相手をなぎ倒す激しいタックル。
パラリンピック種目で唯一車いす同士をぶつけ合う事が許されています。
(一同)ニッポン!ニッポン!今月この競技で日本チームが快挙を成し遂げました。
(ホイッスル)日本勝ちました!日本優勝!ロンドンパラリンピック金メダルのオーストラリアを敗りアジア・オセアニア選手権初優勝。
(池)リオでも金取るぞ〜!
(一同)オ〜!来年のリオデジャネイロ・パラリンピックの出場を決めました。
(場内アナウンス)「ユキノブ・イケ」。
勝利の立て役者となったのがキャプテン池透暢。
その武器は…。
ロングパスが通りました!正確なロングパス。
右腕から繰り出される一投で次々と得点を演出します。
目標はリオでメダルを取る。
金メダルですね。
15年前の事故で体に大きな障害を負った池選手。
掛けがえのない3人の友を失いました。
極限まで体を鍛え技術を磨いてきました。
生きた証残すと言うとちょっと大げさなんですけど。
リオまであと1年。
金メダルに向け更なる進化を目指しています。
ロングパスだけではない自ら攻め上がる攻撃。
かつてない過酷なトレーニングに取り組み始めました。
じゃあ次の事をチャレンジしてこれもできた。
絶望のふちから立ち上がり不可能を可能にしてきた池選手。
挑戦の日々を追いました。
高知市内で妻と2人の子どもと暮らす池透暢選手。
来年のリオデジャネイロ・パラリンピックに向け競技中心の生活を送っています。
今年から仕事も家にいながらできるものに変えました。
池選手は19歳の時交通事故で左足を失いました。
右足も思うように曲がりません。
左腕も肘から先の感覚がなくなりました。
バイバ〜イ!行ってらっしゃい。
向かったのは近所の公園です。
一番しんどいやつやろうかな。
これがラグビー専用の車いす。
重さは30キロ。
激しいぶつかり合いに耐えられるような特殊な構造をしています。
全長100メートルの急な坂道をダッシュで上ります。
左腕は感覚がないため手の側面を使って車輪を回します。
鍛えるのは腕の筋力と持久力。
時折複雑な動きも取り入れターンの切れ味も磨きます。
これを20本行いました。
(取材者)摩擦で?トレーニングにかける時間は一日6時間にも及びます。
それはまあずっと実践してますね。
池選手が取り組む車いすラグビー。
パラリンピック種目で唯一車いす同士のぶつかり合いが許されています。
もともとこの競技は障害の重い人でもチームスポーツに参加できるようにと生み出されました。
プレーできるのは両手足全てに障害がある人です。
バスケットボールと同じ大きさのコートでプレーします。
前方へのパスも認められています。
ゴールラインを越えれば1点。
選手は障害の程度に応じて7つにクラス分けされています。
4人の合計は8以内です。
この競技で最強といわれているのがオーストラリア。
前回のパラリンピック去年の世界選手権と金メダルに輝きました。
パワーを全面に押し出して戦います。
(ホイッスル)重い体重を生かして突進。
更に守備でも…。
これまでパラリンピックではオーストラリアやアメリカといった強豪国に阻まれメダルに届かなかった日本。
メダル獲得の切り札として期待されているのが2年前に代表に加わった池選手です。
最大の武器は…。
このロングパス。
その距離は世界トップクラスの20メートル。
そして絶妙なコントロール。
トップスピードで走り込む選手にスッポリと収まります。
これまではパワーで劣っていた日本。
池選手のロングパスによって得点力が一気に上がりました。
どこにスペースがあってどこに投げれば取りやすいかってのをやっぱりちゃんと考えてパスを出すんで受け手としてはすごく取りやすいパスが来てやっぱ助かってるっていうのはありますよね。
キラーパスみたいな形になると思うんですけど…。
今まで彼みたいなタイプはなかなかいなかったので彼が入ってきてああいうパスができるとすごく日本には有利だろうと。
池選手のロングパスはたゆまぬ努力でできる事を一つずつ積み重ねて完成しました。
その原点は初めて出会った障害者スポーツ車いすバスケットボールでした。
始めた頃右腕しか使えない池選手にはこの競技は無理だと周囲から反対されました。
池選手は諦めませんでした。
まず重いバスケットボールを投げるために必要な右腕の筋肉を徹底して鍛えました。
そしてどんな体勢からでもシュートを決められるよう一人練習を重ねました。
右腕でボールを巧みに操れるようになった池選手は日本代表候補に選ばれるまでに成長しました。
そんな池選手が自分の右腕が最も生きると感じたスポーツが車いすラグビーでした。
3年前から本格的に始め正確に的に当てる練習を繰り返しコントロールに更に磨きをかけてきました。
できる事を一つずつ増やしていく事によって初めてその自信が…「あっこれできる」っていう自信がついたりじゃあ次の事チャレンジしてこれもできた…。
それができる事によって自分の人生の選択肢というかそういうのが増えていったっていう感じですね。
僕の場合は。
せ〜の!すげえ!あえて困難に立ち向かい不可能といわれていた事を実現してきた池選手。
みんな質問いっぱい考えてきた?はい。
はい。
小学校などで自らの体験を話す活動をしています。
そこで必ず話す事があります。
僕の今の目標です。
はい。
その時にはお休みもらいます。
亡き友人たちは自分の生きざまを常に見つめている。
池選手の体に大きな障害を残した15年前の事故。
中学時代の友人4人と車で出かけた時の出来事でした。
街路樹に激突した車が炎上。
3人が亡くなりました。
何かこう…う〜ん…自分がこう…自分が生き残って…申し訳ないっていう気持ちもあったんですけど…。
不自由になった体。
亡くなった友のために自分は何ができるのか思い悩む日々が続きました。
事故から5か月後転機が訪れました。
同じ病院に入院していたおばあさんが……と語りかけてくれたのです。
こんな自分でも人の役に立てる。
初めて生きる希望が見えた瞬間でした。
亡き友のためにも一生懸命生きなければならない。
自分の…言い方はあれなんですけどそこで一度人生が終わったみたいなイメージでそこからスタートしてステップアップする。
友人たちの分まで自分がしっかり生きて生きた証し残すっていうとちょっと大げさなんですけど…。
ワンツースリー!
