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「反物質 宇宙のロストワールド」

Robert Gendler

10月8日の放送

「反物質 宇宙のロストワールド」

私たちはなぜ存在するのか?この究極の謎をひもとくカギが「反物質」だ。人体や地球、星などは「物質」でできているが、理論上は物質を鏡に映したような「反物質」も同じだけ存在するという。しかし、科学者たちの懸命な捜索にも関わらず、いまだに見つからない。反物質とは一体なにか?宇宙のどこにあるのか?2015年のノーベル物理学賞の受賞理由となった「ニュートリノ振動」を用いた地下実験にも密着。究極の謎に迫る。

放送日時
10月8日(木)午後10時00分~
10月15日(木)午前0時00分~(再)

この放送回はNHKオンデマンドで配信中です

放送翌日午後6時から配信開始です。

もっと知りたい!Q&A

番組冒頭の映画は何?

2009年に公開されたトム・ハンクス主演の映画「天使と悪魔」です。スイスの研究所で作られた反物質が盗まれたというミステリーです。物語の中にも出てくるこの研究所は、欧州原子核研究機構(CERN セルン)という実在する研究所で、1995年に世界で初めて人工的に反物質(反水素原子)を作り出すことに成功したことを題材にしています。ただセルンで作られた反物質はごく微量で、しかも一瞬で消滅してしまうため、映画のように悪用することは不可能です。

ディラック方程式の記念碑のある場所は?

イギリスのロンドンにあるウェストミンスター寺院に、ニュートン、ダーウィンなど、イギリスの歴史に名を残した科学者や著名人の墓が並んでいます。そのニュートンの墓のすぐ横に、ポール・ディラックの記念碑が埋め込まれています。記念碑には、反物質の存在を最初に明らかにしたディラック方程式が刻まれています。刻まれているのは簡略化された1行の数式ですが、他にも詳しい表記方法もあるため、本などに出てくるディラック方程式と形が違っているかもしれません。なおディラックは晩年をアメリカで過ごしたため、ディラックの墓はアメリカのフロリダにあります。

ディラックの生家がある場所は?

1902年にディラックが生まれたのはイギリス西部の街・ブリストルです。ディラックの生家は今も残っていますが、ディラックの関係者は住んでいません。玄関横に、ディラックの生家という表示がある程度です。

ディラックの生涯について語っていた科学史研究家は誰?

イギリスの科学史研究家のグレアム・ファーメロ(Graham Farmelo)さんです。ディラックついても研究をおこなっており伝記の著作があります。日本語翻訳も出ています。

書名「量子の海、ディラックの深淵(しんえん)」 グレアム・ファーメロ著 (早川書房)

反物質とはどんなもの?

簡単にいうと、物質と電気の性質が反対で、ちょうど鏡に映した様な性質をもつ粒子です。マイナスの電気を持つ電子の反物質は、プラスの電気を持つ「陽電子」。プラスの電気を持つ陽子の反物質は、マイナスの電気を持つ「反陽子」です。他の素粒子にも反物質があります。ただ物質ばかりのこの世界では、反物質は物質と触れると消えてしまうため、ほとんど存在しません。

ディラックの来日のエピソードについて

1929年に、物理学者のハイゼンベルクとともに船で来日しました。船が横浜港に到着したときに、大物物理学者の来日を聞きつけた新聞記者が乗りこんできました。ディラックは、物理学以外のことには興味がなく、取材も面倒がっていることを友人のハイゼンベルクは知っていたため、ディラックに変わって記者の質問に答えました。その時、ディラックはすぐ横にいて知らん顔をしていたというエピソードが残っています。その後、二人は東大や京大、理化学研究所などで講演を行い、日本の物理学者たちは最先端の理論に触れることになりました。

反物質の発見について?

1932年、アメリカ・カリフォルニア工科大学の物理学者カール・アンダーソンは、霧箱に磁場をかけて宇宙線の実験をしているときに奇妙な粒子があることを発見しました。それは、電子と同じ質量をもちながら、磁場をかけると電子とは逆の向きに動く粒子でした。実験を繰り返し、ディラックはその粒子が電子とは逆のプラスの電気をもつ粒子であることを発見。これが電子の反物質、陽電子の発見です。論文は1933年に発表され、その年、ディラックはノーベル物理学賞を受賞しました。

ディラックがノーベル賞の講演で予言したことは?

