TPP対策について安倍晋三首相は「攻めの農業への転換」を強調したが、選挙対策も忘れなかった Photo:JIJI
政府は11月25日、TPP(環太平洋経済連携協定)対策の「政策大綱」を決定した。この中に、農業の未来に禍根を残しかねないバラマキ予算が盛り込まれている。
問題の予算はその名も「産地パワーアップ事業」。自民党による提言を受けて採用されたTPP農業対策の“裏の目玉”事業で、予算規模は数百億円とみられる。
これまで、生産施設の整備で補助金をもらうには、施設を使う農家5戸以上がグループ化する必要があった。産地パワーアップ事業の特徴は、“個人の施設整備への補助”という禁断の領域に踏み込んでいることだ。
最も懸念されるのが、補助金のバラマキにより、本来は離農するはずだった農家まで田植え機などを購入してしまい、その結果、コメをはじめとした非効率な農業の構造が温存されることだ。
政府は全農地の8割を担い手農家に集めるため、2年間で1000億円以上の予算を投じている。その一方で、農業の大規模化を妨げる産地パワーアップ事業を立ち上げるのはまさにマッチポンプだ。
政府内にも、コメなどの小規模農家は産地パワーアップ事業の対象外にすべきという意見があるが、残念ながら少数派だ。なぜなら、「もらえる農家が多いから票になる。選挙のために党が盛り込んだのだから、対象を絞るのは難しい」(政府関係者)からだ。
コメの構造改革に逆行
実は“個人の施設整備への補助”には前例がある。2014年度から始まった「畜産クラスター事業」だ。
規模拡大が進み、生産者も少なくなった畜産分野に、例外的に認められた補助事業だ。地域から集まった補助金の要望額は今年度の予算(279億円)の倍以上に上るなど人気政策となっている。
この補助金をもらうには、畜産農家や酪農家が地域単位の畜産振興計画に位置付けられる必要があるのだが、その計画を定める協議会の事務局の4割以上は農協だ。
体質強化が進み、農協の関与が比較的少ない畜産ですら、農協主導で補助金が利用されている。まして農協最大の関心事であるコメの生産に使える産地パワーアップ事業では、農協が積極的に旗を振ることは間違いない。小規模農家がつくる農協は、担い手農家を絞り込むのは不得手。補助金で施設整備する農家に農機などを売り込み、利益を上げてきた経緯もある。
産地パワーアップ事業は、補正予算で設けられるTPP農業対策の基金に盛り込まれる。このため、通常予算とは異なり年度内に予算を使い切る必要はない。
基金の設置方法も問題になりそうだ。都道府県ごとに基金ができれば地方選出の国会議員は喜ぶが、予算消化のために補助金が無駄に使われる。一方、補助金が必要な担い手農家にカネが回らないリスクがある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)
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