木曜時代劇 ぼんくら2(6)「ただよう香り」 2015.12.01


葵殺しの下手人とにらんだおふじが乱心していたと知った平四郎。
だが湊屋の跡取り宗一郎が総右衛門の子ではないかもしれないと久兵衛から聞き出し宗一郎にも疑いの目を向ける。
一方おはつという幼い娘が葵の家近くで首絞めに遭った事を知り下手人が見知ったおはつを狙ったのではないかとにらんだ弓之助はその身を案じ芋洗坂へ急いでいた
(弓之助)急がなければなりません。
(烏の鳴き声)
(平四郎)うわ〜!
(鳴き声)本所深川方はお役人も十手持ちもそろって子ども好きでいなさるようだね。
ハハハ…。
(政五郎)ハハハ…。
…で杢太郎さんは?杢太郎なら法春院の手習いだ。
ああ…そういや先にその手習いに通っていたおはつって娘がかどわかされ首に絞められた痕をつけて戻ってきたっていう騒ぎがあったそうでござんすね。
それっきりおはつは家を出なくなったとか。
よく知っていなさる。
今もおはつは家から出られねえ。
杢太郎さんが手習いに通うのはおはつに張り付くためじゃねえんで?言ったろ。
おはつは家から出られねえ。
(嗅ぐ音)法春院通いはてめえのためだろ。
あいつはこれまで無筆だったからね。
ですが半月の間に2度それも同じ場所での首絞めだ。
そうは言うがね…親分さんの縄張りと違ってこっちはやぶや森だらけだ。
そこらに引っ張り込んでいたずらしようなんて不心得者が出たりする。
おはつに悪さしたのもそいつらで葵さん殺しとは関わりねえと思うがね。
(弓之助)たばこという事もありますね。
えっ?何のお話で…?ですから葵さんの家に残っていたいい香りです。
(弓之助)葵さんの遺体の傍らにはたばこ盆があったそうです。
葵さんがお客に勧めたとか…。
(おでこ)たばこの香りが…。
はい。
ほらたばこ好きの金貸しが殺されて着物には好みのたばこの匂いが染みついていたのに長火鉢の灰に落とされていたたばこからは違う匂いがしたって昔話聞いたではありませんか。
「明神下の金貸し殺し」。
下手人は甥の大工。
得物は千枚通しでござんした。
それです!しかしそんなにいい匂いのするたばこってのがあるんですか?あ〜…。
あっ!あっ!ねえおじさん。
この子人形?いやお嬢ちゃんたちと同じ子どもだよ。
へえ〜すごいきれいな顔。
あっ!すごいおでこ!お前も大概割を食うな。
あい。
慣れっこでござんす。
(杢太郎)あっ!弓太郎じゃねえか!弓…太郎?ここではそう通ってるんです。
わ〜い!杢太郎の親分さん!俺は親分じゃねえって何べん言ったら分かるんだよ!よろしいですわね。
杢太郎親分。
晴香先生まで!やめて下さいよ。
え〜っと…?ああ。
八助親分とこの杢太郎さんで。
へえ。
あっしは本所元町の政五郎って者で。
弓之…いやいや弓太郎さんとちょいとあんたに話があって来たんですよ。
もちろん八助親分の許しは得てる。
へえさいですか。
ええ。
あ…御用の赴きですか?ご苦労さまでございます。
でしたら子どもたちも帰りましたし中へどうぞ。
いやそれじゃあ迷惑になります。
いいえ。
構いません。
さあどうぞどうぞ。
(おでこ)「してはいけぬことひとつ、かおのよしあしひとつ、きもののよしあしひとつ、いえのくらしむきひとつ、わがままなふるまいひとつ、けんかひとつ、たんきひとつ、そしりぐちひとつ、つげぐちひとつ、むだぐちひとつ、ないしょばなし」。
よくできた。
偉いもんだ。
子どもたちのしてはいけない事を数え上げたものです。
「ひとつ、かおのよしあし」ですか。
ハハハ…。
何か?ああいやいや。
ここは男の子も女の子も一緒に教えてるんですね。
はい。
ここいらの子どもたちは男の子も女の子も変わりなく家の手伝いをしておりますから。
どうぞ。
ああ。
お武家の子には別の手習いがあるんです。
晴香先生が来る前はみんなそっちに通ってたんですけどお武家の子が威張るんでけんかばっかりでどうにもならなくて。
だから先生がここで手習いを開いて下すったんでみんなありがたく思ってるんです。
自身番の近くに間借りしてここに通っております。
ほう。
じゃ親元を離れておいでなんですか。
偉いもんだ。
そんな…。
いつもいい匂いが致します。
