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Chikirinの日記 RSSフィード

2015-12-05 東京一極集中と地方の衰退は無関係

「東京一極集中」と「地方の衰退」をセットで語る人が多いんだけど、このふたつって何の関係もないよね。

だって東京一極集中の対立概念は、地方再生ではなく、2大都市集中、もしくは、複数大都市への集中、なんだから。

ほら↓

<先進国の例>

・フランス=パリ一極集中

・イギリス=ロンドン一極集中

・日本=東京一極集中


vs.


・アメリカ=ニューヨーク,ボストン、ワシントンDC,シカゴ、サンフランシスコなど複数大都市集中

・ドイツ=ベルリン、ハンブルグ、ミュンヘン、ケルン、フランクフルトAMなど、複数大都市集中

・カナダやオーストラリアもこちらのタイプ

<中進国の例>

・韓国=ソウル一極集中

・タイ=バンコク一極集中

・フィリピン=マニラ一極集中


vs.


・中国=北京、上海、広州、深セン;、武漢、天津など複数大都市集中

・インド=デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、バンガロールなど、複数大都市集中


・ベトナム=ハノイとホーチミンの 2大都市集中

・ブラジル=サンパウロとリオデジャネイロの 2大都市集中


上記からわかるように、先進国にも中進国にも一極集中タイプの国と、複数都市に人口や経済力が分散してる国があって、後者は、数個の大都市への集中型と、二大都市型に分かれてるんです。


特定の国の姿がどのタイプになるかは、

・国土の大きさ

・歴史的な経緯

・国内交通機関の発達の度合い

などによって決まりますが、首都移転を実施することで一極集中から 2大都市型に移行させるなど、人為的に変更することも可能です。


日本でも大阪の橋下徹氏は、「東京一極集中はダメ」「大阪は東京と肩を並べられる 2大都市を目指すべきだ」と主張しており、

前回の住民投票では、結果こそ「東京一極集中のままでよい。大阪は今のまま変わりたくないので」ということでしたが、

得票数はかなり拮抗していたので、「東京と大阪の 2大都市型を目指したい」という人もかなり多いんでしょう。


また道州制が実現すれば、福岡や名古屋などが東京・大阪に並ぶ都市へと発展し、複数都市型の国への道も開けます。

道州制が是か否かという議論は、まさに「東京一極集中は是か非か」という議論なんです。

たまに「東京一極集中にも反対。道州制にも反対」の人がいて驚かされますが、そういう人って、この課題の全体的な構図が理解できてないんですよね。


みなさんは、

・東京一極集中が好ましいと思ってますか?

・それとも、東京大阪の 2大都市スタイルを目指すべきという意見?

・もしくは、東京大阪だけでなく、福岡や名古屋など複数大都市型を目指すべきと考えてる?


私は東京一極集中より、道州制による複数都市型(アメリカ、ドイツ、中国型)のほうがよいと思っていますが、他都市にその気がないなら(=変化が嫌いなら)仕方ないです。

自分が住むエリアを東京と並ぶ都市にしたいかどうかは、そのエリアに住む人が決めることなので。


いずれにせよ!


限界都市だの消滅都市だのといった地方の衰退問題と、東京一極集中は完全な別課題です。

「東京か地方か」みたいな語り方をする人は、予算の配分方法の話と、都市構成のあり方がごっちゃになってるのでしょう。


★★★


では次に、地方の衰退(地方の再生)問題について考えてみましょう。

ここで大事なのは、「都市と人のマッチング市場」が複数存在するということです。

(「市場の選択」という概念については、『 マーケット感覚を身につけよう 』をご覧ください)


「都市と人のマッチング市場」はひとつではなく、複数(日本では 3つ)存在しています。

1)多彩な文化が集積する高刺激で高密度な大都市に住みたい人と、そういった都市である大都市のマッチング市場


2)便利だが混雑はしない地方中堅都市に住みたい人と、そういった地方中堅都市のマッチング市場


3)自然豊かな環境に住みたい人と、そういった少人口地域のマッチング市場


1)の市場にいるのは私のような人です。地方のイオンモールがいくら巨大でも、全く満足できない人。こういう「人」はたくさんいます。

ところが(人側はたくさんいるのに)、この市場の都市側には、東京しか存在していません。だから東京一極集中が起こってるんです。

福岡や名古屋や大阪が本気でこの市場に参入してくれば、一極集中は緩和されるでしょう。


また、東京が何か強烈にネガティブなことをした場合(もしくは、そういう事態に陥った場合)も一極集中は崩れます。

たとえば、テロが頻発する、放射能に汚染される、治安がめちゃくちゃ悪くなる・・・など、なんらかの理由で東京がものすごく住みにくくなれば、東京から大阪や福岡など他の大都市に出て行く人も増えるでしょう。

