プロフェッショナル 仕事の流儀「土木エンジニア・阿部玲子」 2015.11.30


元幕内・巌雄の山響親方が継承し、部屋の名称は山響部屋になったと発表しました。
(クラクション)人口1,000万世界有数の大都市…今街の下でこの国初の地下鉄の建設が急ピッチで進んでいる。
体力が不可欠な土木工事の現場。
そこは圧倒的な男の世界だ。
ここに乗り込んだ一人の日本人女性がいる。
自信と明るさに満ちたその声で現場をまとめあげる。
(作業員たちの掛け声)まだまだ安全意識が低い発展途上国の土木現場。
阿部はそんな現場をいくつも生まれ変わらせてきた安全管理のエキスパートだ。

(主題歌)阿部は女性土木エンジニアの草分け。
30年前女だからとトンネルに入る事を許されなかった。
「突破できない壁などない」。
なりふり構わず世界に飛び出した。
この夏乗り込んだインドネシアの大工事。
日本の技術と魂は異国の男たちに伝わるか。
道無き道を切り開く熱き女の闘いに密着!土木エンジニア阿部玲子は常に世界を飛び回っている。
この日はインドからジャカルタに乗り込んだ。
空港を出るとすぐに渋滞につかまった。
ジャカルタの道路事情は世界最悪と言われている。
その渋滞解消を目指しこの国初の地下鉄が今日本と現地の会社によって建設されている。
その工事現場が阿部の今回の舞台だ。
この日ホテルに到着した阿部にささやかな楽しみが待っていた。
現地では買えない日本のカップラーメンが何よりうれしい。
朝10時現場に入った。
阿部の職業は建設コンサルタント。
設計や技術工事の設備土木に関する全てに精通する。
その豊富な知識をもとに工事のあらゆる場面をチェックし円滑に進めるのが仕事だ。
多くの仕事の中で阿部が最も力を発揮するのが安全管理だ。
年々増え続ける発展途上国での土木工事。
それに比例して事故の数も飛躍的に伸び安全管理の重要性は増すばかりだ。
インドなどで実績を残してきた阿部の手腕に大きな期待が寄せられていた。
阿部が現地のエンジニアに聞き取り調査を始めた。
阿部は今インドやエジプトなど3か国で仕事を抱えている。
今回滞在できる日数は6日だ。
短期間で現場を把握し今後の指導方針を考える。
それが阿部に課されたミッションだ。
阿部さんが活動する途上国は「安全」という概念がまだ希薄だ。
そんな現地の人々の安全意識を大きく変えた事が評価され阿部さんは外国人初の表彰をインドで受けた。
その特徴はこれまでのマニュアルを守るだけの安全管理にとどまらず新たな技術を積極的に導入する点だ。
そんな阿部さんの姿勢を象徴するのがOSV装置という機器の導入だ。
OSV装置とは壁や柱に取り付けゆがみや傾きを計測するもの。
その時の崩落の危険度が信号のように一目で分かる仕組みだ。
これによって識字率の低い発展途上国であっても危険を認識しやすい環境を作った。
異文化の人々の意識を変える。
そんな難しい仕事に挑む阿部さん。
常に胸に抱く言葉がある。
日本を押しつけず日本を捨てず。
阿部の仕事は常にそのバランスの中で行われる。
この日阿部はインドネシアの現場であのOSV装置をどこに付けるか検討していた。
現場を見回っていた阿部が突然声をあげた。
見つけたのは作業員が集える屋台の食堂。
他の国では地下の現場で見る事はまずない。
阿部は即座にこの場所を活用しようと言いだした。
人が集まるじゃないですか。
この食堂にOSV装置を付ければきっと作業員の間で話題に上る。
装置の理解が進みやすくなる。
相手の文化を注意深く観察し生かすべきは確実に生かす。
それこそが押しつけにならないために最も大切な事だと考える。
6日間の視察が終わった。
阿部はすぐさま次の国へと向かう。
現場を見回る時の阿部さんはかなり怖い。
でもなぜか現地の人たちとはとてもうまくやっている。
大阪育ちの阿部さんこんなこだわりがある。
(笑い声)
(笑い声)現地の人と話す時阿部さんは隙あらば笑いを生もうとする。
(笑い声)OSV装置の盗難対策を話し合っている時も…。
(笑い声)
(笑い声)
(笑い声)コミュニケーション力とは言葉の流暢さの事だけではない。
阿部さんはその事を身をもって教えてくれるのだ。
久しぶりに日本に帰国した。
阿部には決まった家がない。
この日たどりついたのは今年借り始めたウイークリーマンションだ。
(笑い声)冷蔵庫からは記憶にない食べ物が発掘された。
(笑い声)
(笑い声)この日前回のインドネシアの視察を踏まえこれからどう指導していくか作戦会議が行われていた。
議題はOSV装置を工事現場のどこに付けるか。
中間杭とは地下の空間を支える柱の役目をしている鉄骨だ。
今回の工事は高度で安全性の高い工法が採用されている。
中間杭に過度に負荷がかかり事故が起きる事は考えにくい。
数に限りがあるOSV装置は他の所に付けるべきという意見が出た。
だが阿部はあえて中間杭に付ける事にこだわった。
今回の工法をこの国で必ず使えるとは限らない。
中間杭がいつも100%安全というわけではない事をインドネシアの人に伝えておきたかった。
土木技術に携わる者としての阿部の信念。
土木技術は何千年にもわたり人類が受け継ぎ蓄えてきた知恵の集積だ。
それに関わる者として先輩から受け継いだものを国を超え未来に伝える責務がある。
この場所に来ると嫌でも思い出す。
27年前新人時代に体験した出来事。
阿部さんは女性であるという理由で現場に入れてもらえなかった。
かつて圧倒的な男社会だったトンネル工事の世界。
阿部さんはどうやってその壁を突破し道を切り開いたのか。
幼い時に関門トンネルを見て思った。
「大きいものが造りたい」。
ところが大学の土木学科に入学して驚いた。
阿部さん以外は全員男性。
女子トイレすらないありさまだった。
更に研修で行ったトンネルに入る事すら拒否された。
そんな言い伝えが理由だった。
