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 精液の検査は、男性の妊孕(にんよう)力を評価するとても大切な検査です。でも、この所見はいろいろな条件で影響を受けます。

 通常は3~5日ぐらい禁欲した後、容器に採取していただき、その精液量、精子濃度、総精子数、総精子運動率、前進精子運動率、正常形態精子率などを調べます。禁欲日数が短いと、精子評価項目の数値が低くなります。ですので、禁欲期間を一定にすることはとても大切です。

 射精されたときに身体がどのような状態かは、精子の質にかかわる重要な要因です。すなわち、十分な性的興奮状態で採取された精液はそうでない精液と比べて、所見が良いといわれています。このため精液を採取していただくときには、採取する環境に注意することが大切になります。

 また、精液を全量採取することも大切です。精液は、精巣上体という場所にたまった「精子濃縮懸濁液」と「副生殖腺液」(前立腺液、精嚢〈のう〉液など)というものからできていますが、射精された精液のうち、前半に出たほうでは精子に富んだ前立腺分泌液が多く、後半に出たほうでは精子の含まれる量が少ない精嚢液が中心となります。ですので、射精精液の前半部分を採取できなかったりすると、その方の状態を正確に反映できない結果となってしまいます。

 現在は、精子濃度がかなり低い患者さんには体外受精や顕微授精という治療法がありますが、この治療法がなかった時代では、射精液の前半のものを用いて人工授精を行ったこともありました。

 精液検査で一番重要なことは、一回の検査だけでその方の精液の状態を判定することは不可能だと知っていただくことです。グラフをみてください。これは、WHOマニュアルの中にある、Shering Plough とBayer Shering Phama AGという製薬会社から提供を受けた5症例の1年半にわたる精子総数と精子濃度の変化です。見ていただくとわかるように、精液の所見はかなり変動していることがわかります。

写真・図版

 たとえば、1回の検査で精子がたくさん見つかっても、実はたまたまそのとき多かっただけということもあります。ですので、1度検査を受けて問題がなかったのになかなか妊娠に至らない場合は、時期をみて、何度か検査されることをお勧めします。また逆に、最初の検査結果が悪くても落ち込むことなく、時期を見て改めて検査されることも大切です。

<アピタル:男女で知って欲しい「妊活」・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/ninkatsu/

アピタル・齊藤英和

アピタル・齊藤英和(さいとう・ひでかず) 国立成育医療研究センター医師

専門は生殖医学、不妊治療。日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長。内閣府の「少子化危機突破タスクフォース第二期」座長(2013-2014)。現在、内閣府「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」委員を務める。