(一同)ジャパン!パラリンピックの切符を争うアジア・オセアニア選手権を翌月に控えて日本代表が集まりました。
そこももう一回ちょっと意識していきましょう。
最大のライバルはオーストラリア。
リオでメダルを取るためにも負けられない相手です。
この合宿で日本は新たな戦略に取り組み始めました。
きっかけとなったのは2年前のオーストラリア戦でした。
池選手のロングパスが徹底的に封じられたのです。
パスを出そうとした池選手にオーストラリアの選手が次々と襲いかかります。
パスコースが完全に塞がれました。
再び囲まれたこのシーン。
苦し紛れのロングパス。
失敗。
7点差の大差で敗れました。
前から後ろから狙われて…洗礼を受けたというかねラグビーの。
本当にその時にすごい世界だなというふうに思いましたね。
世界のレベルの高さ。
池選手のパスだけでは強豪に太刀打ちできない。
そこで考えたのがロングパスを警戒する相手の裏をかく作戦です。
相手はロングパスを警戒して池選手とパスを受ける選手の2人にディフェンスを集中させます。
注目したのは大きく空く手前のスペースです。
ここにショートパスを出したり自らボールを持ち込んだりする事で相手の陣形を崩す事ができます。
相手がそのスペースを消そうとしてきたら得意のロングパス。
(ホイッスル)この戦略の鍵を握るのは池選手の走力です。
パスを投げるだけでなく手前のスペースに素早く走り込む力と自分がパスの受け手となって走りきる力が求められます。
更に池選手をサポートする選手の存在も欠かせません。
その役割を担うのが今井友明選手です。
短いパスをつないで池選手が走る場面。
今井選手は池選手にタックルしようとする相手をいち早く止めます。
今井選手は障害が重いため素早く動く事はできません。
しかし新しい戦略ではより俊敏な動きが求められます。
合宿では池選手や相手の動きについていく練習を重ねていました。
新戦略では選手同士の連携がこれまで以上に重要になります。
合宿中毎晩議論を重ねました。
もっともっと話して…チーム全体で練習できたのは僅か4日間。
選手は各自地元に帰ってレベルアップに取り組む事になりました。
池選手は走力をアップさせるためこれまで行った事のないトレーニングに取り組み始めました。
体幹と呼ばれる体の中心部を鍛えるトレーニング。
激しい動きの中でも安定して走れるようにするためです。
池選手はランを苦手にしています。
左の腕と足に大きな障害があるため左右のバランスをとるのが難しいのです。
相手選手に激しく当たられ転倒する場面が多かったのです。
実は池選手はこれまで本格的に体幹を鍛えてきませんでした。
交通事故の時のやけどで腹筋の一部を損傷したからです。
傷ついた筋肉をそもそも鍛える事ができるのか分かりませんでした。
5…。
4…。
今回池選手はトレーナーに頼み体幹を鍛える事ができそうなメニューを特別に作ってもらいました。
ラストラストラスト!ラストラスト!はいOK!きつい…。
こちらはバランスボールを使ったメニュー。
バランスをとって乗る事だけでも難しいトレーニングです。
誰よりも多く努力する事で不可能とされた事を実現してきた池選手。
安定した走力を身につけるための厳しいトレーニングが続きました。
少しだけ残ってる筋肉が徐々に大きくなってきたり回復する事によって前よりは体は強くはなってはきましたね。
継続してれば僅かに残された機能も時間とともに回復したりトレーニングによって生まれ変わったりする事があるんだなっていうふうには感じますね。
池選手の走りをサポートする役割を担う今井選手。
役場での仕事が終わったあとの練習を増やす事にしました。
中学生の時首を骨折。
手足の感覚を失いました。
両手の拳を開く事さえ困難です。
それでも相手に走り負けたくない一心でトレーニングを続けます。
6年前に車いすラグビーと出会った今井選手。
重い障害があっても参加できるこの競技に生きがいを感じています。
「縁の下の力持ち」っていうんですかね目立つプレーヤーがいる陰にはやっぱり陰で動いてるプレーヤーがいてその光を浴びてる選手をもっと輝かせるために…。
自分がそういう道を作ってるからゴールができるっていうふうに考えると自分のおかげでゴールができてるんだぞっていうそれが楽しくなってきましたね。
今井選手はリオに向けた決意を玄関の扉に貼っています。
自分が池選手を引っ張るぐらい強い気持ちで試合に臨む。
この日クラブチームの大会で今井選手と池選手が対決しました。
練習の成果を確かめ合う絶好の機会です。
