論文が次々と発表されているといいます。

その中で最も有力な理論はシーソー機構と呼ばれるものです。
その数式はこんなふうに読み解けます。
上の3行は標準理論。
そこに追加されたのが下の部分。
梶田さんが発見したニュートリノの質量はmで表されています。
注目するのはこの部分。
これは未知の粒子を表しています。
梶田さんの発見によって未知の粒子が存在する可能性が示されたのです。

では、未知の粒子とは一体どんなものなのか。
それは、宇宙誕生の直後に大量に存在していた非常に重い粒子だと考えられています。
この粒子は今ではほとんどが姿を消してしまい見つけることが困難になっているといいます。
未知の粒子を捉えれば宇宙の始まりにも迫れるのではないか。
その挑戦も始まっています。
スーパーカミオカンデの隣に造られた観測施設カムランド。
ここではスーパーカミオカンデよりさらに感度の高い光センサーを開発。
未知の粒子の存在を示す微弱な光を捉えようとしています。

これまでの物理学の常識を塗り替えた発見。
脈々と受け継がれた研究者の精神が人類を新たな知のフロンティアへと導いています。

今夜のゲストは、カミオカンデ、そしてスーパーカミオカンデを長年、取材されてきました、立花隆さんです。
ごく僅かですけども、ニュートリノに質量があることが分かったことで、今、物理学の世界は、その世界中でわーわー言っていると、村山さん、おっしゃってましたけど、どんな状況なんですか?
いやもう、本当に、わーわーっていうか、完全な興奮状態ですよね。
それは要するに、これまでゼロだったんですよ。
ゼロだったものに、それに質量があるってことは、つまりこれまでゼロとして無視してきた世界が、実はリアルな世界だということが分かろうと、それまで幽霊粒子って言われてきたわけですよね。
ほとんど幽霊の世界を語るみたいな世界が、突然、リアルに語るとしたら、それはどこにあって、どういうふうにあって、どういう存在形態をしているのか、もう、ありとあらゆることを説明しなきゃならない。
そうすると、これまで物理学のその世界をやっている人たちが、ほとんど、質量ゼロに影響して、それは考えなくていいんだみたいな、そういう状態だったわけです。
突然、何もかも、ゼロじゃなくて、まず根本的にそれ、全体を説明する理論が必要だという論になって、つまり言ってみれば、今おっしゃったように、アインシュタイン的な存在が新しく必要になるわけです。
そうすると、若い人もみんな俺が新しい理論を作れば、次の時代のニュートン、アインシュタインになれるんだという、そういう興奮状態なんです。
だから、世界中の若い人だけじゃなくて、あらゆる学者がものすごい興奮状態で、新しい理論をどんどん書いて、発表し合ってるっていうね、これはもう、驚くべきことで、そのもとを正すと、小柴さんの結局カミオカンデになるんです。
それがなんでかっていうと、カミオカンデ以前にはそのニュートリノって、見えないんです。
見えないってことは、ないのと同じことなんです。
今、現にここだって、ニュートリノが山のように飛び交ってるんですよ。
でも全然見えないでしょ?だけれども、ここにカミオカンデがあれば、それが光って、その存在を示してくれるわけです。
そういう計測機を持ってたのは、日本だけなんです。
だから、世界のすべての学者が、同然の状態にある中で日本だけがそれを見て、それを観察して、だからこういうんだというね、そういう方向にいったから、梶田さんのノーベル賞につながるわけです。
そして今、行われているのは、標準理論とニュートリノに質量があることを、統合した、その数式を作ろうということで、そこには、まだ知らない、未知なる粒子があるということになるわけですよね。
一番有望な考え方っていうのが、シーソー機構というものですけど、それ、どういうものなんですか。
これはですね、要するに、ぎったんばっこんですよね、シーソーっていうのはね、要するにね。
こちらに置いていただけますか?すみません、よろしいですか。
本当はね、これがまあ、ニュートリノとしますよね。
これは先ほどのVTRの中に出てきましたように、重い質量があるっていってもゼロが何十も続いているような、ほとんどあるかないか分かんないような、そういう存在です。
だから、幽霊粒子といわれてるわけですよね。
それだけでこの宇宙が出来て、その存在するようになってというね、この世界、説明できるかって言ったら、できっこないだろうと。
それをバランスを取る、もっと大きな質量を持った存在があるはずだと。
それでこの重いものと軽いものとの両方のバランスが、シーソー状態になって、そのバランスを作っているのが、この世界なんだというね、それが、基本理論。
つまり、こんな小さいものが、軽いものがたくさんあるとすれば、それをバランスする何かが必要だった?それ、どれぐらい?
超巨大で。
これですね。
恐らくですよ、この太陽系で。