だが阿部さんはとにかく負けず嫌いの性格だった。
「壁があるなら乗り越えればいい」。
何とかトンネルの仕事に携わりたい。
阿部さんの無謀な挑戦が始まった。
まず大学院の指導教官に宣言した。
先生の強い口添えもあり25歳の時阿部さんはついに建設会社に就職。
でも事態は一向に好転しない。
現場にはやはり入れず仕事は机の上でのデータ解析ばかり。
周囲を見渡せば男性の同僚は現場経験を積み昇進を果たしていった。
ならばと阿部さんは海外で働けないかと考えた。
日本以外なら女性でもトンネルの現場に入れる。
そこで経験を積もう。
しかし実は阿部さんは英語が大の苦手。
テストでは200点中40点しか取れないレベルだった。
それでも阿部さんは再び無謀な挑戦を始めた。
昼間仕事をしながら夜に英語の勉強。
そのあとにまた会社に戻って仕事。
睡眠は4時間に減ったが絶対諦めなかった。
そして6年後ついに台湾で新幹線のトンネル工事に参加できる事になった。
36歳の遅い現場デビュー。
新人同様の経験しかない阿部さんは毎日ばかにされ怒られた。
それでもへこたれずに教えを請い知識と経験を驚くべき早さで身につけていった。
ところが4年後仕事に自信がついてきた頃。
会社から阿部さんに思いがけない電話がかかってきた。
不況のため所属する海外事業部が縮小されるという。
阿部さんは自主退職を余儀なくされた。
それでもまだ阿部さんは挑む事をやめなかった。
転職先を必死に探し何とか今の仕事に就いた。
そしてどんなに過酷な現場でも引き受けやり通した。
43歳になった時ひときわ難しい仕事を任される事になった。
インドで行われる地下鉄工事で工事全体の管理をする仕事。
中でも難題が安全管理だった。
派手な成果が見えやすい工事の技術に比べ地味な安全管理は注目されにくい。
ヘルメットをかぶらない人やサンダル履きの人もいるほどだった。
そんな中別の建設現場で大きな事故が起こる。
視察で現場を訪れた阿部さん。
ある思いが湧き上がってきた。
これまで男社会で生き残らなければと目の前の成果をがむしゃらに追ってきた。
しかしこの安全管理こそが私のやるべき事ではないか。
(阿部)Safetyfirst!
(一同)Safetyfirst!Safetyfirst!
(一同)Safetyfirst!阿部さんは現場を徹底して歩き一人一人に安全の大切さを説いた。
そして成果が上がりにくいと敬遠されてきた安全のための技術も次々と導入した。
これまで培った粘り強さ突破力そしてコミュニケーション力。
全てをフルに生かし打ち込んだ。
それから6年。
阿部さんのたゆまない努力は現地の人々の意識を確かに変えた。
今年9月阿部さんは視察のためある場所を訪れていた。
若き日入る事を許されなかった日本のトンネル建設現場。
今はかつての風習もなくなりあっけないほど簡単に入れた。
無謀を繰り返しいばらの中を歩んできた。
今その後ろには確かに道が生まれている。
10月。
阿部は再びインドネシアに入った。
これから3週間インドネシアの人々にあのOSV装置を使った安全管理の方法を指導する。
結局作業で引っ掛けたり邪魔になったりするような場所では後々問題にもなりますので。
阿部は早速現場のキーマンとなる人物と打ち合わせを行った。
安全管理の現場リーダー…阿部はスハルトノに大規模な避難訓練を行うよう命じた。
避難訓練には多くの人をまとめる統率力や緻密な準備など安全管理に必要な要素が凝縮されている。
安全管理のプロとしてスハルトノの技術と意識をどう高めるか。
挑戦が始まった。
5日後阿部はスハルトノたちへの指導を本格化させた。
今回の避難訓練の計画はこうだ。
全長400m地下3階構造の現場に12か所設置されたOSV装置。
その色を突然一斉に赤に変える。
その合図と同時に作業員たちをいかにスムーズに避難させられるかをチェックする。
スハルトノは連日作業員にOSV装置の説明を熱心に行っていた。
スハルトノは他のアジアのエンジニアに比べ知識も経験も豊富だ。
阿部から学んだ事を的確に伝える能力も高い。
あとはスハルトノがこの仕事をどこまで深く考えているかそれを見極めたい。
避難訓練まであと3日。
スハルトノが阿部に1つの提案を持ってきた。
OSV装置だけでなく大きなアラーム音も併せて使いたいという申し出。
その方が訓練が成功しやすいのではないかという。
悪くない提案だ。
だが阿部は異議を唱えた。
阿部があえてスハルトノの提案に反対したのには理由があった。
スハルトノが単に避難訓練をうまくやりおおせたいだけなのかより深く考えての事なのか見極めたかった。
避難訓練当日の朝。
スハルトノは独自に訓練の綿密な計画書を作ってきていた。
色で危険を認知させた上でそのあとにサイレンを使うという2段階の戦略。
深く考えてきている。
阿部はサイレンの使用にゴーサインを出した。
Thankyou.
(笑い声)工事現場は地下3階構造。
そこで働く作業員たちをこの工事現場前の広場に集合させる事がゴールだ。
午後3時。
OSV装置の色が一斉に赤に変えられた。
すぐにスハルトノの部下たちが避難の指示を出す。
そして…。
(サイレン)サイレンが鳴らされた。
(サイレン)およそ6分後スハルトノが全員の安全を確認した。
訓練が無事終わった。
訓練のあと阿部はエンジニアを集めて反省会を行った。
スハルトノは結果に満足していた。
ところが…。
6分台というタイムは決して悪くない結果だ。
だが阿部は厳しく突き放した。
現状に満足せずどんなに僅かでも前に進む。
それが連綿と続く土木の技術を受け継ぎ次に伝えるエンジニアの責務だ。
翌日。
阿部は朝から慌ただしく動き回っていた。
前日の反省会のあとスハルトノからメールが届いたという。
スハルトノがOSV装置をより進化させる改善案を出してきた。
自らの頭で考え自らの意見を出すエンジニアの姿がそこにあった。