(ホイッスル)試合開始から今井選手は池選手を密着マーク。
池選手は磨いてきた走力で振り切ります。
今井選手も負けてはいません。
(ホイッスル)
(拍手)再び池が前へ突破。
2人は車いすをぶつけ合う中で互いの成長を実感していました。
ナンバーワンプレーヤーにボールを出させないっていうところではある程度そういうディフェンスのところではうまく決まってたかなっていう…。
味方としては心強いプレーヤーなので敵となるとやっぱ脅威な存在ではありますね。
ちょっと今井に触らせ過ぎたかなって。
もっとこう触らせないぐらい走りたかったんですけど。
やっぱり頼もしいなっていう逆に思いましたけど。
アジア・オセアニア選手権が間近に迫ったこの日。
オーストラリアをイメージしてターンの練習を繰り返す池選手。
ギリギリまで自分のできる最大限の努力を尽くします。
亡くなった友人のお墓。
活躍を誓います。
もっともっと頑張って…リオパラリンピックの出場権を懸けた大会が開幕しました。
日本は2連勝と順調なスタート。
3戦目の相手は宿敵オーストラリアです。
(一同)オージー…ウ〜!
(場内アナウンス)「ユキノブ・イケ」。
果たして新しい攻撃パターンは通用するのか。
(ホイッスル)今キックオフ!さあ日本のボールとなりました!黒基調のユニフォームが我らがジャパンです!第1ピリオド。
早速池選手が練習してきたプランどおりに敵陣へ走り込みます。
相手がロングパスを警戒するあまり手前に大きくスペースが空いていました。
(観客)ニッポン!ニッポン!
(ホイッスル)一方オーストラリアもスピードのあるランで得点を重ねていきます。
(ホイッスル)試合は一進一退の攻防に。
(ホイッスル)オーストラリアは徐々に日本の戦略に対応を始めました。
(ホイッスル)このプレー。
日本選手が手前のスペースでパスを受けました。
しかし2人に囲まれてしまいました。
結局2点差をつけられ前半を終えました。
後半。
試合の流れを大きく変える今井選手のプレーが飛び出しました。
9番の今井選手が作ったスペースにしっかりと走り込みましたね。
しっかりボールキープしてる!池につけてきた10番をブロック。
今度は3番の選手が。
今井がすかさずタックル。
絶妙のコンビネーションが生んだゴールでした。
今度は池選手が磨いてきた走力が力を発揮します。
スピードで相手を上回りボールを奪いました。
日本ついに逆転。
そして最終第4ピリオド。
オーストラリアが手前のスペースを潰そうと前がかりになっていたその瞬間。
伝家の宝刀ロングパス。
チーム一丸となって取り組んだ新たな戦術が実を結びました。
このあとリードを守り続けた日本。
(観客)87654321…。
(ホイッスル)日本勝利!56対54です!前回のパラリンピックの王者を破る大金星でした。
一つ結果が出たっていう事がやったぞって感じじゃないけどやっと勝てたっていう何かジワッと来ましたね。
ワンツースリー!
(一同)ジャパン!日本は決勝戦でも再びオーストラリアに勝利し初優勝。
リオパラリンピックの出場権も獲得しました。
これから仲間たちと共にメダルを目指す戦いが始まります。
大きく言うと本当に生きててよかったというかそういう気持ちにはなりますけど…池透暢選手35歳。
絶望のふちから困難を一つ一つ乗り越えた末につかんだパラリンピック。
その視界には亡き友へ誓った金メダルがはっきり見えています。
2015/12/03(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「亡き友とともに戦う 車いすラグビー 池透暢」[字]
車いすラグビー日本代表、池透暢選手。正確なロングパスで11月強豪オーストラリアを破る立役者に。努力の裏には交通事故で3人の友を失った過去が。限界に挑む日々に密着
詳細情報
番組内容
11月、アジア・オセアニア選手権で初優勝し、来年のパラリンピック出場を決めた車いすラグビー日本代表。その司令塔がキャプテンの池透暢選手。15年前の交通事故で全身やけどを負い左足を切断。同時に友人も失った。「亡き友のためにメダルをとる」。その思いで厳しい練習を乗り越えてきた。オーストラリア戦の勝利の裏には、これまで苦手としていたランを磨くため、過酷なトレーニングに挑む姿があった。挑戦の日々を追った。
出演者
【語り】袴田吉彦
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他の球技
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