野間易通とスターリンのアナロジー - 憎悪と暴力、奪権と野心の政治表象

鹿砦社が発行している反原発雑誌の最新号で、野間易通を批判する記事が出たらしく、しばき隊の界隈で話題になっている。鹿砦社といえば、藤井正美が『紙の爆弾』の編集者をやっている出版社だ。何が起きているのだろう。前回、しばき隊のリーダーである野間易通の人格分析の予備的作業として、アレクス・ド・ジョンジュのスターリンの伝記から特に少年期に焦点を当てて引用を試みた。当初の想定では、もっとコンパクトな引用になるはずだったが、カットできる部分がなく、紹介したい記述が多すぎて、記事の半分が伝記の引用で埋められる結果になった。結局のところ、野間易通の人格が何かという問題の本質的探究は、ジョンジュが全てを語り尽くしてしまった感があり、補足や追加の必要はないと思われる。あとは、ここに本人の足跡を材料として置くだけでよく、その作業を満たせば、ジョンジュのスターリン論が社会科学的に正鵠を射た野間易通論の方法となるだろう。社会科学では実験ができない。実験ができない代わりに歴史を使うことができる。仮説の証明において歴史を用いるのが社会科学なのだと、6月の本郷での立憲主義のシンポジウムで石川健治が言っていたが、この言説は丸山真男のもので、みすずから最近出た話文集の中にある。できれば、石川健治には、この一般論の指摘に当たって丸山真男からの出典を言及して欲しかった。

例えば、2000年代、tpknを名乗った問答野暮用での無双の掲示板荒らしの活躍とか、kdxを名乗ってのmixi時代の騒動の追跡と検証によって、この異様な暴力的個性の前史が浮かび上がるに違いない。それ以前の、1990年代、ミュージックマガジン時代やWIRED時代の実態と経緯も、今日を語る上で大いに参考となるだろう。左翼リベラル業界で一定の地位を築いた今日では、これらの不都合な経歴は消されていて、Wikiの「正史」には書かれておらず、大手紙にも掲載される「社会運動家」の前歴として具合が悪いためクレンジング処理されている。しかし、しばき隊とは何かを知る上で、これらの過去情報は有意味な材料となるはずで、どこかの時点で、当時の関係者がマスコミに登場して証言する図があるかもしれない。野間易通の経歴で特徴的なことは、企業なりに就職して働いた期間がきわめて短い点と、周囲の人間関係で常にトラブルを起こし続けてきた点だ。前者については、おそらく、芦屋の実家が裕福で経済的に困らない境遇ということがあるのだろう。この問題に関連して少し脱線するが、しばき隊のNo.1、No.2、No.3の3人の諸個性を並べたとき、3人とも関西出身だけれど、No.1とNo.3はお坊ちゃんであり、わがままな性格で金に不自由していない。No.2は中産階級の出身で、だから仕事を持って匿名で活動していたのであり、そうせざるを得なかった。

私がNo.2を買う理由はその点にもある。No.2は周囲と軋轢を起こしていない。15年間、ずっと創業した同じ企業で働き、仲間を作り、仕事の実績を積み上げている。信頼を得、仕事仲間を大事にし、仲間から大切にされている。しばき隊の分析において野間易通とスターリンとのアナロジーに着目する視角は、掲示板荒らしを卒業して路上に出、「社会運動家」となった野間易通を考察するとき、さらに有効な成果を導出するに違いない。本来、ここで正確な証言をわれわれに提供し、しばき隊の政治科学的対象化に貢献しなくてはいけないのは、植松青児であり、モジモジであり、園良太や「ヘイトスピーチに反対する会」の面々だろうが、荷が重すぎるのか、彼らが何も口を開くことができない。いわゆる日本の左翼の典型像であったこれらの面々が、野間易通の「噛ませ犬」となり、完膚なきまでに暴力で叩き潰され、しばき隊が左翼世界で勢力を拡大する土台となった。この「負け犬」たちの存在と態様こそが、スターリンとその徒党がボリシェビキの中でのし上がり、権力を掌中にして君臨した事情をそのまま複製して描き見せている。スターリン主義の歴史が見事に再現されている。一部に、野間易通をスターリンに擬して解読する議論は、スケールに差があって違和感を覚えるという感想を聞くが、それは、平成の「乱世の奸雄」として橋下徹と双璧をなす野間易通に対して失礼な評価だろう。

