<世界選手権・日本代表総括>
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(3)ジェリコ・ジャパンの4年間と今後の方向性
最後はジェリコ・ジャパンの4年間についての考察です。
本大会は1勝4敗で1次リーグ敗退。ジェリコ・ジャパンの最大にして困難な目標であったベスト16は達成できなかったけど、決して軽くはないパナマ戦の勝利に加えて、勝利寸前だったNZ戦、ノビツキーが退いていたときはほぼ互角だったドイツ戦の内容を考えると、ジェリコ・ジャパンは完全体ではなかったが評価に値すべき「結果」は残したと判断していいと思います。
世界と戦えるべくジェリコが4年かけて進めてきた日本代表の変革は、ディフェンス重視のロースコアゲーム志向・ポジションのボーダレス化・大型選手のアウトサイドプレイの強化…などヨーロッパ型に近いバスケスタイルに、日本人特有の敏捷性・献身性を付加させるというもの。
とある一般紙がジェリコ・ジャパンについて次のように書いていました。
「昔の日本代表のバスケというと、大きいセンターが不器用にインサイドで動いているだけというイメージだったが、今の日本代表のバスケはセンタープレイヤー含めた全員が激しく動いて随分とスピーディーになった」
一字一句同じわけではないけど、こんな趣旨。どちらか忘れたけど、朝日新聞か、帰省中に読んだ北国新聞(石川県の地方紙)のどちらか。一般紙であるがゆえのこの率直的な見解に、ジェリコ・ジャパンの特質が最も端的に表現されていると思う。
完全体ではないながらも一定程度の結果を世界選手権で残したことを考えると、ジェリコのコメントのあるように、日本は「最も強いレベルのチームには勝てませんが、中から上のクオリティとは戦え」るまでに確実に進歩したと言える。これ以上の大型化の余地が狭いこと、身体能力の点において民族的な限界があることを考えると、今後とも基本的に日本はジェリコによって導かれた新しいスタイルを踏襲していくべきでしょう。
では、今後の具体的な方向性について、ジェリコ・ジャパンで達成できなかった点を列挙しつつ、各論ごとに考察していきたいと思います。
▽豊富なPG陣
どうも日本という国はPG陣に豊富なタレントが集まる特質があるよう。ざっと挙げてみても、最終代表に入った五十嵐・柏木・節政に加え、佐古(アイシン)・田臥・柏倉(三菱電機)と実に豊富。特に五十嵐・柏木のスピードは世界で充分に通用することが証明された。チーム全体として今後もサイズの不利から逃れられないことを考えると、PG陣のスピードは今後とも大きな武器としていくべき。
しかしながら、サイズの小ささは大きな不利であることも変わりないでしょう。これはスピードとトレードオフ的な側面があって判断が難しい問題。ジェリコはこの不利を認識しており、PG桜井という選択肢を用意して本番に備えましたが(結局本番でPG桜井の場面はなし)、大型のPGを1枚くらいは本格的に用意する必要があるのかもしれない。
▽絶対的シューターの不足
ジェリコは常々「フリーのミドルシュートは必ず入れる絶対的シューターはどんなチームにおいても必要」と言っていたけど、代表の最終選手に際し「4年間でシューターだけが育たなかった」と率直に認めて折茂の招集に踏み切った。折茂はトータルでスコアリーダーとなる素晴らしい活躍を見せてくれたけど、川村が力不足だったこともあり、全体的には生粋のシューターの層の薄さは否めなかったと思う。
折茂以外にシューターが全くいなかったわけではない。まず、折茂以上のシューターである永山(パナソニック)がいた。ジェリコは就任後しばらくは永山を毎回招集していたが、彼は毎回辞退。辞退経験者に何度も招集をかけたことはジェリコにしては珍しいことで、彼に対する執念が窺われたが、結局永山が代表入りすることはなかった。
次に、同じくパナソニックの仲村がいた。仲村はジェリコの就任当初からの代表メンバーであったが、2006年に入り突然招集から漏れた。JABBA傘下にないbjリーグ移籍に動いたためというのが、招集から漏れた最大の根拠だと推測されているが、本番直前のこの時期になって彼を招集できなくなったことはジェリコにとって大きな誤算だったと思われる(結局8/24に大阪エベッサより仲村との契約が公表された)。
その他にも、梶山(三菱電機)を招集するなど、シューターに関しては随分と腐心したようだが、ジェリコを満足させるまでには至らなかったようである。
サイズで不利がある日本はどうしても外角のシュートに依存する度合が強い。そして、世界選手権で強豪チームのシュートの精度が恐ろしく高かったことを踏まえると、シューターのさらなる強化の必要性は極めて高い。しかし、そもそもにしてシューターの育成はナショナルチームの仕事ではないし、一朝一夕にシューターが出来上がるわけではないから、即座にどうかなる問題ではない。来年の北京オリンピック予選の代表に折茂が入ることは極めて微妙であることも併せて考えると、しばらくの間は頭が痛いテーマであり続けるのでしょう。
▽走れて守れる大型センター