しかしその場合でさえ流出先は他の大都市であり、もしくは、東京と同じ市場にいる外国の都市なので、地方の衰退が止まったりするわけではありません。


2)の市場は、人口が数十万人以上の中堅都市と、

・通勤ラッシュも激混みもない

・都市部にあるチェーン店はほぼすべて存在してる

・それなりのレベルの教育機関や、ちょっとした文化施設もある

・2000万円もだせば家族で暮らせる十分な家が買える

・そこそこの賑わいと、昔からの友達や家族が近くにいるという安心感の両方が手に入る

みたいなエリアに住みたい人が、マッチングされる市場です。


この市場は、人も多いし都市も多い、競争の激しい市場です。

そして近年この市場では、勝ち組と負け組がはっきりし始めています。

周辺の人口数万人の街や、山沿いの集落から高齢者がどんどん移り住み(多くの場合、一戸建てを売って駅前のマンションを買う形で転居)、

それらの人を目当てに、駅前に新たな商業施設、病院、コミュニティ拠点などが増え始めてている街、

もしくは、

子育て支援策を充実させ、周辺の街から若い夫婦の転居が相次いでいる街、などが出現し始めているからです。

そういった街では、ひととき進んでいた「郊外型のショッピングセンターに車で通う」スタイルから、駅前で歩いて回れるコンパクトシティへの変化、いわゆる“駅前回帰”も起こっています。


この市場にいる都市は、私のような「とにかく大都市に住みたい!」人を東京と取り合っているわけではなく、

「便利だけど混乱も混雑もない快適な地方都市」に住みたい人を、周辺の街や山間部と取り合って、(結果として勝つことにより)地方の再生を成し遂げつつあります。


しかも、今は福岡も名古屋も大阪も、1)の市場ではなく、この2)の市場にいるため、彼らはこの市場での「一人勝ち」「一極集中」という美味しい立場を享受しています。

周辺地域で自然減を遙かに上回るペースで人口が流出しているのは、それらの勝ち組都市への一極集中のためです。


消滅都市やら限界集落などの「地方の衰退」をもたらしているのは、東京ではなく、こういった「地方での勝ち組都市」なのであり、

さらにいえば、政府の掲げる「コンパクトシティ構想」とは、こういう地方における勝ち組的な街を積極的に造っていこうという政策なんです。


最後に3)の市場は、すぐ近くに海や山など大自然が拡がっているエリアで暮らしたい!という人と、そういうエリアがマッチングされる市場です。

よく(都会から企業や若者が集まって活気がでていると)報道されてる徳島県の神山町や島根県の海士町は、この市場に存在しています。


神山町や海士町に集まる若者が、東京や関西など大都市圏から来ていることも多いため、これらの街がまるで1)の市場で東京と比較され、選ばれているかのように考える人がいますが、そうではありません。

1)の市場にいる人は、こういう街に遊びにいったり取材に行ったりはしますが、移住して、そこで子どもを産み育てたりはしません。


そういうことをする人は、もともと3)の市場の人(なんだけど、たまたま東京に生まれたり、たまたま京都で大学に行ったりした人)なのであって、

最初から猥雑でエキサイティングな大都会より、「自然豊かな環境で暮らしたいな、子どもを自然の中で育てたいな、なにかおもしろいコトができる街はないかな? 海士町は面白そうだな。神山町もいいかな」みたいに考える人なんです。


つまり、

・海士町vs東京

・神山町vs東京

で、人を取り合っているのではなく、


・海士町vs神山町vs他の(日本にいっぱいある)大自然のある過疎地

が、そういう人たち=大自然の中で暮らしたい人たち、を取り合ってるわけですね。


さらに言えば、ここ何年もの間、神山町と海士町以外「都市部から若者を集めるのに成功する街」が増えないのは、

この3)の市場自体がたいして大きくもなく、かつ、規模として成長もしていない中、

特定の街だけが「一人勝ち」し、「一極集中」を成し遂げていることを示しています。


市場規模があまり成長しないのは、地方にマーケット感覚のある仕掛け人が少ないことが原因なので、上手くやればもう少し大きな市場になるとは思います。

とはいえ、後いくつかの成功例が出てきても、それは、「東京一極集中の是正」なんかとはなんの関係もありません。

そもそも取り合っている「人」のタイプが違うんですから。

もし今後、海士町以外に「都会から若い人を集めるのに成功する離島」がでてきたら、その離島のライバルは、海士町なのであって、東京ではないんです。


★★★


ここまでで、1)2)3)の市場は異なる市場だということが、おわかりいただけたでしょうか?

そしてどの市場でも、衰退を逃れ、再生・成長を続けている都市は「一極集中」「一人勝ち」を成し遂げているということも。


地方都市が衰退したくないと本気で思うなら、「東京への一極集中、よくないあるよ!」と唱えるばかりではなく、

・自分たちはどんな市場にいて、

・顧客はどんな価値を求めており、

・同じような価値を提供している競合はどの街なのか、

ということを、もっと現実的に考えるべきです。


衰退を続ける地方のライバルは、東京なんかじゃありません。そんなことさえ理解できないようでは=そこまで決定的にマーケット感覚が欠如しているようでは、なにも始まらない。


自分は市場というものがよくわかってないかも、という方にこそ読んでほしい↓


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そんじゃーね


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