(主題歌)阿部はすぐに東京と回線をつなぎスハルトノのアイデアが実現できないか探り始めた。
誰も歩めなかった道を切り開いてきた。
OK.Thankyou.世界を舞台に阿部はこれからも突き進む。
諦めたら全てが終わってしまう。
諦めない事が前に進んでいく事だと私は思ってます。
諦めない事がプロを育てていくんじゃないかなとは思いますけど。
2015/11/30(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「土木エンジニア・阿部玲子」[解][字]

世界のトンネル工事現場を渡り歩く土木エンジニア阿部玲子。かつて女性は現場に立ち入る事さえ許されなかったこの分野で活躍できるのは何故か?破天荒な挑戦の日々に密着!

詳細情報
番組内容
インド、台湾など世界のトンネル工事現場を渡り歩き、活躍する土木エンジニア・阿部玲子。だが若き日には「女性がトンネルに入ると山が崩れる」という言い伝えから、現場に立ち入ることも許されなかった。それでも阿部はこの仕事にこだわり続け、圧倒的に男性優位のこの業界で今、存在感を示している。この夏、インドネシア・ジャカルタの地下鉄建設現場に赴いた阿部。無謀も積み重ねれば道になる、と笑う阿部の挑戦の日々に密着!
出演者
【出演】土木エンジニア…阿部玲子,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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