晴香先生はあの子盗り鬼のおうちに入った事があるんですか?えっ?あ…葵さんの家で働いていたお六さんの娘さんたちが通っておられましたが…。
あっそういや先生が教えているおはつって子がかどわかされたあとようよう見つかったのもその家でしたね。
それをお調べにわざわざ本所からおいでなさったのですか?そ…そうなんですか?親分さん。
違うでしょ?うちの兄さんの事で来たんですよね?あ…そうそう。
今日来たのは別件でしてね。
その子の事はここに来る前に聞きかじったもんですから…。
それにしても子盗り鬼とはおっかねえ家じゃござんせんか。
本当に。
私も子どもたちには決して近づかないように言い聞かせております。
平気です。
杢太郎の親分さんがいますから。
よしてくれよ。
その親分てのは…。
まあ。
ああいけねえいけねえ。
こいつはとんだ長っ尻になっちまった。
杢太郎さんを迎えに来ただけなのにずうずうしくて相すみません。
そうでやした!まだ肝心の話は聞いてませんでした。
そういう事ならここでどうぞ。
私の方は構いませんから。
いやいや私らはこれで失礼致します。
さっ杢太郎の親分行こう!どうも。
痛てて…!一体何だっていうんですか!?すまねえな杢太郎さんよ。
こいつは晴香先生にも…いや誰であっても内密にしておいてもらいたい事でな。
それって…おはつ坊の事なんですか?だから…それを今から話すからよ。
杢太郎の親分さんだけの秘密にしといてほしいんです。
えっ…?
一方そのころ平四郎たちはお徳が作った仕出しの弁当を手に川崎にある湊屋の別邸へ下働きの孫八の様子を見に来ていた
(久兵衛)これは見事な…。
どこでこしらえたと思う?平清じゃねえぞ。
伊豆栄でもねえ。
橋膳でも八百膳でもねえ。
さあどこだ?ハハハ…。
お徳でございますな?
(小平次)うへぇ。
何だよ。
何で分かる?井筒様のお顔を拝見して察しがつきました。
ハハハ…。
そうですか。
お徳がこれを…。
あっそうです。
この煮卵の色艶。
見ているだけで味を思い出します。
お徳は達者なのですね。
ああ。
商売の手を広げておかず屋を始めたんだ。
大評判でなこの間なんか屋根船で仕出しもやった。
おさんとおもんていうにぎやかな娘たちが手伝ってて。
お前も知ってるだろう?木挽町にある石和屋って料理屋。
そこが火事になって暇になった料理人で彦一ってのも手伝ってる。
お徳さん!俺お握り!
(お徳)あいよ。
お徳さんのお握りが一番うめえんだよな。
また!アハハ…!彦一。
身元はお確かめになりましたか?井筒様。
フッ…。
差配人骨になるまで差配人か。
大丈夫だよ。
彦一なら…。
今更このような口をきけた立場ではございませんのに…。
お恥ずかしい。
・はい。
では孫八にお会いになりますか?そうしよう。
このお重で膳の用意を。
はい。
孫八とは葵のところで働く女中お六に付きまとった男であり葵に子盗り鬼騒動でこっぴどくやられた男である。
その事もあって葵殺しの下手人の一人と目された男なのだが今はここで下働きをしているという
これが孫八でございます。
江戸からおいでになった八丁堀の旦那だ。
ご挨拶をなさい。
孫八でごぜえます。
今日はわざわざ遠い所からお役目ご苦労さんでございます。
あ…ああ。
お前もな。
ご苦労さん。
へえ。
もういいぞ。
仕事に戻りなさい。
へえ。
失礼致します。
うへぇ。
幻術一座の子盗り鬼を見てああなっちまったのか。
最初は暴れたり泣いたりとひとしきり騒いだのですがそのうち魂を抜かれたようになってしまいまして。
3日3晩熱にうなされ手当てをしたのですがあのように髪は白くなり足までも引きずるように…。
お六の亭主を殺した罪が熱病になったのでございますよ。
とにもかくにも孫八があんなざまじゃ葵殺しなんざできる訳がねえ。
それより久兵衛。
もう一つ聞きてえ事がある。
…はい。
芋洗坂でな孫八をやっつけたあと葵がお六にさ…。
(葵)あの一座の者たちにはね前々から私のために一働きしてもらう約束をしてあったのだよ。
お六。
私は私でああいう幻術を見せてだましたい相手がいたものだからさ。
葵がだましたい相手ってのは…。
井筒様。
それは葵様があのような目に遭われた事とは関わりがない事だと思いますが。
おふじなんだろ?最初は俺もだますなんて言うからおふじ相手にヒュ〜ドロドロ…。
