2015年12月02日

◆ 堤防の簡易補強

 政府は鬼怒川の堤防の決壊のあとで、とりあえず応急措置として、堤防の簡易補強という方針を打ち出した。しかし、ダメだ。

 ──

 政府は鬼怒川の堤防の決壊のあとで、とりあえず応急措置として、堤防の簡易補強を打ち出した。
hokyou.jpg
 《 未整備の堤防、簡易補強へ…鬼怒川決壊で国交省 》
 関東・東北豪雨で鬼怒川の堤防が決壊したことを受けて、国土交通省は、かさ上げなどの本格的な整備が遅れている堤防を対象に、応急措置として簡易な工事を進める方針を固めた。
 (鬼怒川の)現場では、堤防を越えて水があふれ出す「越水」から約2時間後に決壊。
 同省の調査では、堤防を乗り越えた水が住宅地側の底部を掘って崩し、盛り土も崩壊したため、短時間で決壊した。このため、
〈1〉堤防上部をアスファルトで舗装
〈2〉住宅地側の底部をブロックで補強
 ――などの対策を施して堤防を壊れにくくする。
( → 読売新聞 2015-12-02

 これはダメだ。なぜか? 次の認識が誤っているからだ。
 「堤防を乗り越えた水が住宅地側の底部を掘って崩し」
 これがおかしい。

 堤防を乗り越えた水なんてのは、深さが1〜3cm ぐらいの水だ。ごく小量だ。また、滝のように垂直に落下するのではなく、堤防の裏側の斜面をなだらかに下っていっただけだ。そんなものが、「底部を掘って崩す」というようなことはありえない。あり得ないことを、堤防決壊の原因だと見なしている。
 つまり、国交省は、堤防決壊の原因を根本的に勘違いしている。

 では、正しい原因は何か? それは、すでに下記項目で示した。
  → 堤防決壊の原因と対策
 ここで、次の図を掲載した。


kekkai.gif
出典( PDF )

 


 この中央の図を見ればわかる。
 堤防が決壊するとき、確かに堤防の裏側の(株)が崩壊する。しかしそれは、堤防の外から水が注いだからではなく、堤防の中から水がしみ出ていくからなのだ。堤防は、外から何かを作用されるのではなく、堤防自体が内部崩壊するのだ。いわば、爆発するような感じで。
 では、なぜ? 内部に大量の水がしみこんでいるからだ。この水が圧力となって、水圧を及ぼす。その水圧の力で、堤防を内部から外部へ崩壊させるのだ。

 とすれば、堤防の裏側の下部を簡易補強したところで、何の意味もない。このような簡易補強は、大きな水圧には耐えられないからだ。ここでは、堤防を崩壊させるほど巨大な水圧がかかっている。なのに、簡易補強のブロックぐらいで耐えきれるはずがない。巨大な堤防を破裂させるほどの圧力を、たいして重くもないブロックぐらいで耐えきれるはずがない。
 国交省は、完全に間違った対策を取ろうとしている。こんなことでは、金がかかるだけで、効果はほとんどない。(皆無とは言わないが。せいぜい、小さなブロックの重量程度の効果だ。3%ぐらいの効果か。ほとんど意味がない。)

 ──

 では、どうすればいいか? どうやって堤防を強化すればいいか? 
 それは、すでに述べた。つまり、堤防の内部に、水がしみこまないようにすればいい。
 1番いいのは、コンクリ被覆だ。(ただし金がいっぱいかかる。)
 2番目にいいのは、粘土層を埋め込むことだ。(ただし、最初からやるのでなく、あとになってやるのでは、金の割に効果は薄い。費用対効果が悪い。)

 結局のところ、巨大な水圧に耐えきれるような構造を、簡単にローコストで実現する方法などはない。何百キロもの堤防を、簡単な工事で一挙に強化する方法などはない。

 ──

 だから、「堤防を強化する」という方針を捨てればいい。すなわち、「堤防を強化する」かわりに、「堤防を強化しないで堤防決壊を防ぐ」という方針に転じればいい。
 目的は、堤防を強化することではなく、堤防の決壊を防ぐことなのだ。そう理解すれば、発想の転換ができる。こうだ。
 「堤防を強化するかわりに、堤防を弱化する。現状よりも、もっと弱めて、簡単に氾濫するようにする。このことで、堤防決壊を防ぐ」

