血液製剤やワクチンの国内有力メーカー「化学及(および)血清療法研究所」(化血研、熊本市)が長年、国の承認を得たのとは異なる方法で多くの製品をつくっていた。しかも当局による査察をごまかすために製造記録を偽造するなど、組織ぐるみで不正を隠し続けてきたようだ。
国民の安全に直結する医薬品での不正は言語道断だ。
化血研の設置した第三者委員会がおととい公表した報告書は「常軌を逸した隠蔽(いんぺい)体質」を克明に記している。
報告書に間違いがなければ、極めて悪質で医薬品医療機器法(旧薬事法)違反が疑われ、行為者への刑事罰や化血研への罰金も考えられる。
厚生労働省は刑事告発も視野に入れて事態解明に努めるとともに、不正の再発防止策を早急に検討し実施すべきである。
報告書によると、不正のそもそもの動機は生産優先が大きかったようだ。
製造方法の変更を申請することで製品化が遅れたり、関連する多数の既存製品でも変更申請が必要になったりすることを嫌ったのだ。「患者を軽視し、企業の利益を優先させる姿勢が強くうかがえる」という。
不正の多くは、血液製剤の製造部門と経営陣だけが知り、当局だけでなく内部の品質点検などでも、うそにうそを塗り重ねて隠していた。
背景には順法意識や規範意識の著しい欠如や、一部幹部への権力集中、組織の縦割り・閉鎖性、品質管理部門の機能不全などがあったと指摘する。
組織風土に染みついた問題を化血研は解決できるのか。
市場で取引先や消費者から拒絶されれば、企業は退場を余儀なくされることも多い。
化血研は国内で唯一の薬もつくっており、簡単に退場処分にできない面がある。だが、血友病患者向けに非加熱血液製剤を製造販売し続け、薬害エイズの責任を問われた化血研が、同時期に悪質な不正を続けていた事実は極めて重い。
厚労省側は、巧妙に隠蔽された不正にどう対処すればよかったのか、検証が欠かせない。
隠蔽が巧妙で、査察などで見破ることは困難だというなら、まずは内部告発を丁寧に扱うことを徹底すべきだろう。
事実、一連の不正発覚は内部告発が一つのきっかけだった。
組織の不正を通報しても不利益を被らず、実際的なチェックが機能する。そんな内部通報の仕組みを製薬企業も、厚労省側も充実させたい。それが不正の抑止につながるのではないか。
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