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 愛知県碧南市で1998年、夫婦が絞殺された事件で強盗殺人罪などに問われている堀慶末(よしとも)被告(40)の裁判員裁判が4日、名古屋地裁であった。検察側は「犯した罪は非常に重大。極刑を回避する事情はない」として死刑を求刑。弁護側は「事前に殺人の計画はなかった」と無期懲役相当を訴え、結審した。判決は15日に言い渡される。

 堀被告はパチンコ店強盗を計画し、98年6月28日夕、共犯の男2人と馬氷一男(いちお)さん(当時45)宅を訪れ、共犯の男に妻里美さん(同36)の殺害を依頼して絞殺。29日未明に帰宅したパチンコ店運営会社営業部長の馬氷さんも絞殺し現金などを奪ったとされる。

 検察側は論告で「安易に大金を得ようと、平穏に暮らしていた夫婦の命を奪った犯行は冷酷で残忍。計画の首謀者で責任はこの上なく重い」と指摘。2006年の名古屋市守山区の強盗殺人未遂事件とあわせ、「無期懲役では不十分。極刑はやむを得ない」とした。

 これに対し、弁護側は、里美さん殺害の依頼と馬氷さんへの殺意を否認。最終弁論で、仮に強盗殺人罪が認定されても「場当たり的な犯行で、ずさんな強盗計画はあったが、殺人の計画まではなかった」と訴えた。さらに過去の判例では犠牲者2人で、犯行前に殺人の計画がなかった死刑求刑の15件のうち、10件が無期懲役だと指摘。「死刑は殺害方法が特に残虐で極めて強固な殺意があるなどの場合。この事件は、無期懲役こそ適切な刑だ」と主張した。

 堀被告は、07年に名古屋市で見ず知らずの女性を殺害した「闇サイト殺人事件」で12年に無期懲役が確定。その後、碧南事件で逮捕された。弁護側は一事不再理の原則に触れ、「この事件を理由に、死刑選択はできない」と強調した。

 堀被告は最終意見陳述で「ご遺族様がお話しになったことを厳粛に受け止め、処刑されることになったとしても、残された時間を贖罪(しょくざい)に捧げていくことを誓います。深く、深く、おわび申し上げます」と述べた。

■「狂った未来、被告に靴得ない」被害者の子が訴え

 「(事件後)生活は変わってしまった。生きていくのに精いっぱいだった」

 17年前、父親の一男さんが殺害される現場を目撃した馬氷一樹さん(25)は4日午前、証言台で意見を述べた。事件当時8歳。突然両親を奪われた無念の思いを語った。堀被告は終始うつむいて耳を傾けた。

 職場に連れて行ってくれたり水上バイクに乗せてくれたりしたという一男さん。母親の里美さんはしつけに厳しかったが面倒見が良かった。一樹さんは、周りから慕われていた両親を尊敬していたという。

 事件後は親戚宅を転々とし、関東地方の親戚に引き取られた。満足にご飯を食べさせてもらえず、両親の遺産は親戚に使い込まれた。

 「復讐(ふくしゅう)したい。本当は自分の手でどうにかしてやりたい」。一樹さんは今できることはあの日を思い出し、証言することだと考え、出廷したという。法廷で見た堀被告は自らの罪から逃げているように感じたといい、「死刑になることを強く、強く願っている」と訴えた。

 当時6歳だった次男貴成さん(24)は思いを書面にまとめ、代理人弁護士が読み上げた。「被害者や遺族が受けた痛みや苦しみ、狂ってしまった未来。被告に償えるものは何一つない」

 傍聴席では「闇サイト殺人事件」で娘を失った磯谷富美子さん(64)が涙をぬぐっていた。「同じように大切な人を亡くした。2人の言葉が自分と重なった」