「おふじさん恨み晴らさでおくべきか」。
…な〜んてやるつもりかと思ってたんだがそうじゃねえ。
葵はおふじをだまして気がとがめてた。
けど自分がのこのこ出かける訳にもいかねえ。
そこであの幻術一座を使っておふじに葵の幽霊でも見せて「もう恨んでなんかいない。
私の方こそ申し訳なかった」とか何とか言わせておふじを慰めようと思ってた。
…とまあ偉そうに講釈を垂れたがこいつは弓之助が気付いた事だ。
旦那。
あ?久兵衛さんは坊ちゃんの事お知りになりませんよ。
そうだっけ?ああいや俺の甥だ。
こいつがなかなか聡いおつむりの持ち主でな。
さようですか。
葵にも後ろめたさや償いたいという思いがあった。
佐吉にもな。
けどそれはおふじのためだけじゃねえ。
葵自身のためだったんだ。
葵がなお六にこうも言ったそうだ。
私は私でああいう幻術を見せてだましたい相手がいたものだからさ。
(お六)えっ…?でもねお前の役に立ったんだからこっちの方がずっとよかった。
「こっちの方がずっとよかった」。
葵は本当はてめえの気持ちを楽にしたかったんだ。
葵の心は揺れてた。
総右衛門が佐吉に本当の真実を告げてからこっちはもっと揺れてたはずだ。
佐吉に何と言う?どう説明する?その前に過去を償っておけるならそうしたい。
優しさがあった。
悔やむ気持ちもあった。
過去を埋め合わせたいという思いもあった。
…違うか?ありがとうございます。
葵様に成り代わりましてお礼申し上げます。
それで宗一郎様の事ですが。
おお…その事な。
はい。
実は…。
宗一郎が母親であるおふじの気がふれたもとが葵にあると知っていたなら総右衛門の鼻を明かすために葵殺しを仕掛けても不思議はねえと俺は思ってるよ。
はい。
実は…。
お膳の用意が出来ました。
ここがおはつ坊の家だ。
ここ…?ちょっと待ってておくんなさい。
おお。
…そうかい。
やっぱり駄目か。
おお。
おはつ坊を離したくないって言うんですよ。
けどなどっかにかくまわなきゃまたぞろ狙われるかもしれねえ。
あっしがここで寝泊まりしやす。
俺がいりゃあ手習いにだって一緒に通えるからさ。
おはつちゃん。
何か思い出した事はありませんか?例えば首を絞めた人に心当たりとか…。
こいつを。
お前さんがいたらここも大変だろ。
こいつで何か食い物でもな。
ありがたい。
恩に着ます。
いや恩に着るのはこっちの方だ。
俺の手下を明日からこっちに置いとくようにあんばいするからよ。
へい。
何から何まで…。
ああ。
弓太郎。
俺に任せとけ。
はい。
行こう。
どうかしたんでござんすか?いえ…。
さあおはつ坊。
中へ入ろう。
お初にお目にかかります。
手前は湊屋の宗一郎でございます。
私がね一番お徳さんの料理で好きなのは大根の煮たやつなんです。
まあ。
甘すぎず辛すぎず…。
ええ。
ハハハ…。
手前も父やこの久兵衛からも井筒様のお話はよく伺っておりましたので一度ご挨拶をさせて頂きたいと久兵衛にせがみました。
はい。
そうかい。
ここにはよく来るのかい?商いを忘れて1晩2晩ゆっくり寝に来たい時に…。
嫁は…いないんだっけな?手前のような若輩者にはまだ…。
そうでもねえだろ。
いい加減湊屋さんも隠居してあんたに身代譲ったっていい頃だ。
いえ…。
父がおりましての湊屋でございますから。
何か?あんたに似てるやつを知ってるんだ俺は…。
そいつもそうやって遠慮がちで控えめで…。
まあいいか。
そんな話は…。
井筒様。
何だい?手前は…湊屋総右衛門の子ではありません。
ここまで似ていない親子など考えられません。
世の中には似てない親子なんざいっぱいいるさ。
5年前手前は自分の出自を知りました。
それまであれこれと湊屋の身代の事を久兵衛から聞かされていたのですがそうなるともう…身代の事を案じるのはあさましく意地汚い事のように思えたのです。
ですが母は手前が跡取りになる事を望んでおりました。
ちょっと待った。
おふじさんはあんたに打ち明け話をしたがただその事を承知しておけばいいと言われたんだとそう久兵衛から聞いたよ俺は…。
だからそれは半端で酷な仕打ちだって俺は言ったんだ。
それは手前が事をぼかして久兵衛に伝えたからでございます。
事の起こりは5年前にあった手前の縁談でございました。
どういう事だい?お前さん!
