離れた場所にいる医師と患者を情報通信機器でつないで行う「遠隔診療」。これまでは「原則禁止」と認識され、活用が進んでこなかったが、その状況が変わりそうだ。きっかけは2015年8月に厚生労働省が出した1本の通達だ――。
東京都心で働くビジネスパースンなどを対象に内科診療を行っているお茶の水内科 院長の五十嵐健祐氏は2015年夏のある日、医療関係の知人や法律の専門家と熱のこもった議論を交わしていた。
テーマは、同年8月10日に厚生労働省(厚労省)が各都道府県知事宛てに出した1本の通達である。「臨床医の立場から、この通達をどう解釈したらよいか」─―。議論は長時間、尽きなかった。
事実上の「解禁」
議論の対象となった通達は、互いに離れた場所にいる医師と患者を情報通信機器でつないで行う診療、いわゆる「遠隔診療」に関するもの。同省が過去の通知で示した遠隔診療の適用範囲を、必要以上に狭く解釈しなくてよいことを強調する内容だった。
これまで遠隔診療は、離島や僻(へき)地の患者を診察する場合など、対面診療が物理的に難しいケースを除いて「原則禁止」と捉える医療従事者が多かった。患者との対面診療を原則とする医師法第20条への抵触などを恐れてきたためだ。
遠隔画像診断のように、医師同士をつなぐ「Doctor to Doctor(DtoD)」の領域では遠隔医療の活用が比較的進んでいるのに対し、「Doctor to Patient(DtoP)」の領域での活用が遅れてきた理由がここにある。
今回の通達では、厚労省が遠隔診療を事実上解禁─―。関係者の多くがそう受け取った(図1)。心電や呼吸状態などを計測できるウエアラブルセンサーを手掛ける米Vital Connect社の大川雅之氏(Vice President and General Manager, Japan)は、今回の通達は「遠隔診療に関心を持つ者にとっては大きなインパクトがあった」と話す。
社会や医療現場からの要請(ニーズ)、それに応える技術(シーズ)の両面からも、遠隔診療の活用が期待される場面は確実に増えている。変わり始めた遠隔診療の潮目。それを読み解く上で、まずは今回の通達の中身を見ていこう。
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