<もう一度会いたい>罪悪感深まるばかり
◎(4)自分を責め続ける母
「早めに帰って来るんだよ」なんて言わなければ良かった。
今野ひとみさん(45)=宮城県石巻市=は悔いてばかりいる。震災で3人の子を失った。
<約束あだに>
長女の麻里さん=当時(18)=は震災の日、地元の体育館に出掛けた。同級生とバドミントンをする約束をしている。
高3で卒業目前。大崎市の短大への進学が決まり、最後の高校生活をエンジョイしていた。
「遊んでばかりいては駄目だよ。早く帰って進学の準備でもしなさい」
ひとみさんは朝、そう言い聞かせて娘を送り出した。
麻里さんは母の言い付けを守った。
バドミントンを昼で切り上げ、バスで帰宅した。それを見計らうかのように津波が襲い、帰らぬ人となる。
そのまま体育館にいたら命を落とさずに済んだ。
バスは本数が少ない。1本逃すと帰りが遅れると早い便に飛び乗ったといい、それがあだになった。
津波が1日遅かったら。
その日、次女の理加さん=当時(16)=も家にいた。高2から高3に上がる時。入試期間で在校生は休みだった。
次の日の午後にケーキ屋さんでアルバイトの面接を受ける予定だった。
ケーキ屋さんに津波は届かなかった。津波が1日ずれたら死は避けられた。
理加さんは吹奏楽部に入っていた。担当はサックス。ひとみさんは勤めがあって演奏会を見たことがない。こんなことになるなら無理しても仕事を休めば良かった。
<尽きぬ後悔>
何で厚手のジャンパーを買ってあげたのだろう。
長男大輔君=当時(12)=は遺体で見つかった時、中綿入りのジャンパーを着ていた。
前年の誕生日祝いに「しまむら」で買った。寒がりだから厚いのがいい。本人も「かっこいい」と気に入っていた。
ジャンパーは水を吸って重くなっていた。溺れないようにするのを邪魔したかもしれない。
波に流されて生き残った1学年下の男の子から「大ちゃんのジャンパーをつかんで引っ張ったが、重くて動かなかった」と後で聞かされ、罪悪感が深まった。
自分を責め続けている。追い込み過ぎて気が変になりそうだ。
不意にあらぬことまで考える。
この子たちを産みさえしなければ。
この家に嫁がなかったら。
悔悟の念は入り込んでいけない領域に踏み込んでいた。
2015年12月04日金曜日