 
 これは、逆説みたいで、理解しがたいだろう。しかしその方法は、前に述べた。下記項目だ。
  → 洪水防止の画期的な方法

 ここから一部抜粋すれば、次の通り。
 日本中の堤防を工事すると、金がかかる。しかし、堤防が決壊する場所だけを工事するなら、金はかからない。決壊する場所が、全体の2%だとしたら、2%だけを工事すれば足りる。だから、決壊する場所だけで工事すればいい。
 あらかじめ一部の箇所だけ、堤防を低くする。この部分から水が越水するようにする。その上で、この部分だけ、堤防をコンクリ護岸で補強する。

 詳しくは、上記項目を読んでほしい。
 これなら、格安の費用で、堤防の決壊を防ぐことができる。

 なお、合わせて、次の方法も対策となる。
  → 雨水を川に入れるな

 
posted by 管理人 at 22:59 | Comment(8) | 災害・安全 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
豪雨時の雨量、降雨面積、高地低地による流れ(≒上流下流関係)、そのアイディアでは床上浸水前提地域を設定せざるを得なくなり、結局補償問題です。
画期的などと自画自賛ではなく、まず自身のアイディアの検証をされたらどうでしょう。

浸透対策は、なにもコンクリと粘土層(あまり聞かないですね)だけではありません。
この点でも誤りがありますね。
Posted by 計算してます? at 2015年12月03日 13:46
>「堤防を乗り越えた水が住宅地側の底部を掘って崩し」
> これがおかしい。

国土交通省に委託された専門家が実地調査して出した結論なんだけどね。

洪水の直後、ほぼすべてのマスコミが「越水破堤」の実験を放送してたんだけど、見なかったのかな?

補足すると、「スーパー堤防」って、「越水破堤」しないように、住宅地側の斜面を思いきり緩くした堤防のことなんだけどね。
Posted by 王子のきつね at 2015年12月03日 14:44
> by 計算してます?
> 床上浸水前提地域を設定

ちゃんと元のページを読んでください。
床上浸水地域は、ありません。
床下浸水地域は、流域全体です。

> コンクリと粘土層(あまり聞かないですね)だけではありません。

「だけ」なんて言っていないでしょ。1番と2番があるとは書いたが、3番以下が存在しないとは言っていない。3番以下については、リンクの PDF を見ればわかるとおり。

誤読しないでください。
Posted by 管理人 at 2015年12月03日 19:29
> by 王子のきつね
> 専門家が実地調査して出した結論なんだけどね。

専門家が実地調査して出した結論は「越水破堤」であって、それは「掘ったこと」を意味しない、というのが私の認識です。

では何かというと、
「越水したときに、堤防の上面を水が覆うので、上面から急速に内部に水が浸透する。特に、住宅地側のまだ浸透していなかったところに浸透する」
ということ。

現実の堤防の破壊を見ればわかるように、住宅地の側から少しずつ掘り出されていくのではない。あるとき突然、一挙に全体が崩壊する。

掘り出されるのならば、住宅地の側から少しずつ掘り出される。
内部から崩壊するのならば、一挙に崩壊する。
そのどちらが起こったかは、現場を見ていた人たちが報告している。後者です。

国交省は、上面をアスファルトで覆おうとしているが、それが何のためであるかを理解してください。仮に、落ちた水が掘り出すのであれば、上面をアスファルトで覆っても、何の意味もないでしょう。

一般に、含水した土は、強度が非常にもろくなり、一挙に崩壊します。破堤というのは、そういう現象です。少しずつ外側から削られていく現象ではありません。
Posted by 管理人 at 2015年12月03日 19:30
 少なくとも鬼怒川の場合には、目撃者談から、越水破堤ではないとわかっている。
 → http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10150278345

