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白衣のミュージシャン 名城病院腎透析科 赤沢貴洋さん

医人伝

(2011年5月17日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

“家族”として伴走 医師 赤沢貴洋さん(36)

画像透析中の患者さんに血管の様子を説明する赤沢貴洋(あかざわ・きよひろ)医師。丸刈りは長年のトレードマークだ

 美空ひばりの歌が流れる中、80代女性の手術が始まった。

 長期の人工透析をする患者には、避けて通れない「経皮的血管形成術」(PTA)。腕に入れた人工血管の周囲など、硬く細くなった血管をバルーンで広げる手術だ。

 赤沢貴洋さんはいつも、患者の痛みを和らげるために、事前にリクエストを聞いてCDを流す。緊張の強い人には、絶え間なく話し掛けて気を紛らわす。

 「透析の患者さんは人生の長い時間を病院で過ごします。ずっと伴走する医療者は、おおげさではなく家族なんです。『息子みたい』と言ってもらえると、本当にうれしい」

 痛みを伴うPTAを1分1秒でも早く終わらせることに工夫を重ね、手術時間を20分弱にまで短縮できた。手際の良さと温かさで患者が増え、年間の手術件数は500件以上と、全国で指折りの実績だ。

 もう1つの顔が、白衣のミュージシャン。病院で出会った人生ドラマ、心のきずなを歌にして、バンド「ハートフルホスピタル」で慰問ライブなどの活動をしてきた。オリジナル曲のCDも4枚出している。

 ライブでも人気の「永い2人だから」は「かすれた声 うつろな瞳 薄れゆく意識の中 それでも離さない 握り締めた手を…」と、老夫婦の別れの光景をつづった。

 3枚目のCD「ありがとう」は「あなたの『ありがとう』のひとことで、僕は明日も頑張れる気がしたよ」と、仕事のやりがいを歌にした。

 面と向かっては、照れくさくて言えない思いも、歌なら表現できる。聴いた患者が「先生、そんなふうに感じていたの」と親しみを見せてくれるのもうれしい。ライブは無償で、CDの収益は全額、患者団体などに寄付している。

 愛知県知多半島の漁師町で生まれ育った。ギターと野球に明け暮れた中学時代。祖父を病気で、親友を交通事故で相次いで失った体験が「いのち」への思いを芽生えさせ、金沢医科大(石川県内灘町)に進んだ。国家試験に1度落ちたことで地元に戻り、合格後の研修中に、透析医療の密接な関係に魅力を覚え、この世界に進んだ。

 思いが熱く、行動が速いだけに、どんどん忙しくなる。中部地区での透析のカテーテル治療研究会の世話人も務め、移植医療の啓発にも力を入れる。自らに課した目標は「患者が誇らしく思えるような主治医でいること」。今日も、丸刈りで院内を走り回る。(野村由美子)
 名城病院腎透析科(名古屋市中区)

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