(角田六郎)暇でいいねぇここは今日も。
(神戸尊)何か仕事があれば喜んで手伝うんですけどね。
失礼します。
はいなんでしょう?
(陣川公平)お久しぶりです。
ああ陣川さん…。
何しに来たんだよ?経理の仕事は?ちゃんと休みを取って参りました。
あの…杉下さんたちに…。
(杉下右京)おや陣川くんどうしました?ある事件について相談がありまして。
事件ですか?はい。
僕子供が生まれる事になったんですが実はその母親の知人が亡くなられてですね…。
ちょっと待って。
誰の子供だって?僕父親になるんです。
(3人)父親!?僕の行きつけの写真屋で働いている女性です。
青井由香利さんという方なんですが…。
いらっしゃいませ。
(青井由香利)いらっしゃいませ。
現像を頼んでた陣川です。
(由香利)はい。
お待ちください。
お確かめください。
あっ…これは僕は警察官で見当たり捜査のために…。
あっでも仕事は経理なんですけど。
あの…部屋に張る用にですね…。
(陣川の声)通っているうちに色々と話すようになって…。
シングルマザー?旦那さんはいないんですか?結婚はしてません。
ちょっと前に別れちゃって。
ひどい男だ。
由香利さんを捨てるなんて…。
あっ!どうしました?元気みたい。
ああ…赤ちゃん?何か言いたい事があるのかな?話してもよろしいですか?えっ?赤ちゃんと。
どうぞ。
(せき払い)こんにちは。
警視庁捜査一課の陣川公平と申します。
(笑い声)陣川さんはいいお父さんになれそうですね。
え…。
あの…僕でよければなりましょうか?え?子供の…父親に。
嬉しいです。
でも私は…幸せになっちゃいけないんです。
(陣川)とても慎み深い謙虚な人なんですよ。
遠回しに断られているだけのように聞こえますけど。
尊くん。
でその事件とはどのような?由香利さんはあるドキュメンタリー番組の取材を受けていたんです。
でその番組を撮っていた川野麻紀さんという方が先日自殺して…。
おやおや。
ドキュメンタリー?うん。
出産をテーマにしたドキュメンタリーだったそうです。
由香利さんはその撮影で半年近くかかわってきて川野さんが自殺するとはどうしても思えないそうなんですよ。
しかしこう言っちゃなんだがあんたが女に惚れると…なあ?ろくな事がないからねぇ…。
お願いします!彼女のためになんとかその事件の真相を解き明かしてあげたいんです。
(由香利)わざわざすみませんお越し頂いて。
あっ今お茶を…。
ああっお茶なんかいいですよ。
由香利さんは動いちゃ駄目です。
そんな…平気です。
妊婦だって適度な運動は必要なんですよ。
ね?でもあまり腹筋使うのはよくないから無理に背伸びとかしないで。
すみません。
ありがとうございます。
いいえ。
どうぞお座りになってください。
はい。
(由香利)どうぞ。
出産をテーマにしたドキュメンタリーの取材を受けていたそうですね?はい。
4月2日に出産予定の3人の妊婦たちを追ったドキュメンタリーなんです。
えっ3人とも同じ日に?はい。
同じ4月2日に。
それに川野さんは私にこの作品は最高傑作になるって言ってたんです。
(川野麻紀)由香利さんこのドキュメンタリーは私の最高傑作になるわ。
最高傑作ですか。
それなのに自殺するなんてどうしても思えなくて。
おかしいですよね?絶対。
なるほど。
ちょっと調べてみましょうか。
ちょうど時間もありますしね。
ええ。
ありがとうございます。
お願いします。
よかったね。
はい。
(米沢守)川野麻紀さんは勤務先の映像制作会社で1人残って映像の編集の作業をしていたそうです。
そこで毒物を混入したコーヒーを自ら飲んで死亡したようですな。
(陣川)もしくは誰かに飲まされたか。
(古賀大樹)川野入るぞ。