1933年のノーベル物理学賞の講演で、ディラックは、「この世界がマイナス電気をもつ電子と、プラスの電気をもつ陽子からできているのはまったくの偶然です。プラスの電気の電子とマイナスの電気の陽子からできていても不思議ではなく、星々の半分はそのような反物質でできているかもしれない。でも、現在の観測技術ではそれを区別することは難しい。」と述べています。

ツングースカ大爆発と反物質との関連は?

1908年にロシア・シベリア上空に現れた火の玉によって、広大な範囲の森林がなぎ倒されました。これが「ツングースカ大爆発」と呼ばれる出来事です。当時、原因は不明で謎の現象とされました。アメリカの地質学者、リンカーン・ラパズ博士は、反物質でできた天体が飛来したという説を唱えました。もし反物質でできた小天体がやってきたら、物質の性質をもつ地球大気と触れて、対消滅(ついしょうめつ)という反応を起こし、強烈な光とエネルギーを放出します。その衝撃によって森林がなぎ倒されたというのがラパズ博士の説でした。今では、ツングースカ大爆発は隕石が原因だったことがわかっており、博士の説は否定されています。

反物質が「オールトの雲」にあるという説について

アメリカ海軍研究所のチャールズ・ダーマー博士は、宇宙のあらゆるところから突然やってくるガンマ線の閃光、ガンマ線バーストは、太陽系の端にある「オールトの雲」という氷の小天体でおきる対消滅だと考えました。この説では、オールトの雲を構成する小天体は、物質と反物質でできたものがあり、時々接触し、対消滅を起こしたときにガンマ線の閃光がでると考えました。ガンマ線バーストは、宇宙のあらゆる方角からやってくる現象であることが知られており、オールトの雲は太陽系を球状に包んで分布していると考えられたため、分布に関しては合致するものでした。ところが、現在では、ガンマ線バーストは宇宙のはるか遠くの銀河で起きている超新星爆発などの現象だということがわかっています。

反物質(反水素原子)を初めて作るのに成功したのは?

1995年に、スイスの欧州原子核研究機構(CERN セルン)のウォルター・エレルト(Walter Oelert)博士が初めて、水素の反物質(反水素原子)を作り出すことに成功しました。エレルトさんは、加速器を使って陽子の反物質と電子の反物質をくっつけるとことで水素原子の反物質を作り出しました。この研究が、映画「天使と悪魔」の題材となっています。当時は、11個の反水素原子をつくるのがやっとでしたが、その後、加速器も改良され、現在は1日に数百万個の反水素原子を作ることができるまでになっています。現在の研究には、日本の研究グループも参加しています。

いまの宇宙に反物質が存在しないことを理論的に説明した科学者は?

ロシアの物理学者のアンドレイ・サハロフです。東西冷戦時代には、ロシアの水爆開発に従事し、「水爆の父」とも呼ばれました。その後、核実験の禁止などを訴え、1975年にノーベル平和賞を受賞しています。

サハロフの理論では、どうして反物質がこの宇宙に反物質が存在しないことがいえるの?

宇宙を見回しても物質ばかりで反物質は見当たりません。物質と反物質は同数生まれるはずなので、このことはディラックの理論と矛盾しています。そこでサハロフは、物質と反物質が完全に対称ではなく、ごくわずかな違いが生じているはずだと考えました。宇宙の始まりのビッグバンの中で、物質と反物質が同数生まれたものの、対生成と対消滅を繰り返す間に、ほんのわずかなズレが生じたという説を考えました。計算によればビッグバンの時に、10億の反物質に対して、10億1個の物質ができたのです。すると、10億の物質と10億の反物質は対消滅を起こし消えてしまい、1個だけ多かった物質が残ることになります。現在の宇宙の星も惑星も、私たちの体も、この残った1個の物質の粒子からできているというのがサハロフの仮説です。

日本で行われているT2K実験について?

サハロフの理論が正しいのかどうか、いま日本の地下で壮大な実験が行われています。茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)から岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデに向けて素粒子のニュートリノとその反物質の反ニュートリノを打ち込んで、両者の性質の違いを調べようと言う実験です。T2Kとは、Tokai to Kamiokaの頭文字を取っています。この実験では、ニュートリノが別の種類のニュートリノに変わるニュートリノ振動という現象の確率を調べます。この確率が違えば、物質と反物質の性質が違い、サハロフの仮説を確かめることができるといいます。2015年現在、変化する確率は、ニュートリノ(物質)は約6%、反ニュートリノは6%未満という結果が出ています。

ニュートリノは人体には影響はないの?

ニュートリノは宇宙から常時大量に降り注ぎ、人体も地球も通過している素粒子ですので、実験を行っても人体や電子機器などにも全く影響はありません。

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