クローズアップ現代「本当にキケン?あふれる食品情報」 2015.11.30


私たちの食生活を支えるさまざまな食品。
それがもし、危険だといわれたらあなたはどうしますか?
先月、WHOの専門機関が加工肉に発がん性があるなどの調査結果を発表しました。
その情報は、瞬く間に世界中に拡散。
日本では、国の研究機関がリスクは高くないと発表したものの消費者の買い控えが起こりました。
インターネット上では食品の有害性を訴える過激なフレーズが飛び交い消費者に混乱が生じています。
あふれる食品の危険情報。
私たちはどう見極めどのような食生活を送ればよいのか、考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
安全な食べ物は消費者の重大な関心事です。
発がん性物質や残留農薬食品添加物を極力排除したいと思う多くの人々。
ところが毎日、当たり前のように食べているものや健康によいと聞いて意識して食べていたものがあるとき突然、危険だと指摘され戸惑うことも少なくありません。
ことし6月FDA・アメリカ食品医薬品局がマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸が、心臓疾患のリスクを高めているとして3年後までに全面禁止にすると発表しています。
先月、WHO・世界保健機関の専門機関が、加工肉に発がん性があるなどと発表しています。
食習慣が異なる海外からのこうした情報が日本人にどれだけ当てはまるのか。
判断は容易ではありません。
最近では、自然な食材に含まれる微量な化学物質も検出できるようになりこれまで見えなかった有害性が見えるようになりました。
さらに、調理することで生成される物質に発がん性があるという指摘も出てきていまして何をどのように怖がったり避けたりすればいいのか判断が難しく、買い控えなど大きな混乱も起きています。
消費者の目に飛び込みやすい食品の危険性などの情報にどのように向き合っていけばいいのか。
初めに、危険情報に翻弄されがちな現代社会の実態からご覧ください。
都内に住む主婦の本間さやかさんです。
5歳と1歳の子どもと夫家族4人で暮らしています。
出産を機に、食の安全に強い関心を持つようになった本間さん。
インターネットで調べると食品の危険性を指摘するサイトが数多くあることが分かりました。
ふだん食べているものも多く正しい情報かどうかも分からない中不安を感じています。
そうした中、本間さんの目に留まったのが、加工肉に発がん性があるなどという内容の記事でした。
その後、日本人の平均的な摂取量の場合はリスクは小さいという研究機関からの情報も知りました。
しかし、危険に関する情報は一度目にしてしまうと頭から離れず不安は消えないといいます。
あふれる情報にどう対応すればよいのか。
食品業界は難しさに直面しています。
関東甲信越で400万人以上が加入する生活協同組合です。
加工肉を巡る消費者からの問い合わせに応じるため対応資料を作成しました。
国の機関の見解をもとに日本人の場合リスクが高いと捉えることは適切ではないと伝えることにしていました。
実際に問い合わせがあったのは僅か10件。
混乱はないように見えました。
ところが、報道があった翌週からハムやソーセージなどの売り上げがおよそ10%減少。
1か月がたった今も回復していません。
消費者に大きな影響を与える食品のリスクに関する情報。
食の安全が専門の畝山智香子さんは危険ということばだけが伝わってしまうことが混乱の背景にあるといいます。
リスクの大きさは食品に含まれる物質の有害性とそれをどれだけ食べたかという摂取量で決まります。
摂取量が多いほどリスクは大きくなります。
一方、同じ有害性であっても摂取量が少ない場合はリスクは小さくなります。
しかし、摂取量に関する情報が伝わらず有害性だけが強調されるとリスクが過大に受け止められやすくなるといいます。
こうした食品のリスクを評価し情報発信する役割を担っている食品安全委員会。
今、難しい問題を突きつけられています。
日本人を対象にした疫学調査や健康被害などの報告例をもとに1200件以上のリスクを評価してきました。
例えば、マグロなどの魚には水銀が含まれているため妊娠している女性の場合1回80グラム、週に1回までの摂取が望ましいという目安が作られました。
日本人の主食である米についても天然のヒ素が含まれていることから科学的評価を実施。
現状の食生活で問題があるとは考えていないと見解をまとめています。
ところが最近、海外からこうした結果とは異なる情報がもたらされているのです。
スウェーデンの食品庁は先月米に含まれるヒ素についての研究結果を公表。
スウェーデンでは平均で週に数回米を食べますがこれが毎日になると健康へのリスクが高まるおそれがあるとして注意喚起を行いました。
参考にしたのは、中国やバングラデシュにおける飲料水中のヒ素による健康被害のデータでした。
来年1月からは、EU全体でも米の摂取量に基準値が適用される予定です。
こうした中食品安全委員会は米の評価結果自体に変更はないとしています。
海外での疫学調査は生活環境が異なるため単純に日本に当てはめることはできないとしています。
さらに日本は長年米を主食としてきたものの健康被害があったという報告がないことも理由です。
国によって分かれる評価。
どのように情報発信をしていけばよいのか。
難しい課題だといいます。
今夜のゲストは、長年、食の安全についての取材を続け、消費者への積極的な情報発信を行っていらっしゃいます、科学ジャーナリストの松永和紀さんです。
スウェーデンから先月、食品庁が、米にはヒ素が含まれていて、毎日食べると健康へのリスクがあると。
一方で、日本の食品安全委員会は、現状の食生活で問題があるとは考えていないと。
どっちを信じていいのか、消費者は混乱しますね。
やはり食生活の違いというのが、大きいというふうに思います。
無機ヒ素のリスクというのは、実は発がん性なんです。
無機ヒ素は発がん物質だというふうに、考えられていますので、きっと、お米に発がん性物質と、驚かれる方が多いというふうに思いますけれども、今のところ、日本人の食生活でさっき出たように、がんが増えるというようなことが見られていないということ、それから、EUの場合には、アジアの方、移民とかが増えてきて、お米の摂取量が増える傾向にあると。
だから、警戒して早めに規制をしましょうと。
一方で、日本人の場合には、お米は減る傾向にありますので、恐らく。
摂取量が?