(米沢)第一発見者は翌朝会社に出社してきた社長兼プロデューサーの古賀大樹さんでした。
こちら川野さんの所持品です。
それから映像編集用のハードディスクが壊されてました。
残念ながら中のデータも完全にやられてまして修復は不可能でしょう。
悪意を感じますよ。
自殺とは思えない。
周りの人の話では最近彼女はずっと仕事の事で悩んでいたようで退職願を提出していたそうです。
編集作業がうまくいかずに自殺をしたとそれで判断されたようですな。
(陣川)そんなわけはありません。
ちょっとあの…黙っててもらえますかね?一応自殺の理由はあったんだ。
あっ!そう思うならもうソンくんは外れてもらって結構。
なんだよ…。
僕も自殺と結論づけるのはいささか早計な気がしますがねぇ。
本当ですか?こちらを見てください。
川野さんの指紋が採取された箇所ですが毒の小瓶コーヒーカップコーヒーメーカーなどからは検出されていますがこちら給湯室や給水ボトルからは一切検出されていません。
つまり水を使った痕跡がありません。
という事はやっぱり他殺じゃないですか。
でもそれだけじゃなんとも言えませんよね。
ペットボトルの水を使ったのかも。
いいやソンくん第三者の影を感じないんですか?間違いありませんよこれは。
うん。
(ドアの開く音)じ…陣川さん!
(ドアの閉まる音)ど…どうしましょう?放っときましょう。
ハードディスクが壊されたのだとしたら中の映像を見られたくない何者かの仕業と考える事も出来ますねぇ。
川野さんが最後にどんな映像を作っていたのか気になりますねぇ。
警視庁特命係の杉下と申します。
同じく…。
陣川です。
こちらは後輩の神戸。
社長兼プロデューサーの古賀です。
(津村紗弥)ディレクターの津村です。
川野の事に関しては時々手伝っていたこの津村が詳しいかと。
ただ私もどこまでお答え出来るか…。
川野さん撮影の時はスタッフを連れずに1人で取材に行ってたので。
1人で?取材対象者に極力撮影だと意識させないように。
それが川野さんのスタイルでした。
カメラも自分で回してね。
いい画撮るんですよ。
デビューですぐに大きな賞を取ってうちのエースだったんですけどここのところ色々悩んでたみたいで。
でつい先日これを。
退職願ですか。
辞める理由はなんて?さあ…。
個人的な理由としか言ってなかったんで。
でも今撮ってたドキュメンタリーがうまくいってなかったのは確かみたいでした。
このドキュメンタリーは4月2日に出産予定の妊婦さんたちを題材にしているそうですね。
ええ。
今はある程度希望をすれば出産日は調整出来るんです。
様々な理由で出産日を4月2日に選んだ女性たちを通じて現代の出産を描くというのがテーマですかね。
それは興味深いですねぇ。
いつ頃完成予定だったのでしょう?編集中の映像が入ったハードディスクが壊されちゃったので…。
番組に穴を開けるわけにもいかないしあるものを使って私が自分で編集するしかありませんね。
あるもの?ああどうつなぐかは川野の頭の中にしかなかったんですがこれまで撮った取材のテープは残ってるんで。
その取材テープですが見せて頂く事は可能でしょうか?え?「なんか緊張しますね」
(麻紀)「大丈夫。
毛穴まできれいに映ってるよ」じゃあこの声が?ええ川野です。
自分でカメラ回しながらインタビューしてるんです。
(麻紀)「じゃあ由香利さんまず4月2日に産もうと思った理由教えてもらえる?」「恥ずかしいんですけど星占いなんです」
(麻紀)「その日に産むのがいいって?」「その日の星がすごく幸せな配置らしいんです」「フフッ…単純ですよね」「でも信じちゃうんですそういうの」
(麻紀)「どうして4月2日に産もうと思ったんですか?」
(新田玲菜)「私は子供のためを思って」
