東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第40回】 2015年12月2日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

芸人のわたしが、
舞台よりも「東電本店」に
通った理由
――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート1】

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計295万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、吉本興業所属の芸人・おしどりマコちゃんが初対談!
おしどりマコちゃんは、フクシマ原発事故以降、マスコミ記者顔負けの「ロジカルな質問力」で東電幹部も答えに窮する場面も多数あったという。
芸人ながら、タブーといわれる原発事故の真実に、詳細なデータベースで迫る稀有な女性だ。聞けば、以前、鳥取大学医学部生命科学科に所属していたという。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、39回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、精神論やきれいごとでなく、真の科学的データで迫る姿勢が日本でも問われている。
なにごともなかったかのように、次々再稼働される日本の原発。
本当にこれでいいのか?
安倍政権により、真実の声が消される中での対談1回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)

原発事故後、
すぐに東京脱出を図った芸能人たち

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 マコさんは月刊誌『DAYS JAPAN』(2015年7月号)で、

福島県『県民健康調査』検討委員会『甲状腺検査評価部会』小児甲状腺がん『多発』認める。

 という力強い記事を書かれています。
 マコさんの文章を読んでいると、いつも「この人は、どうしてこんなに才能豊かなんだろう」と思ってきました。取材が的確で、記憶力が抜群です。

 30年以上この問題に関わってきた私が、ずっと驚き続けています。相棒のケンちゃんに言ったことがあるけれど、この人は天才ですね。でも、吉本興業所属の人気の「おしどり」という芸人さんなんですよね?

マコ ここにいる相方のケンちゃんと、「夫婦漫才」をやっています!私はフクシマ原発事故が起きてから取材を始めました。それまでは取材することなんて、考えたこともありませんでした

広瀬 漫才師がジャーナリストも始めた、きっかけは、何でしたか?

マコ 2011年に東京に出てきて、すごく張り切っていたんです。私たちは元々西日本の人間でしたから。春休みに、品川よしもとプリンスシアター(4年前に営業終了)の看板キャラクターにしてもらい、楽しみにしていました。その矢先に、東日本大震災と福島第一原発事故が起こったんです。

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。 兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。 東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。 【Twitter】https://twitter.com/makomelo

広瀬 事故が起こったときに、芸能人としては、どうしていたのですか?

マコ 劇場の楽屋で仲間と話していると、東京のタレントが西へ逃げているのがわかりました。芸人も逃げますし、芸人の子どもも、みんな逃げていたの。
 楽屋では、先輩が真顔で、
「車じゃ東京から逃げられないから、みんな、オフロードバイクを買おう」
 と言ったことがありました。
 自分と奥さんの分は買ったけれど、この楽屋にいる人数分だったら手配できるから、「ほしい人は手を上げてくれ」と。

広瀬 オフロードバイクって、山道でも走れるマウンテンバイクのようなものですね。それほどみなさんが必死で逃げようとしていたのですか。知りませんでした。

マコ 東京の楽屋では、毎日そんな話ばかりでした。あるタレントさんが、TBSの冠番組の収録を大阪のMBS(毎日放送)で始めたとか、ミュージシャンが番組で「東日本、がんばろう」って言っているけど、実は全員大阪にいるとか、ね。そういうのを「ツイッターでバラしてやろうか」と言う人もいて……楽屋で崩れ落ちて泣く人もいました。

広瀬 自分たちが、取り残されたような気持ちになったのかもしれませんね。

マコ 私も複雑な思いでした。私たちは春休み子どもキャンペーン(2011年3月19日~31日)だったので、劇場に遊びにきた小学生以下の子どもたちに、ケンちゃんが「天使の羽」を針金でつくってプレゼントしていました。
 でも、タレントは東京から次々逃げている! 劇場に出ている先輩の子たちも東京にいない。それなのに、東京の劇場にファンの子どもたちを集めている! こんなこと、ものすごい矛盾じゃないですか。
 本当は舞台上で、「東京は危ない。逃げられる人は逃げたほうがいい」としゃべりたい! そのことを支配人に相談したら、「何を考えているんだ!」と怒られました。

広瀬 会社としては、原発のことにふれたくなかったのですね。

舞台よりも東電へ! の理由

マコ それで、子どもたちにプレゼントを渡すとき、私が書いた記事も一緒に読んでもらうことにしました。
 記事を書くならば、しっかりした一次情報を取ろうと思って、インターネットで東京電力のライブ中継をつけっぱなしにして、一字一句書き起こしていました。
 すると、会見で出てきた情報が、肝心のテレビに全然流されないことがわかりました。

広瀬 都合の悪い話は、あのころ、テレビ局が表に出さなかったのです。

マコ 会見場の様子を見ていると、質問したくて手を挙げ続けながら、まったく当ててもらえない記者がいました。司会者がその人を露骨に避けているんです(笑)。たまに司会が変わって、そういう人に「間違って」当ててしまうと、ほかの記者が、
「おまえの質問なんか誰も聞きたくない!」
「そんな質問は後にしろ!」
 と野次るんです。

 ニュースが信用できないから、記者会見をライブで見始めたのに、突っ込んだ質問をする記者は黙殺されて、あたりさわりのない質問をする記者だけがよく当たるのよ。あまりにもひどいので、腹が立ってケンちゃんに、
記者会見に行って、『私たちが聞きたいんです』と言い返してやろう」と。

広瀬 上杉隆さんも、あの時の記者会見の異常さを言っていましたね。
 ところで、マコさんが取材している東京電力の記者会見は、いつ、どこでやっているのですか?

