化血研:隠蔽周到…査察逃れあの手この手 改善命令へ
毎日新聞 2015年12月04日 07時15分(最終更新 12月04日 09時42分)
国内有数の薬品メーカー「化学及血清療法研究所」(化血研、熊本市)が40年以上にわたり血液製剤を不正製造していた問題で、厚生労働省は3日、医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づき立ち入り検査した。血液製剤の不正製造に関する資料などを確認し、同法違反で化血研に業務改善命令を出す方針。早ければ年内に処分する。
化血研の第三者委員会報告書によると、化血研は国の承認書にはない添加物を入れたり、加熱方法を変更したりしていた。医薬品業界への国の査察が厳格化されるとの情報を得たことから、1997年ごろから不正隠蔽(いんぺい)工作が本格化した。血液製剤製造部門の課長から「当局による査察で不整合(不正)が発覚しないように」と指示を受けた部下が中心となり、工作を進めたという。
ある製品のチームでは文字の書体が異なる2種類の製造記録を作成。国の査察で見せる虚偽の記録の文字をゴシック体、実際の記録を明朝体にして区別しやすくしたという。別のチームでは、製造記録のうち不正を記録した部分のページ数を「2.5」など小数で記載し、査察ではそのページを抜いて発覚を免れていた。
更に過去の製造記録を書き換える工作をした際、筆跡が似ている職員にサインをさせたり、ページを紫外線で焼いて古い書類に見せかけたりしていた。国の査察に対する想定問答集を作成し、予行演習まで行っていた。
化血研は2014年5月に血液製剤の一つで期限切れの原材料を使用したとして国の調査を受けた。当時の部長は「内部告発の可能性が高く、これ以上問題を抱えきれない」と常務理事に相談したが、不正製造を巡って今年5月に厚労省の調査が入るまで不正は続いたという。
一方、報告書は不正製造の背景として、80年代に社会問題化した薬害エイズに言及。輸入された非加熱血液製剤で多くのエイズウイルス(HIV)感染者が出たため、国は血液製剤を国内生産分でまかなう方針を打ち出した。こうした状況を受け、化血研は責任者のトップダウンで開発・製造を急いでいたと指摘した。
化血研は96年に和解した薬害エイズ訴訟の被告企業の一つ。原告団は和解にあたり「安全な医薬品を提供する義務があることを深く自覚する」とする確認書を化血研と交わしたが、血液製剤の不正製造はその裏で続いていたため、原告団は「裏切られた」と批判している。
確認書に署名した化血研の当時の理事長は不正製造を把握していたとみられ、大阪HIV訴訟原告団の花井十伍団長は「製薬企業として体をなしていない。和解した立場から強い憤りを覚えた」と語った。化血研の第三者委も報告書で「和解の誓約がうわべだけに過ぎなかったと非難されてもやむを得ない」と厳しく指摘している。【古関俊樹】
◇「安全面クリアしていない」専門家
化血研の第三者委員会報告書によると、化血研は血液を固まりにくくするヘパリンを血液製剤に添加するなど、遅くとも1974年から製造工程を国の承認を得ずに変更していた。重篤な副作用報告が確認されていないことなどから報告書は「人体に危険を及ぼすことを示す証拠が見当たらない」と指摘している。
しかし2日にあった厚生労働省の専門家委員会では、出席者から「安全面をクリアしたわけではない」という意見が相次いだ。現在も7種類の血液製剤は出荷差し止めが続いており、厚労省は同委員会の意見を聞きながら慎重に出荷再開の判断をする方針だ。
薬害問題に詳しい臨床・社会薬学研究所(埼玉県三郷市)の片平洌彦(きよひこ)所長は「ヘパリンは血液が固まりにくい人の出血を助長する恐れもある。国が責任を持ってヘパリンの添加量や濃度を確認するなど、安全確認をするまでは出荷を差し止めるべきだ」と話した。【黒田阿紗子】