(麻紀)「…と言うと?」「あ…4月2日って新学年に切り替わる最初の日じゃないですか」「だから来年の4月1日生まれの子より1年近くも早く生まれてくるんです」「子供が小さい間は特に能力面でも差が出ると思うんです」あと1人。
(麻紀)「どうして4月2日に産もうと思ったんですか?」
(藤代明実)「はい」「その日は私たち夫婦にとっては記念の日なんです」「初めて出会った日なんですよ」「ちょうど当初の予定日も近かったのでどうせなら少しずらして今度は3人の記念日にしようかなと」こんな感じですかね。
これが100時間くらいありますよ。
100時間?それはすごいですねぇ。
実際に起きた出来事を撮るわけですからいついい画が撮れるかわからないんでこれぐらいが必要なんです。
へえ〜。
ドキュメンタリーってやらせみたいな事もあるのかと思ってましたけどちゃんとしてるんですね。
川野さんは特にそういうの嫌いでしたから。
でも例えばこのシーンとか…。
(麻紀)「大変だったわね」「疲れましたよ」
(久実)「明実!」「お姉ちゃん!どうしたの?ビックリした」
(久実)「やだ取材中?ごめんなさい」「麻紀さん姉です」
(麻紀)「えっもしかしてお姉さんもおめでたなの?」
(久実)「ええ3月に出産予定なんです」これ偶然会ったみたいにしてますけど仕込みなんです。
仕込み?川野さんは知らなかったんですけど。
ねっ社長?いいえこれは演出ですよ。
元々私の企画だったんでだから多少手伝いをね。
ん?どういう事ですか?彼女のお姉さんにお願いして偶然鉢合わせるように仕向けていたって事です。
よくある事ですよ。
「姉は昔から明るくて社交的で私はいつも比較されてきたんです」「同学年になったらきっと子供まで比べられちゃうよ…」明実さんが4月2日に産みたい本当の理由を知ってた社長は2人を会わせてそれを引き出そうとしたみたいです。
川野さんもあとでそれ知って社長に相当怒ってましたよね。
川野さんはこんな作為ある演出は絶対しなかったんですよ。
目の前の出来事の中から何を拾い上げて作品にするか。
それがドキュメンタリーなんだって。
私はこれぐらいありだと思うんだけどなぁ。
だっていい画撮れてるでしょう?あのシーンお姉さんと偶然会うように見せた計画はあなたもご存じだったのでしょうか?いいえ。
あとで姉から聞きました。
ひどい話ですよ。
人の事面白おかしく撮ろうとしたり勝手に撮影を中止したり。
ん?撮影を中止したって?私はもう撮影をされない事になったんです。
せっかく協力してたのに…。
一方的に撮影中止を伝えられたんです。
2か月前くらいですかね…。
急に番組制作上の都合でって連絡がありました。
あなたもですか。
この子にも見せたかったなぁ…。
(紗弥)あの…私たちもう帰りますけど?行こうか。
(伊丹憲一)おおっ特命係…。
あれっどうしたんですか?あっそうか。
僕たちが他殺の可能性を突き止めた事を聞いて一課も捜査をし始めたってわけですか。
いいえ。
我々も独自に証拠を見つけたんですよ。
なんですか?証拠って。
(芹沢慶二)事件のあった夜会社ロビーの防犯カメラに不審な男が映ってたんです。
不審な男?30代くらいのね。
おい!行くぞ。
大変ですね入れ代わり立ち代わり。
すみませんねぇ係が違うものですから。
…とは言ってもあなた方のお仲間が今朝までずーっと編集ルームに入り浸ってましたよ。
仲間って?陣川さんとかいったっけ。
彼はここに来て何を?川野の撮った取材テープをずーっと見てました。
えっ100時間全部ですか?ええ。
私たちも止めたんですがねずーっと2日間寝ずに見てましたよ。
ちょっと怖いぐらいです。
それは…お騒がせしました。
あのねこれね清書してメールして。
平野P。
はい。
社長禁煙です。
火つけてないでしょ〜?