(総右衛門)何だい?なぜ宗一郎の縁談を断ったりなんかしたんだい!?もう宗一郎は18なんだ。
今まであった縁談とは訳が違う。
それを門前払い同様に断るなど訳が分からない!宗一郎の嫁取りはまだだ。
まだ早すぎる。
うそをつけ!あんたは私に意趣返しをしてるつもりなんだ。
そうなんだろう!?だったら私にすればいい!宗一郎は跡取りなんだ!あんた分かってるのか!?その事を!いい加減にしないか!この畜生が!鬼!鬼〜!鬼〜!離して!離せ!鬼〜!そうなんだよ。
あの仕打ちを見ればお前にだって分かるだろ?お前はね宗一郎。
旦那様のお子じゃないんだよ。
それは旦那様もご存じの事。
旦那様はお前に跡取りに据えるとおっしゃってるけど先は分からない。
うそだ…。
本当さ!考えてもごらんな。
思い出してごらんな。
お前が幼い時から旦那様はお前に冷たかったはずだ。
佐吉なんかをあんなにかわいがりお前にはその半分も構っておいででなかったじゃないか!それは…私が跡取りだから…。
跡取りはお店の身代を背負う身ですから…。
そうじゃないんだよ。
お前が私が本当に心底ほれたお方の…憎い間男の胤だからなのさ!だからこそだ。
あんな男の言いなりになる事はない。
あの男の実の息子ではないからこそ私はお前に湊屋の身代を取ってほしいんだよ。
おふじらしいや。
しかしあんたも苦労が多かったな。
佐吉とおんなじだ。
先ほど手前と似ていると言ったのは佐吉の事でございますね?まあな。
2年前久兵衛が辞めたあとの長屋に佐吉が差配人となった時手前は佐吉がとうとう湊屋の身代に入り込む事になったと思いました。
ところがその長屋はすぐに取り壊されふじ屋敷が建ち母が移り住みました。
おかしい。
何かが変だ。
父も母も久兵衛すら何か隠しているんじゃないかと思ったのでございます。
…で?何か分かったのかい?手前は何も決断できず何も断ち切れず何も始められない。
母を捨てる事も父に刃向かう事も何一つ。
手前はふぬけです。
ですが…ふじ屋敷に移り住んだ母が…変わりました。
そんな母の姿を見るにつけ一から新しくやり直した方がいいと思うようになったのです。
手前で生きる道を見つけ母を迎えに行き湊屋を出る。
ところが…。
おふじが首をくくった。
…か。
母がそんな事をしでかしてからしばらく父の様子がおかしくなりました。
この間など…。
(宗一郎)母のために泣いているのではと思いましたが今更ありそうもない事です。
父は誰かほかの人のために泣いていたのでしょう。
ただその時思ったのです。
もういい。
もうたくさんだ。
この家にはいたくないと…。
そうか。
このうちを出ていくと言うのか。
はい。
生きていく道を見つけておっ母さんを引き取ります。
好きにするがいい。
(総右衛門)ただ…。
私が許すまで勝手にお店を離れてはいけない。
相変わらず勝手な言い分だなおい…。
それで久兵衛にその事を伝えた折井筒様に手前の出自を相談したと。
どうしてもそうしなくてはならなかったと平謝りされまして。
はい…。
こんなぼんくら役人に久兵衛があんたの生い立ちをペラペラ話すなんておかしいとそう思ったんだろ?井筒様。
ご存じの事全てをお聞かせ願えませんか?本当に何も知らねえんだな?あんたは…。
はい。
井筒様。
私からもお願い致します。
旦那様もお許し下すっております。
お父っつぁんが?うそだろ?まことの事でございます。
井筒様がお話し下さる事が何よりも正しいと仰せに。
分からねえ。
総右衛門の考える事だけは…。
いや〜しかし面倒くせえな…。
あのな…今からする話には飽き飽きしてんだよ俺は…。
早めになんとかすりゃあいいのにぐずぐずしてるから変なものが根っこを張って誰も手入れができなくなってなのにてめえは悪者になりたくねえ誰かになんとかしてほしいなんていうそんなやつらの欲張りな話なんだ。
久兵衛。
茶くれ。
ただいま。
平四郎は湊屋総右衛門と葵におふじの因果話更にそのあおりを食らった佐吉にまつわる長い長い話を宗一郎に話して聞かせた
それで分かりました。
おかしいおかしいと思っていた事が一つになりました。
霧が晴れました。
あんたのおっ母さんが葵を殺そうとまでしたのにかい?どうしたい?もっと先から葵さんの居場所を知っていたなら手前が乗り込んでいってひょっとしたら…ひょっとしたかもしれません。
だがこれで誰もいなくなっちまった。
え…?俺が考えていた下手人がさ…。

(お恵)気になる?
