印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,リーダーシップ,仕事術,働き方,書評 06:30 AM
困った上司とうまくやっていく方法
・自分が絶対正しいと思い、他人の意見を聞かない。
・大事なことを自分で決められない。
・仕事を部下に任せられない。
・仕事を部下に丸投げする。
・部下の手柄は自分のものにするくせに、責任は取らない。
・相手の時間やコストを考えない。
・説教、自慢話が多い。
・暴言を吐く。
・自分は特別だと思っている。特別扱いされないと気が済まない。
(「はじめに」より)
このような「困った上司」「迷惑な上司」は、どんな職場にもいるもの。しかし『「上司」という病』(片田珠美著、青春新書インテリジェンス)の著者は、もっと「まともな人」を課長や部長にするのはむずかしいことだと断言しています。なぜなら「困った上司」は個人の性格や人間性のみならず、「上の立場」というポジション自体の問題が大きく影響しているから。
最初はまともだと思っていた人も、「上の立場」に立ってしまうと簡単に「困った上司」「迷惑上司」へと変貌してしまうということ。理由は、上の立場に立つことによって「そういえる立場」になってしまうから。上司になると、とりあえずみんな話を聞いてくれるし、共感してくれる人も増えるので、勘違いしてしまうということ。
だとすれば、彼らと接する際にはどうすればいいのでしょうか? その点を探るべく、第5章「暴走上司をいなす『心理』戦略」に目を向けてみたいと思います。
上司は例外なく「素人」
いい上司に出会えるというのは、理想の結婚相手が見つかるような、とてもラッキーなことだと著者はいいます。そして、ダメな上司に出会うのは、決して不幸なことではないとも。なぜなら、それは普通だから。まずはそう思った方がいいという考え方です。
たとえばよくあるのが、「上司の発言がコロコロ変わる」という悩みや不満。しかし、そもそも仕事をするうえで「最初からすべてを見通し、一貫した指示を出す」ことは困難。一般的にいって、世の上司たちにそこまでの能力はないというのが後者の捉え方です。
また情報収集も不足しており、状況分析も甘いからこそ、「Aでいこう」といったそばから「やっぱりBにしよう」と意見を変えたりするのだということ。そういう認識を持つことが、なによりも大切だといいます。
つまり、そのような上司は「素人」であり、だとしたら部下が優秀なプロフェッショナルになるしかないということ。異なった表現を用いるなら、部下として「上司をマネジメントする力」を身につけるしか方法がないというわけです。
やや厳しい言い方にはなるが、ダメな上司に対して文句や愚痴を言っているうちは「プロの部下」になり切れていない証拠。あなた自身に、上司をマネジメントする能力が足りないということだ。(116ページより)
だからこそ、上司に対する期待、理想、幻想、妄想はすべて捨て、「上司をマネジメントするプロフェッショナル」になることしか解決の道は見えてこないといいます。(114ページより)
「自分だけが絶対正しい」人に意見を通すには
では、「自分が絶対正しい」と思い込み、周囲の意見を聞かない上司に対してはどのような対策を取ればいいのでしょうか? この点について大切なのは、彼らが「自分の意見をいいたいのだ」ということを理解しておくことだそうです。
クレーム処理のプロには、「とにかく、相手にしゃべらせることが大事」だという考え方がありますが、「自分が絶対正しい」と思っている人も基本構造は同じだということ。自分が否定されることがとにかく嫌いで、それ以前に「自分の話を聞いてくれない」という状況にはもっと腹を立ててしまうわけです。
だから、相手の意見が「正しいか、間違っているか」はとりあえず度外視し、「いまは聞いてあげる時間なんだ」と割り切って話を聞くべきだということ。「すごいですね」「おっしゃるとおりです」などのヨイショをしなくとも、誠実に聞くだけで相手は気持ちよくなるはずだといいます。
しかし問題は、「自分が絶対正しい」と思っている人に、いかにしてこちらの意見を認めさせるか。そのことを考えるにあたっては、彼らが心の内に持っているものを見極める必要がありますが、それは次の3つに集約されるそうです。
1.過去の成功体験
2.自分は特別だという意識