野良犬のゴロツキから成り上がって一大勢力を築いた「英雄」として、ファシズムの時代の申し子として、右の橋下徹と左の野間易通には、失礼のない応分で適当な政治的評価を与えないといけない。野間易通の実力と野心を見くびるのはよくない。ボリシェビキの1920年代前半までを一瞥したとき、スターリンは知識と教養のない小物であり、こうした革命党には必ずあるところの、ボリシェビキの非合法部門の総務主任であり、その方面の才能をレーニンに買われて出世していただけのゴロツキだった。革命後に組閣したレーニンのキャビネット(人民委員会)は、知性の水準の高さで欧州の知識人から高く評価されたが、その中に水準を引き下げるスターリン(民族人民委員)が入閣していることは、科学者が政治をするのがマルクス主義だという理想と自負を持つ幹部たちの間では歓迎されない一事だった。だが、マヌーバーとテロリズムの駆使によって、狡猾なこの男はレーニンの後継者となり、ソ連と社会主義圏の帝王&教皇になるのである。今の日本の左翼が、未だに野間易通を軽く見ているように、当時のボリシェビキたちはスターリンを過小評価していたのだ。それは、10年前にわれわれが橋下徹を過小評価したのと同じである。過小評価は自己の願望の投影にすぎない。そして、ボリシェビキたちがスターリンを見くびったように、植松青児やモジモジらは野間易通を侮り、逆にテロルの術中に嵌まって屠られた。

スターリンと野間易通に共通するキーワードは、やはり憎悪であり、憎悪と暴力の扇動と正当化だろう。この40年間、日本の左翼からは憎悪と暴力の契機は消えていた。連合赤軍によるあさま山荘事件と山岳ベース事件の蛮行と悲劇の後、日本の左翼は暴力と決別し、暴力を政治に持ち込む思想を止揚した。明らかに、70年代以降の日本の左翼はお行儀がよく、品行方正で、知性主義であり、知識と教養と論理と品格を重んじ、誠意ある議論と核心を衝いた説得で支持者を増やすという態度だった。不破哲三をトップとする共産党がその模範を示していて、それは今でも、例えば、志位和夫の国会質疑において象徴的に発現され感得されるものとしてあり、劣化し堕落した日本人一般に、政治的立場の左右を問わず、反省を誘い、良識を保っていた過去の日本への郷愁を誘うものとなっている。だが、新潟日報記者の「闇のキャンディーズ」のTwは、どうして左翼がこんな暴言を吐けるのかと目を疑うほど、徹頭徹尾、目眩がするほど、敵対者に対する憎悪と暴力の衝動で充ち満ちている。「お前の赤ん坊を豚のエサにしてやる」などと、どうして左翼の53歳の新聞記者が書けるのだろう。この常軌を逸した狂気と暴走は、決して新潟日報記者だけではないのだ。しばき隊に共通して見られる精神特性である。今はTwを閉鎖しているけれど、「闇のあざらし」を名乗った57歳の男も同じような暴言を常に吐いていた。暴力動機の表現は共通している。

しばき隊が登場して3年、ネットで見る日本の左翼はすっかり暴力的に変質し、彼らがネトウヨと呼んで蔑む集団と属性・傾向が同じになった。言葉と態度が同じになった。共産党が模範を垂れていた品行方正と知性主義とはおよそ無縁な、毒々しい危険な教団性となり、一般市民にまで暴力の危害を加える存在となった。私が身をもってそのことを感じさせられたのは、昨年2月の東京都知事選のときの体験である。しばき隊の狂気と倒錯は、政治闘争に勝つためには暴力も容認するという思想が徹底している点にあり、暴力を手段として肯定するために自らを絶対的正義と狂信するところにある。そして、自らを批判する者を容赦せず、レッテル貼りして殲滅するまでヒステリックに攻撃し続けるところにある。エネルギーの原動力は憎悪に他ならない。理論ではなく憎悪。憎悪を敵対者にぶつけ、誹謗中傷し、個人情報を晒して脅し、敵対者が苦痛を受けたり、屈辱を覚えたり、我慢を強いられて泣き寝入りするのを見て愉悦するサディスティックな快楽。こうした態度は、品行方正を旨とし、右翼に対して知性的倫理的優越で臨んでいた左翼には、嘗ては一般的に見られない特質だった。今、若い世代を中心に、日本の左翼全体が異常になりつつあり、凶悪で粗暴になりつつある。さて、野間易通の人格についての推測と仮説だが、やはりそこにスタ-リンと同じ要因が介在し、家庭環境に不具合があったか、中学時代にいじめを受けたか、そのどちらかだろう。

時間を超え、空間を超え、普遍的な政治の法則性として、左翼世界にスターリンの悪魔的個性が現れると、そこにスターリン主義の政治的現実が発生する。人が憎悪の政治の中で跳梁し爆発する。



by yoniumuhibi | 2015-12-02 23:30 | Trackback | Comments(1)
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Commented by Kikuo watanabe at 2015-12-02 19:23 x
以前のことですが、友人からtpknさん=野間易通さんだと聞いたことがありました。だからどうだと言う訳ではありませんが、この方は相当理屈っぽいことと随分攻撃的な人物じゃないかと言う印象・記憶があったことを思い出しました。しかし、過去においてどんなにか苦々しい投稿や書き込みがあったとしても、それはそれでネットの黎明期?であり、目立つ投稿によって「場を仕切る」と言う感情に縛られていたと言うことも可能かと思えますが・・・。しかし最近の氏の行動が社会的に大きな影響を与えていると言うことになると筆者の批判、論評にも耳を貸さざるを得ないと思います。
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