(佐吉)どうなったかな?あの事…。

川崎に一晩泊まり平四郎は翌日家に戻った
ですが宗一郎さんというお方は寂しい方ですね。
うん。
宗一郎はしばらくふじ屋敷で暮らすそうだ。
ただおっ母さんのそばにいてやりたいってさ。
悲しい親孝行ですか。
うん。
…あっここに戻る前に御番所に寄ったら政五郎がいてな。
杢太郎の事は聞いたよ。
はい。
泊まり込みでおはつちゃんをかくまうと…。
おはつからは何も聞き出せなかったんだな。
まるで口を開いてはくれませんでした。
(ため息)いやおいおいそういう事だってあるよ。
弓之助大明神の人転がしがうまくいかない事もよ。
おい。
どうした?元気出せよ。
おい。
私は世間知らずです。
あ…?小作人の住まう小屋というものがあんな貧しいものだとはつゆ知らず今まで生きてきました。
おはつちゃんが着ている着物は私の家では雑巾にしてしまうような古着でございます。
草履だってぼろぼろで…。
そうか。
あんな苦しい暮らしをしている人たちを見てると葵さんが誰に殺されようが気にかけてはいません。
それよりおはつちゃんの家が少しでも楽に暮らせるにはどうしたらいいかそっちの方こそ頭を使うべきなんじゃないかと私は本気で…。
それはそれこれはこれだ。
この世の事をお前一人で全部しょい込む訳にはいかねえだろ。
だが忘れてもいけねえ。
…なっ?はい。
…でお前は通りもののしかも一風変わった通りものが葵を殺したと思ってるんだって?そうです。
通りものとはいきなり暴れだし人を殺したり死んだりする。
通って過ぎるから通りものという。
弓之助は葵がその通りものにいきなり殺されたと推察した。
しかもおはつの見知った人物でありだからこそおはつが狙われたのだと…
一風変わった通りものか…。
何だか分かったような分からねえような話だなそいつは…。
私は今おでこさんと共に葵さん殺しの手口と似た事件がなかったかを調べています。
手口ってのはあれか?手拭いで首を絞めたって話か?はい。
葵さんが手拭いを巻いていたからこそ殺しが起きたのではないかと。
つまりはずみって事か。
はずみというかまあ何と言うか…。
…で見つかったのか?そういう殺しが。
まだです。
あるいは私が間違えてるのかもしれませんし…。
しおれるなよ。
もう困ったなお前は…。
(志乃)あら弓之助。
来ていたのですか。
はい。
叔母上。
あなた聞いて下さいませ。
本日桜花亭が売り切れでございましたの。
桜花亭?お忘れでございますか?先日頂いた大福餅ですわよ。
あなたうまいうまいと5つも召し上がったではありませんか。
ああ!あれか。
ですから私買いに寄りましたの。
そしたら私の目の前で女中が20個も買っていってしまって今日の分は売り切れでございます。
20個…。
はい。
ですから私言いましたの。
「もし女中さん。
私も夫のために是非と桜花亭の大福を買いに参りましたのでほんの5つばかりでようございますから譲ってはくれませんか?」と。
なのにあの女中ときたら「これは奥様の言いつけで買いに来たからできません」とあなたまあ〜!小憎らしい顔でこんなふうに口をとがらせて「京の伊勢広というたばこ屋でございます。
お忘れ下さいますな。
ごめんくださいまし」。
あなた。
へっ。
もしあのたばこ屋で何かありましたらもうぺしゃんこにしてやって下さいまし!はあ…。
はあ…。
あっそうだ。
たばこといえば政五郎が言ってたがお前たばこの事で何か言ったんだって?弓之助。
たばこはまだいけませんよ。
あ…え…私が喫するのではありませんので。
はい…。
正しくはたばこではなく葵さんの座敷に漂っていたいい香りの正体がたばこであると考える事もできると。
まあ細かい事はいいんだ。
いやそれがな宗一郎ってのがたばこ好きでな。
目上の方の前で煙管を出すのは失礼だと思いこらえていたのですが…。
俺は構わねえよ。
遠慮なくやってくれ。
湊屋でも私一人しか吸いませんのでいつも隠れて吸っております。
あ…ついでに聞くがいい香りがするたばこなんてのはあるのかね?はい。