3.自分が無能だと思われたくない(否認)
(122ページより)
「自分が絶対正しい」と思っているを注意深く観察していると、たいていはこの3つの要素で話が構成されているのだとか。だから相手の気持ちを逆なでしないように、上手にマネジメントしていく(操っていく)ことが肝心なのだといいます。
過去の成功体験には役に立たないことも少なくありませんが、だからといってそこを真っ向から否定してしまうと、「自分は特別だという意識」も「無能だと思われたくない」という願望もすべて否定することになり、結果的に上司を追い詰めてしまう。しかし、それでは状況が悪化するだけ。
著者によれば、ここでのポイントは、「私たちは、あなたほど優秀ではないので、同じようにはできないのですよ......」という論法で話をすること。そのようなアプローチをされたら、当の上司も「まあ、そうかもしれないが......」と同調したくなるだろうという考え方です。
この論法は「あなたの成功体験」はすばらしいけれど、「あなたが特別」だからうまくいったのであって、私たちにはできませんよ、という構造。つまり1.、2.、3.を巧妙に利用している戦法なのだといいます。表現の仕方次第ではリスクも高くなりそうな気がしますが、「自分が絶対正しい」と思っている上司に違う意見を伝えて説得したいなら、成功体験を否定せず、自尊心をくすぐることが重要だということです。(120ページより)
責任逃れを未然に防ぐには
困った上司のなかでも、特に直接的な被害が大きいのが「責任を押しつけてくるタイプ」。たとえば不祥事があった場合などには「上司の指示があったのか、なかったのか」「本当の責任は誰にあるのか」が重要になってきます。
また、そこまで大きな社会問題ではなかったとしても、たったひとつの判断ミスが何百万、何千万という損失を生むケースは決して珍しいものではないでしょう。そんなとき、「果たして、それは誰の判断だったのか」が重要な問題になってくるわけです。
だからこそ上司に「あの人は責任をとらない人だなあ」「すぐに責任を押しつけるタイプだ」という印象があるなら、「いざというとき、責任を押しつけられないための対策」を普段から考えておく必要があるということ。
基本的な防衛策として著者が挙げているのは、できる限り一対一でのコミュニケーションを避けること。密室で一対一のやりとりをしていると、最後は「いった、いわない」の話になってしまうからです。しかも会社はたいてい上司の言葉を採用するものなので、そうなった場合、部下にはほとんど勝ち目がなくなってしまう。
だから、もし一対一でのやりとりを避けられず、「危ない感じの話になりそうだな」という気がするのであれば、ICレコーダーを忍ばせ、こっそり録音しておくこともひとつの手段だと著者。そのやり方だとコミュニケーションそのものを壊す危険性もあるように思いますが、上司に一切の期待をせず、自分の身を自分で守ることを考えると、それくらいのことが必要な場面もあるというわけです。
あるいは録音ができなければ、密室でのやりとりを終えたらすぐにメモをとり、日付と時間を入れて残しておく。きちんとした記録が残っていれば、それなりの証拠になるということです。
また基本的なことではありますが、上司とのやりとりはできるだけ口頭で済まさず、書面やメールなど証拠が残るようにしておくことも大切。そこで、「間違いがあるとかえってご迷惑をおかけしてしまいますので、一度メールで指示の内容を送っていただけますでしょうか」と上司に依頼することを習慣づけておくと便利。
また、仮に口頭のやりとりだったとしても、すぐあとで「念のため、確認をさせていただきます。◯◯の件は、このような形で進めさせていただきますが、よろしいでしょうか」という趣旨のメールを送り、やりとりを残しておくという方法も。たしかにこれなら、角は立ちにくいかもしれません。(128ページより)
なるほどと思わせる反面、ときおり戸惑いもするのは、著者の言葉があまりにストレートだから。そこに抵抗を感じる人がいてもおかしくはありませんが、それでも、「上司とうまく付き合っていくためのひとつの参考」としては機能すると思います。
(印南敦史)
- 「上司」という病 (青春新書インテリジェンス)
- 片田 珠美青春出版社
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