重い心臓病と闘病を続け、4年前に他界した母方の祖母は、少しなら歩けるのだからと、シルバーカーを欲しがっていました。しかし祖父が、外出時は手元にいないと心配だということで、シルバーカーに反対し続け、どこに行くにも常に車いす移動でした。小柄で色白なためお人形じみた祖母が、ちんまりと車椅子に座り、自宅の目の前の商店へ行くにも祖父に押されて移動している様は、傍目にはそれは仲睦まじく、可愛らしい光景でした。
シルバーカーを嫌がった祖父
まさに理想の夫婦とも言えそうで、実際にそういった誉め言葉をご通行の方からいただくことも多数だったようですが、 病気に負けないだけあって芯の強い祖母は、他界するまでずっと 「家の前に行くにもコロコロコロコロ……降りちゃうと怒るし……人形じゃあるまいに……」と実は不満そうでした。しかし、祖父本人にはこぼせない愚痴でした。
自分の意思で自分の行きたい所に行けるなんて、それだけで幸運だと思う。
夫を思いやって女性には買えないことだってあるのだから――という話を、父方の祖父にしましたところ「シルバーカーなんて恰好悪い」と、ひたすらにかたくなだった祖父も、少し考えるそぶりを見せました。
シルバーカーを使う方の印象
孫である私達の30代の世代には、シルバーカーはさしたる抵抗のあるものではなく、ただ「足がお悪くなって、移動が大変でいらっしゃるのだな」という印象しかありません。
旅行に持って行くキャリーケースと大差ないくらいです。
だから、転倒に気を払いながらもまれに転倒してしまう祖父に、「格好悪くなんかないよ」「荷物いっぱい持てて便利じゃない」「私が押しているベビーカーと一緒だよ」「椅子になるのもあって楽だよ」「遠くへ行けるよ」などと、離れて暮らす孫一同、口々に今まで説得していました。