唐渡りの品でたばこというよりかはお香のような香りだけは高いもので。
ああ。
湊屋には到来物がたくさん参ります。
中には旦那様がたばこをお吸いにならない事を知らずに珍しいたばこを持っていらっしゃる方もおいでなのです。
そうです。
この夏の事でしたか父が到来物の中から連枝薫という今言った唐渡りのたばこをえり分けて持っていくのでどこかなじみの女に渡すのかと思っていましたがそういう事なら葵さんにあげるつもりで持っていったのかもしれませんね。
多分そうなんだろう。
総右衛門が持っていったその連枝薫を葵は手元に置いていた。
たばこ盆の中に…。
葵は風邪気味でたばこを控えていたから来客に勧めた。
風邪っぴきですからね。
しばらく控えているんですよ。
来客はたばこ好きでその珍しいたばこを吸った。
だから匂いが残っていた。
そのたばこを吸った客が下手人て事になる。
あなた!えっ?あっ…あっ…あっ…。
あれ?何だ?おい。
弓之助!えっ!?何だ?おいおい…。
坊ちゃん!弓之助!弓之助!ああ…!どうしたのですか!?ああ…!えっ。
ああっ…。
お…叔父上。
どうしてそんな大事な話を先になさらないんですか!えっ?私は見当違いの事をしておりました。
そうです。
手口ではなく匂いなのです。
それこそ捜さなければならない事だったのです。
平気ですか?弓之助。
はい。
私は平気です。
叔父上!おでこさんのところに行ってまいります!はい。
うんうん…。
何でございましょ?さあな…。
(弓之助)いい香りがするたばこを好きな人を誰か知りませんか?たばこ好きの野郎はいくらでもいるがそんなたばこがあるのかい?そんなたばこがあるって知らねえな。
知ってるか?さあ?知らねえな。
それから3日後の事
晴香先生!おはつ坊の姿見ませんでしたか?えっ?おはっちゃんなら杢太郎さんと一緒に…。
厠に行くと言ってこちらに向かったのですが戻ってこなくて…!ああどこ行っちまったんだ!ああ〜大変だ〜!
(友兵衛)王手!え〜っ!ちょっと待って。
待てませんよ〜。
待って下さいよ〜。
そんな事とはつゆ知らぬ平四郎。
さておはつの運命やいかに。
また弓之助は下手人を捜し当てられるのであろうか。
次回最終回
芋洗坂でおはつという娘がかどわかされたそうです。
おはつ坊!
(弓之助)下手人とおぼしき人の見当がつきました。
芋洗坂の貸家?えっ?
(弓之助)ここしかないのです。
ここが始まりでした。
あの日の葵さんの言葉に一人だけの地獄があった。
(鈴の音)甘ったるい匂いがする。
怪談話にも程があるぜ。
2015/12/01(火) 14:05〜14:48
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら2(6)「ただよう香り」[解][字][再]

宮部みゆきの時代劇ミステリー「ぼんくら」シリーズ第2弾。個性豊かなレギュラー陣に加え、新たなキャラクターも続々登場。ミステリー色も一層濃くなり、満足度倍増です。

詳細情報
番組内容
平四郎(岸谷五朗)が葵(小西真奈美)殺しの下手人とにらんだおふじ(遊井亮子)、孫八(なだぎ武)、宗一郎(屋良朝幸)への捜査が進み、真相が徐々に明らかになり始めた頃、この事件は一風変わった「通りもの」の仕業だと断じていた弓之助(加部亜門)は、香りを楽しむ唐渡りのたばこが葵の手元にあったと知り、匂いこそに事件の鍵があるのだと気づく。そんな頃、芋洗坂では、下手人に一度狙われたおはつが、再びかどわかされた
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,秋野太作,志賀廣太郎,小西真奈美,遊井亮子,西尾まり,村川絵梨,黒川智花,なだぎ武,螢雪次朗,鶴見辰吾,大杉漣,松坂慶子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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