背景には、与党セヌリ党に有力候補がおらず、野党・民主党は候補が多く支持者が分裂しているという政界事情がある。そして潘氏の知名度の高さとイメージのよさ。それに国連事務総長の任期切れが2016年で、翌年の大統領選にぴたりというタイミングもいい。
とくに与党内では朴槿恵大統領の“後継者”として押す声があり、与党で次期を狙っている金武星代表サイドがそれを極度に警戒しているとの話が伝わっている。
政界では潘氏は朴槿恵大統領の好みのタイプという説がある。外交官出身で礼儀正しく、イエスマンで自己主張はせず、決して相手を不快にさせない、いわば”執事タイプ”だからだ。これは”忠臣好み”の朴大統領への皮肉でもあるが。
韓国政治では地域性が重要だ。彼は過去の慶尚道vs全羅道の東西対立とは距離を置いた中部圏の忠清道出身なため、地域対立という〝韓国政治の病弊〟を脱却するにはいいチャンスという声もある。
ただ現在の潘人気はバブル説が強い。与野党どちらにつくかが未定な時は双方の陣営で人気があるが、どちらか一方の候補になったとたんにバブルははじけるという。
問題は本人の出馬意欲だが、先頭に立って旗を振るリーダータイプではないため政界では否定的な見方が強い。固定支持層を持つ朴大統領が担いだとしても退任大統領の影響は限られている。それに、きれい事だけでやってきた外交官上がりには、大統領選という権力をめぐる激しい誹謗中傷、足の引っ張り合いには耐えられないとも。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
※SAPIO2015年12月号
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