「いつか武道館のステージに立ってみたい」
この熱い夢は地元の同級生森君(仮名)が20年以上前に吐いたセリフ。
先日、その森君と約15年ぶりに再会した。
きっかけは会社にかかってきた一本の営業電話。
「(うぇっあー)◯◯株式会社の森と申しますが・・・」
ん!?もしかして森君?
森君は電話の際、[うえっあー]という小さな奇声を冒頭に言う癖があったので、その癖が抜けてないのでは?
しかし、それは昔の話。
今は直っている可能性もあるし、こちらが勘違いした可能性だってある。
ただ気になった。
話せば話すほど森君ではないか?という思いが強くなり、営業内容に興味はなかったものの、一度来てもらうことに。
そしてー
約15年ぶりの再会?
[ピンポ~ン]
予定時間の2分前にベルが鳴り、ドアを開けるとくたびれたスーツを着た男性が立っていた。
別人?
するとその男性が、「あれ?◯◯(私の昔のアダ名)じゃん!」
やはり森君だった。
久久の再会に驚く森君以上にこちらも驚いてしまった。
それは森君の変わり果てた姿。
15年という月日は長過ぎたようで、森君は大袈裟にいえばロード・オブ・ザ・リングに出ていた「ゴラム」のよう。
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※実際にはもう少し髪アルヨ
多少の薄毛なら見て見ぬふりするが、ここまで少ないと触れないのもおかしいので言ってみた。
「髪凄い薄くなったね笑」
「もう歳だから笑」
笑うと面影を感じる。
「どう?元気?」
「うん。まあね」
あれ?
「ロックって言わないの?」
「もう卒業した笑」
意外だった。
森君の口から「ロック」という言葉が出てこないなんて。。。
森君といえば「ロック」
どんな時でも「ロック」な男だったのだ。
せっかくなので、森君が過去に放った“ロック”なエピソードを紹介したい。
※森君とは中学校まで一緒だったので、エピソードも中学時代に偏ってます。
ロックは違う
・林間学校のバーベキューで箸を使わずトングのまま食べる
『(ロックは)箸なんて使わねよ・・・」
当然鉄板から取るトングがなくなり、周りからはブーイング。
・掃除の時間、ホウキをギターに見立ててエアーギターを毎日実施
『練習時間が足らないから掃除する時間なんて俺にはない』
同じグループの人にチクられて先生に相当怒られてた。
・丸首だった体育着の襟を一部切ってVネックに
『やっぱVでしょ?それにネックレスが隠れちまうよ』
ネックレスは授業中に先生が没収。女子からは胸元見えて「キモイ」と高評価。
・日直が給食を食べる前に教壇に立って「いただきます」という号令時
『今日も作ってくれた人に感謝してーーー(いただきますぅ。。。)(超小声)』とクラスメートを観客に見立てて、毎回何らかしらのパフォーマンスを見せてくれた。
これには先生も「面白い」と絶賛。
・運動会の組み体操でピラミッドに参加しない(補佐役担当)
掛け声だけは立派で『女が見てる前で情けねー顔してんじゃねーよ!!』と激励。
女子からは「森君がやればいいじゃん」と言われた。
・テストの答案用紙が返ってくると、点数低いのバレるのが嫌なのか、毎回点数が書かれた箇所をビリっと破く。
『俺にとって満点は69(ロック)で後は興味ない』
実際は全く勉強してなかったので、補習組のスタメンに定着し続ける。
余談だが、好きな数字と体勢は当然69。
・修学旅行で奈良公園の鹿に持っていた鹿煎餅を秒速で鹿集団に奪われるも強がる。
『こいつら俺と同じぐらいロックだわ。。。』
さらにズボンにも穴が空いてしまい『穴開ける手間が省けた』と強がりに強がりを重ねた応用版。
・進路希望時にタレントが多い堀越学園を選ぶ
『早めに業界慣れしねーと先が思いやられるから』
教師や親に他へ行くよう何度も説得され、最終的には近所の高校へ。
・卒業式の後、隠れてボタンを全て外しモテアピール
『今日寒いのに前閉められねえじゃねーか笑』
数少ない全開ボーイ(ボタンが全て取られるモテ男)を自力で達成するという離れ業を卒業式に見せてくれた。
その後『中学の卒業式で森君がモテててビックリした』と信じている人もいるので、作戦は“成功”にしてあげたい。
・カップラーメンはお湯を入れて30秒ぐらいで食べる。
『固いぐらいがちょうどいい』
ベビースター喰えよ・・・
・原宿の竹下通りでスカウト待ち
『今日はあるかもしれない』
一緒に遊びに行っても「ちょっと用ある」と一人で原宿駅前をうろちょろしたものの、成果は毎回ポケットティッシュのみ。
・求める女性像は願望高め
『顔や性格は勿論、ハートがロックかどうかも重要だね。あとは料理も出来たらいい。ロッカーは料理しねえから笑』
ロッカーが料理しないはどうかと思うが。。。
他にもありますが、今回はここまでにしておきましょう。
気づいたと思いますが、「ロック」というよりは単なるナルシスト、面倒くさがり、強がり、勘違いなどだ。
しかし、身近にいると結構面白い存在だったのも事実。
煩わしかったのは「ロック」の使い方。
美味しい⇒ロックだね
楽しい⇒ロックだね
暑い(寒い)⇒ロックだね
甘い(辛い)⇒ロックだね
嬉しい⇒最高にロックだね
今でいうところ「鬼」や「クソ」のような使い方ですね。
しかし時々こちらも合わせるように使ってみると「それは違う」と反論される。