 つまり、水が少しだけあふれたという程度。越水破堤のときのように大量の水があふれたわけではない。

 ──

 本ブログでも、この点については、前に言及した。

> 2015-09-14 のテレビ放送で、現場を目撃していた人の話によると、越水は起こらなかったそうだ。「水が満杯になって、水が堤防を越えて、チョロチョロ流れるだろうな」(越水が起こるだろうな)と思いながら、堤防の上で見ていた。すると突然、堤防が決壊して、一挙に巨大な堤防が崩壊したそうだ。

 http://openblog.meblog.biz/article/26226373.html

 ──

 専門家が実地調査して「越水破堤だ」と断定したのだとしたら、専門家が間違っていたことになりますね。目撃者の話と食い違うから。

 比喩的に言うと、殺人現場の遺留品や死体を見て、専門家が「犯人はこいつだ」と推定しても、その推定が目撃者の話と食い違うのであれば、専門家の判断が間違いだ、ということになる。ただの推測よりは、実際の状況を目撃した人の証言の方が、ずっと信頼が置ける。
Posted by 管理人 at 2015年12月03日 22:07
>少なくとも鬼怒川の場合には、目撃者談から、越水破堤ではないとわかっている。

その目撃者は何を目撃したんでしょうね。w

国交省がすでに報告書をつくっており、

第2回 鬼怒川堤防調査委員会(平成27年10月5日)
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000101.html

◆堤防決壊時の映像(近隣住民の方から提供)[WMV形式:90MB]

には、近隣住民が越水を撮影した動画がリンクされているのですが、その目撃者には見えなかったようですね。w

また、

4.第2回鬼怒川堤防調査委員会 資料[PDF:13588KB]

には、河川事務所の職員が越水を撮影した画像が多数載っているんですが、やはり見えなかったようですね。w

上記報告書の「まとめ」は以下のとおり。

■鬼怒川流域における記録的な大雨により、鬼怒川の水位が大きく上昇し、決壊区間において水位が計画高水位を超過し堤防高をも上回り、越水が発生した。
■越水により川裏の法尻部の粘性土が洗掘され、堤体の一部を構成する緩い砂質土が流水によって流失し、決壊に至ったと考えられる。
■浸透(パイピング)については、堤体の一部を構成し堤内地側に連続する緩い砂質土を被覆する粘性土の層厚によっては発生するおそれがあるため、越水による堤防決壊を助長した可能性は否定できない。
■浸透(法すべり)や川表の侵食が決壊原因となった可能性も完全に排除することはできないものの、越水に比べるとその可能性は小さいと考えられる。
Posted by 王子のきつね at 2015年12月04日 13:42
国土交通省と土木研究所による報告書

http://www.hkd.mlit.go.jp/zigyoka/z_kasen/chiyoda_gaiyo/chiyoda_hokoku1.pdf

などに、過去に越水によって裏法面側の底部地面を削って破堤に至ったという事例が報告されています。

いずれにしても、ただ「ありえない」ではなく、根拠に基づく推論をお示し頂けると読者としては嬉しいです。
Posted by Kei at 2015年12月04日 14:41
>床上浸水地域は、ありません。
>床下浸水地域は、流域全体です。
先のコメントにも書きましたが、地面は平ではありませんよ?
低きに流れて溜まるのです。広く浅くなど、全く期待できないのですよ。

>「だけ」なんて言っていないでしょ。1番と2番があるとは書いたが、3番以下が存在しないとは言っていない。3番以下については、リンクのPDF を見ればわかるとおり。誤読しないでください。
管理人氏は、少なくとも記述時、そこに於いては浸透決壊の仕組みについて引用しただけでしょう。
PDFでは遮水のメインはシートです。ここまで言うなら、何故それが1番手にこないのでしょうか?

>1番いいのは、コンクリ被覆だ。(ただし金がいっぱいかかる。)
>2番目にいいのは、粘土層を埋め込むことだ。
管理人氏自身、こう書いているわけですから。

浸透に対してこの二点を、しかも「1番いい」「2番目にいい」とまでして挙げたのは、管理人氏ご自身です。
後付けはやめましょう。
Posted by 誤読ではありません at 2015年12月04日 15:15
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: