今年は「これからは積極的に読書量を増やそう」と思った1年だった。
4月に会社に入社して働きはじめたこともあり、「あれもこれも知らない…。まずい。」と焦りが出てきたという理由が大きい。実際、かなり多くの時間を読書に費やしてきたかというとそうでもない気もするが、それでも本から得られた学びは大きく、知人との会話、ちょっとした仕事の進め方、その端々で読書の効果を少しずつ感じた。
ビジネス書や小説、エッセイ、あまり別け隔てなく読んできた1年だったが、今年最も読んで印象に残った本は、お笑い芸人・ソラシドの本坊元児さんが書いた『プロレタリア芸人』かもしれない。
これは、1920年〜1930年代前半にかけて流行したプロレタリア文学と同様、お笑い芸人として活動する傍ら、主に現場作業員としての仕事で生計を立てている本坊さんのエッセイ集。
200ページ弱、とにかくひたすらお笑い芸人として売れないことへの苦悩/怒り/諦め、そして現場作業員としての日々の暮らしぶりと葛藤が描かれている。読んでいて苦しく、切ない場面がほとんどなんだけれど、でもどこかおかしみがあって。悲壮感をあまり感じることはなく、「なんか申し訳ないな…」と思いながらもクスっと笑ってしまうような感じ。これを読みながら、ダウンタウンの松本さんが作詞した『チキンライス』という歌の歌詞にある、
最後は笑いに変えるから 今の子供に嫌われるかな?
という歌詞が真っ先に浮かんできた。やはり、芸人とはこうあるべきなんだな、と。どんな環境に立たされても、最後は”笑い”に変える。それだけで、何倍ものポジティブなエネルギーになって、人の心に入ってくる。そんな、笑いの”強さ”と、それを本書で体現している本坊さんのたくましさ、かっこよさに打ちのめされた。
さらに、芸人として生きることの厳しさもひしひしと伝わってくる。ソラシドといえば、関西のお笑いファンの間ではそこそこ名のしれた芸人だったように思う。そんな彼らでさえ、上京してきてからはこんなありさまで、いまテレビで活躍している芸人がどれだけの実力・運の持ち主なのかということを物語っている。そして、「お笑い芸人」と名乗っている人のそのほとんどが、裏ではこういう生活を送ってると想像すると、なんかもう心臓をキューって掴まれる感覚に陥る。
僕はお笑い芸人を尊敬している。自分の人生をかけて、観客を笑わせるなんてそんな仕事はものすごく尊いと思う。「芸人」と聞くと、やれ「ゲスい」だの「野蛮」だのって罵られがちだけど、本来的には、「人を笑わせる」というなんとも素敵なバリューをもたらして、それでお金を稼ぐというなんともかっこいい商売だと思う。
だからこそ、この本はちょっぴり寂しい。せっかくなら、こういう本坊さんみたいな才能のある芸人さんには、持てる資質・コストの全てをお笑いに捧げていてほしいと思う。
最後に
お笑い芸人の本としては、今年は又吉さんの『火花』がもっとも名作にふさわしいとは思うけど、それに次いでこの本を推したい。というか、個人的にはこっちの方が断然好きだし、変な気持ちの揺さぶられ方をした久しぶりの本だった。
そして最後に余談だが、2016年以降しばらく「小説」から離れてみようかな、ということを考えている。理由は、自分はあまり文章を読むスピードが早くなく、小説を楽しむのに時間がかかりすぎてしまうからだ。
たとえば、普通のビジネス書なら1冊読むのに2〜3時間程度で済むのに、普通の文庫本の小説となると、10時間くらいは平気でかかってしまう。毎日寝る前の1時間ずつ読んでも、1週間以上かかると気付いたとき、「ちょっとこれは考えものだな…」と思った。
別に、「小説はコスパが悪い」なんて言うつもりはない。伊坂幸太郎の本は好きでたくさん読んでいるし、なんだったら20冊くらいいろんな小説が押し入れに積んである。けれど、”僕にとって”小説は楽しさを享受するための過程が長すぎる。
そういう経緯があって、しばらく小説は置いて、それ以外の「知っていなきゃいけない」知識を得るための本を読んだり、もっと仕事をうまい感じに進められるような本をひたすら読んだりするなど、本から最大の効果を得るべく読書のやり方を見なおそうと思う。