人の命を軽視する重大な裏切り行為だ。血液製剤やワクチンの有力メーカーが国の承認を得ていない方法で製品をつくり、組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)していた。長年、不正を見逃してきた国の責任も重い。
厚生労働省は三日、熊本市の一般財団法人「化学及(および)血清療法研究所」(化血研)へ立ち入り検査に入った。行政処分する方針だ。
専門家による第三者委員会が公表した報告書はこう言い切った。不正は四十年以上前から始まり、血液製剤十二製品すべてで行われていたという。
歴代理事長らは不正の事実を認識し、しかも隠蔽にも関与していた。国の定期査察の際には、過去の記録に見せ掛けるために紙に紫外線を浴びせて変色させたり、偽の出納記録を作成するなどしており「極めて悪質な方法で隠し通した」と報告は指摘。安全性よりも、企業の利益を優先させる姿勢があったと断じた。
不正製造は今年五月、厚労省に内部告発が寄せられ、発覚した。同省は血液製剤とワクチンの出荷差し止めや自粛を要請した。化血研はインフルエンザワクチンの三割を供給し、流行期を前にワクチン不足が懸念された。国民の不安を招いた罪は重い。
第三者委は、重大な副作用は報告されておらず、安全性に大きな問題はない、としている。だが、血液製剤は感染リスクをなくすため、国の承認通りに製造することが厳しく求められている。未承認の方法でつくった製品を使った患者への健康被害はなかったのだろうか。疑問があれば、検証すべきだろう。
また、巧妙に隠されていたとはいえ、長年にわたり不正を見抜けなかった厚労省にも猛省を求めたい。定期査察は医薬品医療機器総合機構(PMDA)に委託し、二年に一回程度のペースで各社に行われている。しかし、日時や内容などを事前に通告していた。化血研は査察前に偽造した製造記録を準備し、不正発覚を免れていた。犯罪にも等しい。
同省は今後、一部抜き打ち検査をする方針を示したが、当然だ。検査は実効性がなければならない。官民もたれ合いのような体質を排除するべきだ。
国民の命や健康に直結する医薬品の世界では、厳しい法令順守が求められる。失墜した信頼は大きい。再発防止策を国民に示してほしい。
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