マコ 原発事故が起こった2011年3月は、時間に関係なく記者会見がありましたけど、その後、少しずつ回数が減ってきました。いまは、毎週月曜と木曜の午後5時半から東京電力の本店でやっています。

広瀬 それに、ずっと出ているのですね?

マコ 行けるときはほぼ全部出ています。舞台よりも東電に行くほうが多いですからね。

広瀬 偉いなあ。驚きます。でも、事務所(吉本興業)からは止められなかった?

マコ すぐに怒られました。当時のマネージャーに「原発にふれる限り、おしどりの仕事は取らない」と言われました。「傷がつくからダメだ」って。

広瀬 誰が傷つくの?

マコ そう、変よ。だから「私たちの人生だから、仕事がゼロになってもいい! 傷がついてもいいんです」って言ったら、「違う、傷がつくのは会社だ!」と(笑)。

広瀬 へえ、これは驚いたね。

芸人を辞めないと、
発言できないなんておかしい!

マコ だから、原発事故の取材を始めるときに、ケンちゃんに言ったんです。

吉本を辞めることになるかもしれない。ヘタしたら芸人も続けられない。ごめんね、ケンちゃん、でも私、いま取材したいの」って。

 するとケンちゃんが、

いいよ。芸人を辞めることになっても、ついていくから

 と言ってくれて(涙)。
 次の瞬間、ケンちゃんが本屋さんに行って、農業を始める本と、ネットショップを立ち上げる本を買ってきたのです。早い、早い。早すぎるわ!(笑)

広瀬 農業をやっても、ジャーナリストをしてもいいけど、おしどりマコちゃん・ケンちゃんは、芸人を辞めたら絶対ダメだよ! 芸人を続けるからこそ、二人の才能が生き続けるんだ。

マコ そうですね。自分たちは劇場の楽屋で、あの状況がおかしいと思っている先輩たちがたくさんいることを知っていたので、吉本を辞める前例になりたくなかったの。だから、仕事がゼロになっても、吉本に居続けてやろうと思いました。辞めないと、社会のことや原発のことを考えられないというのが、私は一番イヤだと思ってたの。

広瀬 しかし、尋ねにくいけれど、会社との関係は、その後大丈夫ですか?

マコ あるとき「AERA」の記者が、吉本を通して、私が取材している人を紹介してほしいと言ってきたのです。
 私は、「その記者さんと一度お話をさせてもらえますか」とマネージャーに言ったのですが、「とにかく教えろ、調べるぞ」みたいな話になってきたので、これはちょっと面倒くさいことになったなと思って。吉本に「辞めさせてください」と伝えました。
 するとマネージメントのトップが、
「いま、その理由でおしどりが辞めると、全面的にうちが悪いことになるから、保留にしてくれ」
 ということになり、そのあと体制を変えてくれて、マネージャーも変わって、すごく動きやすくなりました。
 誰も私たちのマネージャーはやりたがらないと思っていたら、たまたま大学院で「戦前のジャーナリズム」という修士論文を書いた変わり種の人がいて、引き受けてくれました。それからは、取材についてはマネージャーに報告すれば黙認です。

広瀬 でも普通の舞台では、原発の話はしないというか、できないでしょうね。

マコ 劇場ではあまりしないのですが、相方のケンちゃんは、お客さんのリクエストに答えて針金細工をつくる芸人なので、ときどき「原発つくって」と言われます。

広瀬 原発の何をつくるのですか?

マコ 原子力のマークとか、沸騰水型軽水炉をリアルにつくったりとか。ほら、このイヤリングも。

広瀬 ほうっ、ケンちゃんは、芸術家だけれど、細工の名人だね。
 しかし、芸人さんは、テレビでは原発の話はタブーでしょう?
『笑点』で三遊亭円楽が、ときどきポロッと「再稼働やめろ」というようなことを言ってくれるので、うれしいけれど。

マコ たまたまかもしれませんけど、2012年の秋に、その円楽師匠の事務所のツアーで北海道を回らせてもらって、ありがたかったです。ケーシー高峰先生と、おしどりで。
 ケーシー先生はいま、福島県のいわきにお住まいで、2011年にテレビに出演されたとき、白衣をバッサバッサして、「放射能の産地からきました。みなさんに放射能をプレゼントします」と言って、それがテレビで流れました。

広瀬 それはすごいね。ケーシー高峰はもう80歳を超えているけれど、うまいですね。私は大ファンです。

マコ はい。今年81歳です。「ケーシー先生には誰も注意できなかった」ということらしいですけど、テレビだから衝撃でしたよ。

広瀬 芸能界の大変な、そして貴重な裏話を聞かせていただきました。芸能界にも希望がありますね。

 次回は、「福島県「県民健康調査検討委員会」を牛耳る“二枚舌座長”星北斗の罪」についてお話ししましょう。

(つづく)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

おしどりマコちゃん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム月刊誌「DAYS JAPAN」の編集委員。兵庫県神戸市生まれ。鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんとん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。また現地にも頻繁に足を運んで取材し、その模様を様々な媒体で公開中。【Twitter】https://twitter.com/makomelo