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かつての“自民党政治”を否定するための政治改革がもたらした一強状態〜中北浩爾・一橋大教授に聞く(後編)

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二大政党制が日本に根付くのは難しい??

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-仮に現在の小選挙区制を維持するのであれば、二大政党制を実現する必要があります。しかし、現実的には、一強多弱の状態で「野党再編」という話が出てきても、民主党がそうだったように野合の末に分裂してしまう公算も大きいでしょう。野党がしっかりと機能し得る政治勢力として結集するためには、どのようなことが必要でしょうか。

中北:それは非常に難しいですね。現状も自民党そのものが強いというよりも、野党が割れていることが自民党の最大の強みになっていると見ることができます。小泉政権と比較するとよく分かりますが、国民の間で安倍政権に対する熱狂的な支持は乏しい。安全保障法制については反対が多かったし、アベノミクスについても国民は儲かってしょうがないので賛成しているというわけではありません。「現実的な選択肢として自民党しかない」という消極的な支持が多いでしょうし、現に国政選挙をみても自民党の得票率は高くありません。野党が分裂しているから、自公が勝っているというのが現状だと思います。

つまり、大変不幸なことに、有権者に有効な選択肢が与えられていないわけです。二大政党という形で選択肢があるからこそ、小選挙区制が機能するはずであるにもかかわらず、現状では小選挙区制は自民党一強の補強にしかなっていない。しかし、選挙制度改革は容易ではなく、そうだとすれば野党の立て直しが鍵になりますが、これもまた困難です。

新進党の失敗に続いて、民主党は頑張って政権を取りましたが、結局うまくいきませんでした。失敗した過去が2回あるので、「3度目の正直」を期待するよりも、「2度あることは3度ある」と思う人の方が多いでしょう。

仮に民主党が維新から生活・社民までを吸収したとしても、前途多難でしょうし、有権者も野合だと思うでしょう。当然、自民党も攻撃の矛先を向けるでしょう。衆議院の小選挙区や参議院の一人区を考えると、野党は結束しなければなりませんが、ただただ再編をしても、うまくいくことは十分に期待できない。このジレンマは民主党政権が崩壊した2012年以降、野党がずっと直面してきたものです。

自民党には、長い歴史を通じて培われた組織のノウハウがあります。決して人工的に作られたのではなく、試行錯誤しながら自然発生的に蓄積されてきたものです。それに加えて、自民党というブランド、ずいぶん脆弱になってきたとはいえ、地域社会に根ざした後援会や業界団体のネットワークもある。そこに公明党がくっついているわけです。

それに対して残余の勢力は非常に弱い。民主党は支持基盤として労働組合を持っているけれども、決して強いわけではありません。だから、雑多な勢力を人工的に寄せ集めて非自民勢力を作らなければならない。自民と非自民の対立図式になったとしても、自民党という比較的固い有機的な組織と寄せ集めの組織とが対立する、非対称的な構造になってしまうわけです。

この構造は、しばらく続くと思います。自民党は1993年に細川政権が成立した際、いよいよ終わりかと言われました。2009年の政権交代時にも、今度こそ終わりだと言われましたが、それでも復活したわけですから、自民党という組織は今後も崩れにくいとみるべきでしょう。それとは反対に野党側は、民主党の失敗があるから、なかなか再編できない。民主党など野党の政治家が無能だとあげつらうのではなく、以上のような政党政治の非対称的な構造を前提として考える必要があるでしょう。

-そうなると、そもそも英国の議院内閣制をモデルした二大政党制というのが本当に現在の日本の政治状況に適しているのか、という疑問も出てくると思うのですが。

中北:政治学者の中では多数派ではないかもしれませんが、私は中長期的にはそういう視点が必要だと考えています。二大政党制が日本に根付くのは、かなり難しいのではないかと見ています。

政治は人間がやることなので予測不能な部分も多いのというのが正直なところです。ただし、これまでお話ししただけでも、二大政党制が十分に機能するには非常に難しい問題があることだけはお分かりいただけるのではないでしょうか。

政治学者の中でも「まだ見切るのは早い」といった議論がありますが、政治改革が行われて最初の総選挙は1996年で、それからもう20年近く経っています。この間、7回の総選挙が行われ、55年体制下の13回の半分を超えました。そろそろ次なる政治改革を考え始めてもよい時期に差し掛かっていると思います。

それでも、政治改革がすぐに実現するはずはありませんので、短期的には野党再編を考えなければなりません。やや抽象的な物言いになりますが、寄せ集めという多様性を強みに変えるビジョンと指導力とが鍵になるのではないかと思います。ただし、それと同時に政治システムがこれでいいのかという大きな視点も必要ではないでしょうか。

もしかしたら安倍政権の擁護に聞こえてしまうかもしれませんが、現在の安倍首相の強いリーダーシップは、政治改革が目指してきたものだと言えます。小選挙区制を導入し、51対49で勝った方が強い指導力を発揮するというのは、政治改革のねらいでした。小沢一郎さんが書かれた『日本改造計画』などが典型的ですが、政治改革の落とし子である民主党も、少なくともかつては小選挙区制の下での二大政党制を目指し、政治主導を推進していたわけです。

もちろん、かつての民主党と現在の安倍自民党の間には重要な違いがあります。民主党の場合、総選挙で詳細な数値などを盛り込むマニフェストを提示し、勝利を収めれば、それを国民との契約として実行するという政治を目指しました。白紙委任的な現在の安倍政権と比べて命令委任的であり、その意味で、より民意に依拠しようとしたと言えます。しかし、選挙で勝った政党の党首が期限付きで強いリーダーシップを発揮するという点では、両者は変わりません。

強いリーダーシップは、ファシズムということではなく、政治改革以来の小選挙区制を中心とするイギリス政治への接近という文脈で出てきているとみるべきです。そこには安倍晋三という政治家の好みや人格が反映されていないとは言えないでしょう。しかし、それ以上に、かつての民主党政権を含め、政治改革以来の日本の民主主義のあり方が問われているのだと思います。

-左派の人たちは、安倍首相個人のキャラクターに依存したものだと批判することが多いですが、より構造的なものだということですね。

中北:民主党は現在、「権力の暴走を許さない。その先頭に立つ。」というスローガンを掲げていますが、振り返れば、かつての民主党政権も暴走ともいえる傾向を帯びていたわけです。例えば、鳩山政権の前原誠司国交大臣が「マニフェストに書いてあるから八ッ場ダムをやめます」と宣言し、地元の住民などから猛反発を食らいましたが、あれなどは非常に乱暴だったと思います。根っこにあるものは、現在の安倍自民党とある程度同じではないでしょうか。白紙委任か命令委任かの違いはありますが、選挙至上主義と政治的リーダーシップを強調する点です。

今回、安倍政権は、大多数の国民が反対しているにもかかわらず、安保法案の成立を推し進め、大規模なデモが発生しました。もちろん、民主主義において最も重要な手段は、選挙です。しかし、選挙以外の回路で表出された民意も尊重し、幅広い合意を作り上げていくことが民主主義にとって大切だというのが、今後の教訓ではないでしょうか。民主党が本気で「権力の暴走を許さない」というのであれば、マニフェスト政治が失敗に終わった反省も踏まえ、多様な民意を受け止めて合意を形成していく、そうした民主主義を目指すべきだと思います。

プロフィール

中北浩爾(なかきた こうじ):一橋大学大学院社会学研究科教授(政治学)。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。著書に「現代日本の政党デモクラシー (岩波新書)」「自民党政治の変容 (NHKブックス No.1217)」など。

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