(cache) 化血研不正 厚労省はなぜ見過ごした

朝日新聞 2015年12月04日

血液製剤不正 巧妙な隠蔽への対応を

血液製剤やワクチンの国内有力メーカー「化学及(および)血清療法研究所」(化血研、熊本市)が長年、国の承認を得たのとは異なる方法で多くの製品をつくっていた。しかも当局による査察をごまかすために製造記録を偽造するなど、組織ぐるみで不正を隠し続けてきたようだ。

国民の安全に直結する医薬品での不正は言語道断だ。

化血研の設置した第三者委員会がおととい公表した報告書は「常軌を逸した隠蔽(いんぺい)体質」を克明に記している。

報告書に間違いがなければ、極めて悪質で医薬品医療機器法(旧薬事法)違反が疑われ、行為者への刑事罰や化血研への罰金も考えられる。

厚生労働省は刑事告発も視野に入れて事態解明に努めるとともに、不正の再発防止策を早急に検討し実施すべきである。

報告書によると、不正のそもそもの動機は生産優先が大きかったようだ。

製造方法の変更を申請することで製品化が遅れたり、関連する多数の既存製品でも変更申請が必要になったりすることを嫌ったのだ。「患者を軽視し、企業の利益を優先させる姿勢が強くうかがえる」という。

不正の多くは、血液製剤の製造部門と経営陣だけが知り、当局だけでなく内部の品質点検などでも、うそにうそを塗り重ねて隠していた。

背景には順法意識や規範意識の著しい欠如や、一部幹部への権力集中、組織の縦割り・閉鎖性、品質管理部門の機能不全などがあったと指摘する。

組織風土に染みついた問題を化血研は解決できるのか。

市場で取引先や消費者から拒絶されれば、企業は退場を余儀なくされることも多い。

化血研は国内で唯一の薬もつくっており、簡単に退場処分にできない面がある。だが、血友病患者向けに非加熱血液製剤を製造販売し続け、薬害エイズの責任を問われた化血研が、同時期に悪質な不正を続けていた事実は極めて重い。

厚労省側は、巧妙に隠蔽された不正にどう対処すればよかったのか、検証が欠かせない。

隠蔽が巧妙で、査察などで見破ることは困難だというなら、まずは内部告発を丁寧に扱うことを徹底すべきだろう。

事実、一連の不正発覚は内部告発が一つのきっかけだった。

組織の不正を通報しても不利益を被らず、実際的なチェックが機能する。そんな内部通報の仕組みを製薬企業も、厚労省側も充実させたい。それが不正の抑止につながるのではないか。

読売新聞 2015年12月05日

化血研の不正 医薬品メーカーとして失格だ

安全性が最優先されるべき医薬品を製造する組織として、あってはならない不正行為だ。

血液製剤やワクチンのメーカーである一般財団法人「化学及血清療法研究所」(化血研)が40年前から、厚生労働省に承認されていない方法で製造を続けていた。

一部の血液製剤製造に際し、原料に添加物を入れて加工処理を容易にするなど、生産効率を上げるための不正を繰り返していた。

厚労省の検査の際に、虚偽の記録で発覚を免れていた。書類に紫外線を当てて古いものに見せかけるといった偽装も重ねた。製造現場から報告を受けた理事長らも、不正を黙認していた。

化血研の第三者委員会が、調査報告書で「重大な違法行為であり、常軌を逸した隠蔽体質だ」と非難したのも当然である。

厚労省は、化血研の立ち入り検査を実施した。医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく業務改善命令などの行政処分を科す方針だ。実態を徹底解明し、組織改革を進めねばならない。

化血研は、薬害エイズ訴訟の被告企業だった。1996年に和解が成立した際、原告と医薬品事故の再発防止を誓約した。これと同時期に、不正製造が行われていたことも看過できない。

長期にわたる不正を見逃してきた厚労省の責任は重い。製造工程のチェックなどの際に、なれ合いはなかったのか。

塩崎厚労相は、「抜き打ち検査をやらなければいけない」と、医薬品メーカーの検査方法を見直す意向を示した。実効性のある再発防止策を講じてもらいたい。

現時点で、重大な副作用などの健康被害は報告されていないという。厚労省は、安全性や品質を確認する国家検定を製品出荷の際に実施しているため、大きな問題はないとの見解を示している。

厚労省は問題発覚後、化血研に出荷の自粛を求めたが、安全が確認された製品などから順次、供給が再開されている。不安が広がらないよう、厚労省と化血研には、安全だと判断した根拠を丁寧に説明することが求められる。

化血研が血液製剤とワクチンの主力メーカーであることが、対策を難しくしている。

流行シーズンを迎えたインフルエンザワクチンの3割は、化血研が製造を担う。化血研だけが製造している血液製剤の供給が途絶えれば、患者の命にもかかわる。

厚労省は、安定供給にも目配りせねばならない。

産経新聞 2015年12月04日

化血研不正 厚労省はなぜ見過ごした

血液製剤やワクチンの国内メーカーである一般財団法人「化学及血清療法研究所」(化血研)が、40年にわたって承認外の不正な製造を続けていたことが専門家による第三者委員会の調査で明らかになった。

血液製剤に関しては製造記録の偽造も繰り返すなど「常軌を逸した隠蔽(いんぺい)体質」と委員会が指摘するほど悪質な不正である。厚生労働省は業務改善命令などの行政処分を検討する方針だが、ことはそれで済む問題なのか。

そもそも、血液製剤やワクチンの国内メーカーはそれほど多くはない。長期の不正や隠蔽に厚労省は本当に気づかずにいたのか。この点にも疑問が残る。

第三者委員会の調査報告によると、化血研は昭和49年ごろから国の承認と異なる工程で血液製剤を製造しはじめ、平成元年ごろには承認外の抗凝固剤を入れるなどの行為が常態化していた。

しかも、20年前からは医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく国の調査で不正が発覚しないよう、製造記録の偽造などの隠蔽工作も行っていた。2日付で辞任した宮本誠二理事長は「見て見ぬふりをしてきた」と組織ぐるみの不正であることを認めている。

化血研は昭和20年、熊本医科大学(現・熊本大学医学部)を母体に発足し、薬害HIV訴訟の被告にもなっている。平成8年に薬害の再発防止を誓って和解が成立した際、その誓いの裏で不正と隠蔽が続けられていたことになる。

委員会は血液製剤やワクチンの安全性に問題は認められないとしているが、そうだとしても不正や隠蔽の存在は、医療に対する信頼性を大きく損なってしまった。

血液製剤を生涯にわたって使用する患者は少なくないし、ワクチンへの信頼が失われれば、接種を控える人が増える恐れもある。感染症の流行が拡大し多くの生命を奪うことにもなりかねない。

製品による直接の被害がなくても、信頼性の喪失が国民の生命や健康に及ぼす影響は大きい。

献血血液を原料とする血液製剤も、母子保健や感染症対策の基本となるワクチンも国内のメーカーは少数であり、専門家間の情報交換も緊密に行われているのに、監督官庁が40年も不正に気づかずにいられるのはどうしてなのか。安全監視の姿勢も含め、不正の背景を解明すべきだろう。

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