日本人がつくった「派出婦」という単語が韓国の記録に登場したのは、植民地時代の1930年代末のことだ。イ・ハンソプ教授が編集した『日本語に由来する韓国語辞典』で「派出婦」を探すと「本町署管内に事務所を有する派出婦組合は…」という例文が掲載されている。これは1939年1月の新聞記事だ。韓国人にとって「派出婦」という単語は、日本人の家で家事を担当する植民地の労働スタイルとして、このとき初めて紹介された。
韓国でいう「下女」「食母」と同じように、日本にも主人の家に住み込みで働く「女中」がいた。20世紀前半になると、近代化によって女中が工場で働くようになり、その穴を埋めたのが、昼に時間のある女性たちだった。このころ「仕事をさせるため派遣した女性」という意味で、使われるようになった用語が「派出婦」だ。名前こそ近代的だが、待遇は旧態依然としていたため、日本では死語と化した。30代後半の日本人に尋ねたところ「差別的だし、聞き慣れない言葉だ」と話した。派出婦に代わって登場した「家政婦」も最近では使われなくなり、「介護福祉士」のように、細かい役割に応じた専門用語で呼ばれるようになった。
日本で「混血児」に代わって「ハーフ」という外来語が定着したのは1970年代だった。それさえも「和訳すればもっと差別的に聞こえる」という批判を受け、十数年前には「国際児」という言葉も登場した。その一方で、政府やメディアは彼らを直接指す単語を使うのを避けるようになった。批判される言葉を使う代わりに「父母の一方が外国籍である子ども」というまわりくどい表現をしている。
「私生児」は1942年に法令から削除され、「混血児」や「派出婦」よりもかなり前に死語となった。その代わりに「婚外子」という表現を用いている。日本でも有力者の隠し子はホットな話題になる。メディアがこのような温和な表現で満足するはずがない。かといって「私生児」といえば批判されるため、「隠し子」という表現を用いるようになった。その意味だけを見れば「私生児」よりもはるかに差別的だ。
韓国の法制処(日本の内閣法制局に相当)は「法令用語から差別的な用語を追放する」として、「派出婦」「混血児」「私生児」という用語をそれぞれ「家事手伝い」「多文化家庭の子女」「婚外子女」という言葉に置き換えると発表した。これらは日本から伝わった言葉だ。日本で数十年前に死語と化した言葉を、なぜ今韓国で使おうとするのか、知る由はない。「自動除細動器」「口中清涼剤」といった医療用語も「過度に専門的」との理由で見直すという。その多くが、日本で使われる漢字語を韓国でも使ってきたものだ。韓国の国会や政府が、法律の条文を作る際にどれだけ無神経な姿勢で臨んできたのか、察するに余り有る。