ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)への投稿は時として大問題を引き起こすことがある。「お前の赤ん坊を豚のエサにしてやる」-。ツイッターで脅迫とも受け取れるそんな汚い書き込みをしていたアカウント(名前)の主は、新潟県の地方紙「新潟日報」の支局で現場を統括する報道部長だった。報道に携わる者とは思えない汚い言葉の投稿は匿名性の影に守られながら、2年間に渡って続けられていた。
■弁護士への中傷があだに
厳しい冬の足音が近づいていた新潟県上越市。義の戦国武将・上杉謙信の城下町としても知られるこの町で、その男は「壇宿六(闇のキャンディーズ)」のアカウントを使用し、ツイッター上で「義を欠く」書き込みを繰り返していた。
「うるせーな、ハゲ」「クソ馬鹿やろう」「プロのハゲとして生きろ」-。
11月20日以降、そんな激しい“口撃”にさらされていたのは新潟県弁護士会に所属する高島章弁護士。新潟水俣病第3次訴訟の原告弁護団長を務める人物だ。
だが壇宿六はこの水俣病訴訟に関しての投稿で致命的な過ちを犯してしまう。
「こんな弁護士が訴訟の主力ってほんとかよ」「人を介して三次訴訟の原告に伝わるからな(俺が伝えられるからな)」(原文ママ)
投稿主は報道関係者ではないのか-。ネット空間での犯人探しは早く「ホシ割れ」は時間の問題だった。ツイッター利用者の指摘を受けた高島弁護士が23日、新潟県の地方紙「新潟日報」本社に電話したところ、まもなく同社上越支社報道部長を務めていた坂本秀樹氏(53)の投稿であることが判明した。
坂本氏は24日、高島弁護士の事務所を訪れ謝罪。ツイッター上でも謝罪文を掲載したが、新潟水俣病4次訴訟について、「和解」と「結審」を取り違える記者としての不勉強ぶりからのミスを訂正するというおまけ付きだった。
■人権侵害や差別につながる内容とは
だが、坂本氏の紙面にできないような言葉の矛先は高島弁護士に対してだけ、向けられていたわけではなかった。
新潟日報は11月27日付朝刊の社会面にこのようなおわび記事を掲載している。
「13(平成25)年ごろからツイッター上での論争の中などで、人権侵害や差別につながるような内容を、著しく品位を欠いた表現で繰り返し投稿していた」
新潟日報社は具体的内容を明かさないままだが、壇宿六のアカウントでの投稿は他のツイッター利用者を中傷・脅迫する罵詈(ばり)雑言が満ちあふれていた。
「死ね。それとも、殺されたいのか」、「これから君のことを洗わせて(※「調べる」という意味)もらうわ。会社やら学校やら、大変やな」、「お前の赤ん坊を、豚のエサにしてやる!」、「お前が本能に任せて性行為した、クズみたいな男と娼婦のお前の間に生まれた薄汚いガキ!」、「滋賀県人は人間のクズで女はみんな売春婦」-。
同社の調べに対し、坂本氏はこうしたヘイト書き込みの大半を認め、理由について「仕事のストレスなどがあり、酒を飲みながら投稿してしまった」と話しているというが、背後には別の要因が透けてみえる。
■デモで日当 会社は調査を終了?
投稿内容のほとんどが削除された今も確認できる壇宿六の自己紹介部分にはこう記されている。
「レイシスト、ファシスト排除!戦争法をぶっ潰せ!安倍はやめろ!自民党は民主主義の敵!日本に本当の民主主義を!」
政治思想が背景にあるのは想像に難くなく、実際に壇宿六のアカウントでは、意見が対立すると、人種差別主義者や右翼と決めつけて、前述のように口汚くののしっており、自民党をドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーが率いたナチスと同一視する投稿もあった。
平成25年9月の投稿には「東京大行進にいくための、新幹線グリーン席ゲットー!」という文面が踊っている。
前後の文脈から推測すると、人種差別を訴えるある団体の活動に対して、実力行使で反対する団体のデモに参加する予定であることが読み取れるが、投稿内容には「日当もデルから最高!」と続けられていた。
新潟日報社はこの件についても調査をしたとしているが、産経新聞社の取材に対して「デモの参加や日当の有無などについて個別の案件の質問には応じない」と回答。同社は11月25日付で坂本氏を無期限・無給の懲戒休職処分とした。
行き過ぎたヘイト投稿の末に事実上のクビ宣告を受けた坂本氏だが、かつてツイッターには、こう投稿していた。
「覚悟してヘイトしてきたんだろ?仕事もクビ(中略)覚悟でさ。今更、逃げるなよ!逃げないよな?どんな社会的制裁があろうとも、お前ら自信もってやってきたんだろ?」
この言葉はいま、本人の胸にどう響いているのだろうか。
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