最初はギャラが0円のこともザラで、よくて1万円。けれど、さまざまな現場に毎日呼ばれ続け、5年もたつ頃には1つの現場で3万円もらえるようになりました。これで食べていける、と思った瞬間です。
一方で、撮影現場の厳しさも痛感するようになっていました。 当初は「かわいい子とセックスができる!」の一心で、がむしゃらでしたが、「今日、勃起しなかったら、射精しなかったらどうしよう……」と、プレッシャーに押し潰されるようになっていったのです。 現場は体育会系の雰囲気。監督やカメラさん、照明さんに怒られ、いつ殴られるかとビクビクするようになり、あんなに好きだったセックスが苦になる日もありました。
そんな時、シルクラボから声がかかったのです。イケメンAV男優の一徹さんや月野帯人さんが活躍していることは知っていました。 けれど、本当に僕のような“キモ男優”でいいのか? 半信半疑のまま、試しに1度だけ出演するつもりで現場へ。 撮影現場は、驚きの連続でした。僕が考えていたセックス観、アダルトビデオ観は、女性目線からすると間違いだらけだったことがわかったのです。
まずはセリフ。いつものように「きれいなおっぱいだね」と言うと、さっそく「カット」がかかって中断される。
「ムータンさん、あなたが言っていい言葉は、『好き』『きれいだよ』『かわいいね』『気持ちいい?』『大丈夫?』。この5つだけでいいんです」
女性プロデューサーから徹底的に叩き込まれました。どうやら、具体的に言うよりも、抽象度が高いほうが甘美な世界観に浸れるらしい。
そしてセックスですが、男性向けのAVでは「潮吹き」のほか、騎乗位や後背位などさまざまな体位でセックスするのが常識です。 でも、これらはNG。とにかく言われたのが「セックス中は女優さんから体を離さないように」でした。 男性ユーザーからすれば、男優は“黒子”なので、女優さんとの結合部分は見せても、男優の存在感はあまりないほうがいい。しかし、シルクラボは真逆。常に密着させろと言うのです。
さらにセックス以外の仕草にもこだわりがありました。ネクタイの外し方からゴミの捨て方まで、優雅さが求められる。男ならば絶対に気づかないところまで演出が入ります。
こういった細かい努力の積み重ねによって、シルクラボは女性の支持を得ました。同時に僕も、イケてるAV男優として、一徹さんや月野さんと一緒に、“エロメン”という称号を頂くこととなったのです。
…第三回へつづく
1983年東京都生まれ。2005年にAV男優としてデビュー。 以後、多数の作品に出演し、10年のシルクラボ作品出演を機に“エロメン三銃士”として活躍。 以前の芸名「ムーミン」から「ムータン」と改名して活動を続けている