■まるでピクサー!超絶ハイクオリティなCGに脱帽!
本作で目を引くのは、何と言ってもハイクオリティなCG。制作期間は実に1年半。自主制作作品にして、2,000時間以上という膨大な時間を費やした。取り掛かる前、まずは絵コンテ(約500枚!)から総秒数を割り出し、それを卒業までの日数で割ったところ、1日3秒分作るという結果が。毎日毎日それをノルマにひたすら作業したという。数時間で終わる日もあれば、夜中までかかる日もあったそうだ。更に、レンダリングの時間も膨大で、約1年を要したというのだから驚きだ!
使用したソフトウェアは主にMaya、Adobe After Effects、そしてAdobe Final Cut Proだ。また、テクスチャーの色はMudbox、雲の制作はVue、レンダリングはmental rayを使用。苦労した点は、凧のダイナミックさと背景の作り込み。凧は布のような動きをするところもあれば、硬質な動きをするところ、さらにはそれらがミックスされたような動きをするところもあるそうで、かなり手こずった。また、背景はフォトリアルなものを目指していて、自然な背景描写のために、小石や岩は手動で置いた。それだけで何日もかかったというのだから、本当に骨が折れる作業だ。
アンダーソン監督が大切にしているのは、ムード。ストーリーよりも最初に設定する。本作では霧につつまれ、毒が蔓延しているような惑星。強い風と乾いた音、それに欲深いロボット。長回し、引き画そしてミニマルな音楽というムードから出発し、自身の幼少期の体験を元にストーリーを組んだ。参考にしているのは「マグノリア」の監督・脚本で知られるPaul Thomas Anderson(ポール・トーマス・アンダーソン)の作品。加えて、Coen brothers(コーエン兄弟)の作り出すムードだ。映画制作を始める前に、野外用の機械に携わる仕事をしていたことも活きており、ロボットがどんな動きをし、どんな音を鳴らすのかが良く分かっていたという。
実は同大学の映画制作学科に入れなかったという過去を持つアンダーソン監督。しかしデジタルアーツプログラム学科に入り、アニメーションの魅力にとりつかれた。本作は2015年米国、英国両アカデミー賞学生部門のファイナリストに選出され、テネシー州の映画祭Nashville Film Festivalの学生部門で審査員特別賞を受賞するなど、数々の賞を受賞している。現在はミネソタ州ミネアポリスにあるThread Connected Contentにて、プロのアニメーターとして働いており、アニメーターとしての道を切り拓いたアンダーソン監督の今後にも期待したい!
■恐れることも大事。ペイント風手書き2Dアニメーション!
制作期間は3ヶ月半。リサーチ、ブレスト、“恐れ”に関する一般的なアイデアの調査を行った。そこから“恐れがない男”が街に来て、事故に遭うというストーリー(始めはなんと、死んでしまう話だったらしい!)を作った。また、それと並行してアニメーションテストを行い、フルサイズの絵コンテをFlashで制作。そこから実際のアニメーションにし、最後に色を重ねた。ちなみに複雑なショット(例えば最後にバスが主人公の目の前ですり抜けていくシーンなど)は、実際のミニカーで撮影した映像を使用している。音楽も約5,000曲ある中からしっくりくる1曲を採用しこだわり抜いた。絵コンテなど、制作の過程が詳しくみれるのはこちらから。
メトルフ監督はウクライナ出身の女性で、アートの教育と数学の博士号を持つ。卒業後、グラフィック・ウェブデザイナーとしてIT関係の会社で働いていたのだが、心機一転アメリカに移住し、向こう5年間はフリーのイラストレーターとして従事していた。2014年よりバンクーバー・フィルム・スクールに通い、卒業制作として本作と、デジタルと手書きのバトルを描いた「Digital vs Traditional」を制作。数々の経験が活かされた独創的な世界を生み出した。
■植物×幾何学!カラフルでコミカルなストップモーションアニメーション!
実は、すでにMicrosoftやNokiaといった会社と仕事をした経験があるオメーラ監督。イギリスのコメディ番組、E4のタイトルバック「E-Stings」なども手掛けるなど、その才能は学生の枠に収まらない。事実、ロンドンとマンチェスターを拠点に活動しているWulf Collectiveという映像・アニメーショングループのメンバーでもあり、精力的に制作活動をする。
彼が影響を受けたものとして挙げられるのは、ヌーヴォー、日本画、インディアンアート、そしてビクトリア調のイラストのデッサン。それは、彼のアニメーション作品だけではなく、イラストにも反映されており、その様子はこちらから伺える。
■新聞紙を舞台に謎を解く!イギリスのエッセンスが詰まった洒落たアニメ
本作は、元々別のプロジェクトのコンペで作った、“紳士たちが新聞誌の中の世界でバトルをする”というアイデアから始まっている。その後もそのアイデアを温めていたところ、動物に置き換えた話しを思いついた。また、本作にはイギリスを代表する「ハリー・ポッター」や、Roald Dahl(ロアルド・ダール)、Agatha Christine(アガサ・クリスティ)、Sharlock Homes(シャーロック・ホームズ)、「101匹わんちゃん」らの作品と、イギリスへの愛が込められている。
制作期間は約3ヶ月。2014年12月から構想し、2015年3月に完成。使用したソフトウェアはアニメーションソフトのToonboom Harmony。それにAdobe PhotoshopとAdobe Premiereで仕上げた。実は本作、テレビシリーズにしないか?という声も上がっているそうで、もしかすると近い将来、シリーズモノとして続きを見られる日もあるかもしれない・・・!
■冠木佐和子の世界へようこそ。気持ちのいいグロテスクモーフィングを見よ!!
本作は、冠木監督曰く「好きな人のお尻に隠れていたい女の子の話」で、女の子の独占欲、嫉妬心、罪の意識といった感情のとめどない様を描いたのだという。実際に冠木監督は「好きな人のお尻に住みたい」と豪語するほどお尻に対する想いが強い。それは2014年、ザブクレ国際アニメーション映画祭の学生グランプリを獲った「肛門的重苦」でも象徴的に描かれており、本作でも健在だ。
制作期間は4ヶ月で、すべて1人で行っている。3,500枚にも上る絵を描いた。また、絵コンテは基本的に描かないそうで、頭の中のアイデアを、作業をしながら落とし込み具現化していくという。使用しているソフトウェアはAdobe PhotoshopとAdobe After Effects、それにiMotionを使って動きの確認をしている。
本作は、すでにアヌシー国際アニメーション映画祭でノミネートされるなど、海外の映画祭でも高い評価を受けており、冠木監督の最新作「おかあさんにないしょ」もかなり攻めた内容となっている。エロチック、グロテスク、シュールといった作品性はどこまでいくのか。型破りな彼女の今後の作品も楽しみに待ちたい!
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