無機ヒ素のリスクというのは、下がる方向にあるんですね。
そういうことからして、まだ日本はいいんじゃないかということ。
それからもう一つは、主食、食文化、食事におけるお米の比重というのが、海外と日本では全く異なるわけですね。
主食を替える、切り替えるっていうのはとても影響が大きくて、例えば、お米をやめて、洋食にする、そうすると、脂質の摂取量が増えるというような、いろんなほかの栄養的な悪影響というようなものも起こるかもしれませんので、そういうことを考えると、今のところは、基準設定というのが、日本は必要ないということで、今のところは栽培とか品種改良で、お米に含まれる無機ヒ素を減らしていこうというような研究が今、一生懸命行われているところです。
主食を食べながら、長寿の国になってきたわけですよね。
一方で今度は、また、加工肉で発がん性という情報がもたらされて、現在でも買い控えというのが、具体的に起きているようですけれども、どこから発がん性といわれているんですか?何が加工肉の発がん性をもたらすものなんですか?
国際がん研究機関が指摘しているのは、加熱とか、くん製とかで、いろんな発がん物質が出来ていますということなんですね。
それがあるために、がんリスクが上がっている可能性がありますよということで、ああいう注意喚起が出たというふうに思います。
私たちの加工肉の摂取量というのは、やはり注意すべき量なんですか?
いえいえ、日本人の量は、加工肉の摂取量は非常に少ないです。
お肉も、欧米の方に比べると、とても少ないです。
日本人はむしろ、たんぱく質の摂取量、少なめですので、たくさん食べたほうがよくて、私は気にする必要はないというふうに思います。
でも発がん性の物質って、いろんなところに入ってるんですか?
いろんな食品に含まれていて、野菜や、いろんな、えっ?というようなものにも含まれています。
そのことが、この科学技術の進歩によって、どんどん分かるようになってきたと。
ですから今、新しいリスクが、大きくなってきているという状況にないということは、皆さん方に理解していただきたいと思います。
そして、アメリカのFDAは、マーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸を、今後3年で禁止していくと。
マーガリンを健康的だと思ってましたので、その情報もやはり混乱をもたらしますよね。
それは、もうやっぱり摂取量の問題だろうというふうに思います。
トランス脂肪酸、脂肪はいろんな脂質に、脂肪食品、含まれているんですけれども、WHOは、エネルギー摂取量の1%未満にしなさいというふうにいっています。
アメリカの方は少し古いデータなんですが、2.6%も、トランス脂肪酸からエネルギーをとってしまっているという調査結果が出ています。
一方で、日本は0.3%ですので、アメリカは心臓疾患のリスクが高まるということで、規制をしましょうと。
日本はこの1%未満をほとんどの方が下回っていて、平均がこの数値ですので、食生活上、そんなに大きな問題はないんじゃないかというふうに考えられています。
トランス脂肪酸をとらないだとすると、例えばバターをとると、今度はまた違う。
そうですね。
もののリスクが高まるんですよね。
トランス脂肪酸が含有量が減ると、飽和脂肪酸が増えてしまうということが、製品で分かっています。
飽和脂肪酸もたくさんとり過ぎると、心臓疾患のリスクが高まるんですね。
日本人は、飽和脂肪酸はちょっととり過ぎの傾向の方が多いです。
ですので、トランス脂肪酸のリスクだけ見つめて、これを下げよう、下げようとしていると、実は知らないうちに、飽和脂肪酸のリスクが上がってしまうという、トレードオフというふうに言うんですけれども、そういう現象が起きてしまいますので、こちらだけに注目するのではなく、両方を考えて総合的に考えると、バランスの取れた食生活をしましょうというのがいいんじゃないかということなんです。
それにしても、このさまざまな食品情報に、思わず何か惑わされるような気も、私、するんですけれども、それをどう見極めていけばいいのか、企業や市民レベルで取り組みが始まっています。
大分県にある、菓子の製造販売を手がける会社です。
主力製品は、ポテトチップス。
年間1億円を売り上げています。
この会社ではアクリルアミドと呼ばれる物質を減らす取り組みを進めています。
アクリルアミドはでんぷんを含む食品を油で揚げるなど高温で調理するときに発生する物質です。
2002年にスウェーデン政府が発がん性の疑いがあると発表。
ドイツでは、含有量の目安が定められました。
一方、日本の食品安全委員会も対策の必要性を認め検討を重ねてきましたが今も具体的な結論は出ていません。
こうした中、この会社は油を使用しない新たな製法を開発。
ポテトチップスに含まれるアクリルアミドの含有量をドイツの目安を下回るまでに抑えたといいます。
この会社は去年アメリカに関連会社を設立。
アメリカの研究機関が発信する最新の情報を収集する態勢も整えました。
今、業界ではこの会社のような取り組みが進みアクリルアミドの含有量は減っています。
一方、消費者みずから正しい情報を見極めようという動きも広がっています。