例えば激辛料理を食べて汗ダラダラの森君を見て「ロックじゃん」というと、「これは反ロックだよ(#・∀・)」と怒る。
止まらないロック魂
森君は高校卒業後、大学に通いながらスタジオで知り合った人達とバンドを組む。
そして、同じバンドメンバーの女性ボーカル(10歳上の土屋アンナ風)と恋に落ち、『ロックな同棲生活を始める』と、地元を離れることになった。
・ ・ ・
出発日、事前に多くの同級生に告知していたようで、約20名程が駅に集合した(集まった私も私だよね。。)
全員揃った所で森君はギターを取り出し、X JAPANの「紅」をアコースティックバージョンにして歌い出す。
↓イメージ↓
『紅にぃ〜染ぉまぁっったぁ〜〜〜
こぉーのぉ〜俺をぉ〜慰めぇ〜るぅ〜奴はぁ〜
も・い・な・いぃ〜』
クスクス笑いながら通り過ぎる人々の視線が痛かった。。。
渾身の歌が終わると、一人の同級生が「そういえばどこ行くの?」と聞く。
すると『◯◯(最寄りから5つ離れた駅)だよ』と、直線距離にして10kmも離れてない距離を“旅立ち”として堂々宣言。
『単なる居候じゃね?』と思ったが、面倒なのでそれ以上は誰も何も言わなかった。
時代の流れ
次に再会したのは成人式。
大きめのサングラスをして登場した森君は完全な“スター”
髪はオールバックにし、ちょび髭を蓄え『みんなロックだね(久しぶりだね)』という挨拶をした彼を否定する人は、も・い・な・いぃ〜
成人式後の飲み会にはわざわざギターを持参し、気づいてアピール。
誰も聞いてないのに『あっ?これ?ギターは携帯みたいなもんだから』と。
ロックだ。
そして飲み会が一時間ほど経過した頃、『あれ森君歌う?』という余計な同級生の言葉に『え〜〜?(ニヤニヤ)』と、調子に乗って前に出る。
『本来ならお金取りたいところだけど、今日はサービスだーー!」
で、じゃじゃ~んとギターを鳴らした直後、少し離れた席に座っていたおじさまが
「うるせーんだよバカヤローヽ(`Д´)ノプンプン!」
(ナイスおじさま)
そりゃそうだ。他のお客さんもいる。
森君は大人しく引っ込み『あのオジサンまじロック』と呟いてた。
いや、、、ビビってた。
・ ・ ・
それから森君とは会うことなく、気づけば10年以上が経過。
そして昨日、森君と久久の再会を果たしたのだが、かつて「ロック」な選択をしていた面影はなく、地味な中年男性になっていた。
[ロック!]と言ってた頃に髪をジェルやスプレーで固めていた代償か遺伝か、現在のヘアーは非常に寂しく、オフィスの暖房から出される風によってゆらゆらと動き、時々吐く息は歯槽膿漏の影響で臭く、一部分では「ロック」だったけど。
一番気になっていたことを聞いてみた。
「音楽は続けてるの?」
「いやいやいや!ギターは何年も触ってないし完全に辞めた。向いてなかったみたい笑」
笑っていたものの、その表情は寂しそう。
言いたくないことを掘り下げてまで聞くべきではない。
しかし、表情からは未練が残っているように見えた。
・ ・ ・
色々と話したので森君が提案してきた案内(営業)は頭に入らず、「じゃあ、必要になったら連絡するね」とお決まりのフレーズで終了。
エレベーターが到着する前に「今度皆で飲みにでも行こうよ!」と森君。
(皆って誰のこと?)と思ったが「そうだね」と返答して別れる。
私は自分のデスクに戻り、窓から信号待ちしている森君の後ろ姿をボーっと見ていた。
かつての異端児はどこへ?
くたびれたスーツを身に纏う後ろ背中は哀愁が漂い、綿毛のような髪は今にも風に揺られて遠くへ飛んでいってしまいそう。
信号が赤から青に変わりトボトボと歩き始める森君。
街はクリスマスムードで華やかだ。
耳を澄ませばクリスマスっぽい音楽も聞こえる。
そんな賑やかな雰囲気に不釣り合いな淋しげな後ろ姿。
それは決して「ロック」ではない。
それでも歩く。
トボトボと。
・ ・ ・
森君の後ろ姿を追った後、彼をFacebookで探したら直ぐに見つかる。
彼のタイムランを見ると一年前に結婚をしたようで、市役所で奥さんと婚姻届の紙を持ってドヤ顔写真がアップされていた!!!
写真と一緒に以下の内容も
この度私達
〜以下略〜
これからも宜しくお願いします!
ロックヽ(`▽´)/
ロック!?
私はどうやら勘違いをしていたようだ。
彼の浮かない表情とゴラムな雰囲気だけでロックでないと。
音楽をやめた=ロックでないと。
なんでもかんでも「ロック」であるか否かで森君を見ていたのは私だった・・・
彼の結婚報告に対する投稿には[いいね]が300程ついており、コメント一つ一つに返信もしていた。
「◯◯ サンキュー!お前も頑張れよ!!」
「◯◯ それは言わんといて〜^^;」
「◯◯ それはスゲーロックなこと聞いたよ笑」
またロック!?
ロックの使い方は進化していた。
翌日の最新投稿には私のことを言ってるのだろうということがアップされてた。
「昨日地元の同級生に仕事で久久に会ったけど。かなりシケた顔してたわ笑 やっぱり毎日笑顔で過ごさないとね!ロック(^O^)/」
心配されたのは私のほうだった・・・
それでも森君が元気で充実した毎日を送ってくれていることが分かったので安心した。
次は仕事外の時間で会ってみたいような会いたくないような。
とりあえずシケた顔をロックにしないと。。。