これだと重いわけですね?そうするとこういうことになるわけですね。
こっちがね、そういうことです。
どれぐらいの重さが、この全宇宙に広がっているこのニュートリノとバランスできるかといえば、こちら側は、少なくともこの太陽系でいえば、木星と太陽自身、それぐらいの1個で、1個の粒子で、それぐらいの質量を持つ、超巨大なものがあるに違いない。
それがシーソー機構理論なんです。
これは日本人が作った理論なんです。
それで今、その世界の物理学者がみんな沸き立っていろんな議論を、さっき、議論やってたのみたいにね、ああいう感じで沸き立ってるのは、そのシーソー機構そのものがどうなってんだっていうね、俺はこう考える、君はこう考えるか?みたいなね、その議論なんです。
ほとんど日本人の、その理論の上に乗っかった議論が世界中に広がって、それでぎゃーぎゃーやってるというね、そういう状態なんです。
これはまだ観測されていない、まだ、ものなんですけど、一体今のお話は、どのあたりの話をされているんですか?これ、ビッグバン。
で、宇宙の歴史をこうやって見ていくと。
基本は、すべての始まりがビッグバンだとしますと、この宇宙は、ここまでは、実は見えないんです。

今、現在138億年、ビッグバンから。
それでこの当初は、まるっきり闇の中、何が起こっているのか分からない、そういう状態の。
見えているのは?
見えてるのはここからなんです。
38万年後から。
これ、宇宙が晴れ上がりというね、そういうふうに言われてて、10億分の1秒後。

標準理論?
さらに、もうちょっといくと、宇宙の晴れ上がりというね、要するにこの絵のこの辺りになるわけ。
そうすると、天体観測が自由にできるようになってみたいなね。
われわれが知ってる宇宙っていうのが、広がって見える。
なるほど。
そこで、その大きな質量?
要するにこの暗黒の時代。
この暗黒の時代、とんでもないものが宇宙に充満してるみたいなね、そういう時代があった。
そのときはニュートリノといえども、重いニュートリノというのがあって、その重さが、1個が、太陽と木星の間ぐらいの、それぐらいの重量を持ったものが、1個の粒子でですよ、そういう宇宙だったんだと。
ほかのものは見えないです。
今、そのカムランドという、最先端の、われわれ、取材に行ったことがありますけれども、カムランドを使って、観測しようとしているわけですよね。
その可能性、どう見てらっしゃいますか?
カムランドというのは、世界で本当に珍しい観測機でして、特にその感度において優れていて、ほかの観測機では絶対見えないようなものが、次々に見えるんです。
それ、実際にカミオカンデに置いてあるわけです。
それであそこ、あそこっていうのは、要するに山脈ですね、あそこから、その観測機を使って見ると、この日本のありとあらゆる、なんていいますか、原発のね、すべての原発がニュートリノを発してますから、それでそれが全部見えちゃうんですよ。
まだまだこれからの観測が期待されるところです。
今、一部、不適切な表現があり、大変失礼いたしました。
2015/12/04(金) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「チームでつかんだノーベル賞〜日本の物理学が切り開く未来」[字][再]

観測装置の事故や不可能とされたノイズ除去などさまざまな“難題”を乗り越えたノーベル賞・梶田隆章さん。膨大な映像資料をもとに日本の物理学者たちの栄冠への闘いを描く

詳細情報
番組内容
【ゲスト】ジャーナリスト…立花隆,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】ジャーナリスト…立花隆,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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