千葉県松戸市の市民が作る食の安全安心を考える市民の会です。
千葉大学の研究者と共に食に関する情報の収集や発信を行っています。
今、このグループではさまざまなリスクの大きさを比較し、身近な人に伝えるための目安を作ろうとしています。
気になるものとして挙げられたのが、有害物質や添加物、農薬の3つでした。
ところが、研究者が健康への影響がより大きいと指摘したものは違いました。
科学的に見ると、暴飲暴食や過度な飲酒などのほうがよりリスクは大きいというのです。
このグループではこうした情報をまとめたハンドブック作りを進めることにしています。
でんぷんを高温で揚げると、アクリルアミドという発がん性の疑いのある物質が出るというので、メーカー、今見たメーカーでは、油を使わないで、ポテトチップスを作ろうとしていて、下げているということですが、その取り組み、どうご覧になられました?
少し極端な取り組みかなというふうに思いました。
油を揚げるポテトチップスであっても、いろいろな製法とか、ジャガイモの品種を変えるとか、いろんな方法で今、提言を進めていますので、おいしさ、油で揚がったポテトチップス、おいしいですけれども、おいしさを保ちながら下げていくという努力、今、事業者の方々、一生懸命やっておられて、実際に下がっています。
いろんなやり方があるということですね。
消費者からしますと、自分の体に何か害を与えるものは、取り入れたくないと。
残留農薬も気になるし、添加物も気になるということありますけど、どこまでその添加物などに、例えばですよ、ついて、怖がればいいんですか?
天然自然は安全で、人工的な添加物、農薬が危険であるというような、二分法で考えがちなんですが、そうではなくて、添加物、農薬の場合には、こういうふうに、たくさん食べると影響が大きいものも、ぐっと量が減っていくと、影響が出ない量が出てきて、それを下回ると、体への影響はありませんということ、これ、化学物質、どの物質も、こういう関係があるんですけれども、この原則に基づいて、影響が出ない量から、1日摂取許容量を出して。
100分の1?
100分の1にして、さらにそれをかなり大きく下回るところに基準値、設定されています。
ですからいろんな食品を食べても、ここの1日摂取許容量には至らないというようなことで、基準値が非常に厳しく設定されていますので、添加物、農薬に関しては、私は、気にしなくてもいいというふうに考えています。
しかし、きょういろいろ出てきました、発がん性の疑いのある物質など、ありましたけれども、ここに健康損失ランキングっていうのがあるんですけれども、先のマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸、そして、飽和脂肪酸。
こういったものをきょう、揚げたものは、意外と3番目だったり、4番目だったりして、より危険度の高いものというか、損失の、健康を損なう可能性があるものっていうのは、不健康な食事というふうになってるんですね。
これ、オランダの例ですけれども、やはり不健康な食事というのが、一番リスクとしては大きいというふうに思います。
農薬添加物は、実はもう入っていないと、ここのランキングに入っていないと。
日本人の場合には、特にトランス脂肪酸とか、飽和脂肪酸より、圧倒的にこちらなんですね。
塩分?
塩分。
塩分のとり過ぎっていうのが、非常に深刻であると、世界的に見てもトップレベルのとり過ぎですので、これが私は一番、まず気をつけるべきことだろうというふうに思います。
それにしても、本当に今や海外からいろんな情報が入ってきて、何を信じたらいいのか、惑わされやすい時代ですけれども、何を信じて、私たちは食品を選んでいけばいいんですか?
単純な情報は、まず疑ってかかる、これがいい、あれがいいという単純な二分法では、くくれないということは、理解していただきたい。
その上で、食品安全委員会とか、厚労省、農水省、今、一生懸命、今、情報を提供していますので、まだちょっと、分かりにくかったりするんですけども、まずはそういう情報を、きちっと捉えて、その上で、いろんな情報を見比べながら考えていくということが大事。
それともう一つは、何より大事なのは、やっぱりバランスの取れた食事をすると。
2015/11/30(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「本当にキケン?あふれる食品情報」[字]

身近な食品について「がんのリスクが、高い」などの情報が溢(あふ)れている。海外の公的機関による発表からネット上の情報まで…。危険か?安全か?その見極め方を考える

詳細情報
番組内容
【ゲスト】科学ジャーナリスト…松永和紀,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】科学ジャーナリスト…松永和紀,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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