ジェリコ・ジャパンでは最終的に古田(199センチ)と伊藤(202センチ)が センターの重責を果たしたけど、ジェリコが言うように、国際舞台ではセンターとしてはこのサイズは小さすぎる。
しかし、そのサイズのハンデとオフェンス力に難があったにもかかわらず、走力と一流のディフェンス力さえあれば、ある程度のビッグマンに対しては互角以上に渡り合えることを、彼等が身をもって証明したことは決して忘れてはいけないと思います。
というのは、もう「デカイだけ」のセンターは時代遅れだから。このことは強く認識する必要がある。国際舞台で戦う上では210センチ台の「世界標準」的なセンターの配置は必須ではあるけど、ある程度の走力と一流のディフェンス力がなければ間違いなく通用しないと思う。
ジェリコは、210センチの青野(パナソニック)や215センチの菅谷(京都産業大)を招集するなど、サイズへのこだわりは当然あった。しかし、青野は走力とディフェンス力に難があるだけでなく、バスケットのプレイ以外にも問題があったようで構想外に(この点はジェリコが雑誌で度々言及している)。菅谷は2004年の国際試合単発の招集にとどまった。
ジェリコ・ジャパンでは、結局「サイズ」と「走力&ディフェンス力」の両方を備えたセンターができなかった。これはジェリコ・ジャパンに限らず、日本人として構造的な部分に関わる問題だろうから、センターの完全な「世界化」は極めて長い道のりなのだろう。とりあえず、直近的に言えることは、「デカイだけ」のセンターに頼ろうとする、時代と逆行するようなチーム作りは断固として避けるべきということである。
つらつら書かせてもらいましたが、他には…、
▽4番の強化
▽とにかくディフェンス
▽そして走る
…ということですかね。こういった点も引き続き強く意識してほしいかな。
そして、最後に…、
▽協会の老害どもを駆逐する
ナショナルチームの監督抜きで勝手に代表メンバーを決めて発表してしまう(注)など、コイツらのバカっぷりは今さら言うことではないけど、ホントいい加減何とかしてほしい。他にも、日本戦終了後の発言だけを拾ってみても、「田臥がいれば勝っていた」(そうとは限らないでしょ)だの、「マッカーサー(アイシン)や松島(三菱電機)を招集することも選択肢」(何らかのポリシーやビジョンに基づいてそう言うのならわからんでもないが、コイツらの場合は、とにかく帰化選手を入れればチームが強くなるだろういう旧態依然の発想で言っているだけ)だの、「ベスト8のチーム作りをお願いしていた」(え〜、そうだったの?、初めて聞いたよ)だの、随分とそのバカっぷりを発揮していた。
このままではいかんでしょ。でも、このままなんでしょうね。
これを書いている時点では、とりあえず次の監督人事が焦点なんだろうけど、そこでもアホやる可能性が極めて高い。
しかし、今考えてみると、ジェリコを途中解任しなかったことは、おバカな彼等にしてはかなりのファインプレーだったんでしょうね。
(注)「…世界選手権の代表候補22人も先日発表されたが、選出を一任されたジェリコ・パブリセビッチ・ヘッドコーチ(クロアチア)が「いらない」としていた5選手が入った。逆に「ぜひ必要」の3人が外されたという。03年から日本代表を預かり、若手に切り替えて3年間手塩にかけたチーム。自信をもって選んだはずが、その後、ジェリコ不在の強化委員会で差し替えられた。その中には、彼の指導法に不満を漏らして代表を去ったベテランたちもいる。開幕まで4カ月でこのいざこざ。「オレたちは信頼されてないのか」と若手が戸惑い、チームワークにひびが入っても致し方ない。3年間、ジェリコに丸投げしてきたのに、ここにきて急に心配になった、としか思えない。関係者によるとジェリコは「勝つ気はあるのか。いいエクスキューズ(言い訳)の材料をもらった」と激怒したという。指揮官にそこまでいわせたのも、協会の一貫性のなさがすべてといえる。」
(サンケイスポーツ・4/5よりーhttp://www.sanspo.com/top/am200604/am0405.html〔リンク切れ〕)
次の目標は来年の北京オリンピック予選。これは何気に相当ハードルが高い。
「最も強いレベルのチームには勝てませんが、中から上のクオリティとは戦え」るようになった(ジェリコ)というのは決して誇張ではないと思う。アジア地域においても、アジアチャンピオンの中国との差は依然として隔絶しているが、その次のポジションを堂々と争えるくらいの実力はつけたと思う(世界選手権の予選を兼ねた昨年のアジア選手権は、既に出場権を獲得していた日本にとっては相対的に本気度が低い国際大会だったため、そこでの5位という成績のみを持ち出してアジアにおける日本の力量を判断することは不充分な分析である)。
「このチームにとって、これは第1歩です」(ジェリコ)。
次の日本代表がどのような形になったとしても、この「第1歩」が踏み出した道を後退することだけは絶対に避けてほしい。
そのためにも、日本代表やその関係者だけでなく、日本のバスケットに携わる全ての人にこの「第1歩」の意味を強く認識してほしいなと思います。
最後に、日本代表の選手・HC・スタッフの方々、本当にお疲れさまでした。
追伸:次期監督、ジェリコに続投してもらいたいです。
(06.8.30)