(ため息)で今日は?実は例の企画で取材されていた妊婦さんに会ってきました。
3人のうち2人は2か月ほど前に撮影をやめていたそうですね。
えっ!?あれ?ご存じない?古賀さんが企画の責任者だったんですよね?私は川野の事を信頼してましたから。
なるほど。
では青井由香利さんだけが撮影を継続されていたようなんですけどそちらの理由は…?最近ずっと忙しかったもんでねぇ…。
(由香利)今日はお1人なんですね。
はい。
それで何かわかりました?ええ…。
あの…由香利さんのおなかの子の父親って…。
(ノック)はい。
すいません。
ちょっと…。
あ…。
あっ陣川さん。
あっ…。
川野さんは2か月ほど前から他の妊婦さんの撮影を中止しあなただけを撮影していたようです。
なぜそのような事になったのか心当たりはありませんか?そうだったんですか?なんででしょう?全然わかりません。
12月の初旬なんだけど心当たりない?12月の初旬…。
地元の伊勢崎に帰った事はありましたけど。
伊勢崎?そこではどんな撮影だったのでしょう?何か特に変わった事はありませんでしたか?いえ特に何もなかったと思います。
では川野さんとの関係についてお聞きしたいのですがどのようないきさつで取材を受ける事になったのでしょう?制作会社の方から電話があったんです。
最初はずっと断り続けてて。
それから何度か川野さんが説得に来て…。
由香利さんのような女性がどうやって母になっていくかその様子を多くの人に知ってほしいの。
あなたの言葉や行動が家族の事で悩む誰かの助けになる。
そう考えてみてくれない?これはあなたがやるべき事なんだって。
それで取材を受ける事にした。
実を言うと自殺じゃないって聞いた時ちょっとホッとしたんです。
はい?私4月2日の出産諦めたんです。
もしかしたらそのせいで川野さんに迷惑がかかって自殺しちゃったんじゃないのかなって思ってて…。
ねえ諦めたってなんで?本当は4月2日の出産では早産だったんです。
けど色々考えてやっぱり母体に安全な本来の時期に戻そうと。
川野さんにも話したわけですね?はい。
それはいつの事でしょう?先週の土曜日です。
ん?川野さんが亡くなる前日じゃないですか。
ええ…。
ところであなたが最初に話されていた星占いですがどこで見たものなのでしょう?どうしたんですか?突然。
実は僕も占いには大変興味がありましてね。
えっ?そうだったんですか?ええ。
どこに4月2日の星があなたの出産によいと書かれていたのか気になりましてねぇ。
なんだったかな…。
サン・サイン占星術でしょうか?それとも古代ルネサンスのものでしょうか?すいません忘れちゃいました。
忘れちゃいましたか。
杉下さんもういいんじゃないでしょうか。
そろそろ…。
行きましょうか。
そうですね。
では。
ああ1つだけ。
なんです?私は幸せになってはいけない。
私は…幸せになっちゃいけないんです。
あなたは陣川くんにそう言ったそうですが何があなたをそのような気持ちにさせているのでしょう?それは…。
やめてくださいよ杉下さん。
困ってるじゃないですか。
ひどいですよ杉下さん。
なぜ由香利さんをあんなに責めるんです?別に責めてるつもりはありませんがねぇ。
根掘り葉掘り探ってたじゃないですか。
まさか由香利さんを疑ってるわけじゃないですよね?陣川くん彼女は明らかに何かを隠しています。
事件にかかわっている可能性があるのだとしたら調べるのは当然だと思いますよ。
2か月ほど前に撮影しに行った伊勢崎市の事気になりますよね。
ええ。
ところで君何か用があって来たのではありませんか?いやそれはもういいです。
君紅茶飲みますか?結構です。
どうやらこれですね。
20年前伊勢崎市内の火災事故で由香利さんの母親が亡くなってるんです。
由香利さんの母青井美恵子さんは自身が経営していたクリーニング店で焼死しました。
出火原因は美恵子さんが放置していたアイロンだったようです。
この火災で上の階の喫茶店を夫婦で経営していた大山幸一英子夫妻も逃げ遅れて亡くなっています。
そしてその日付が4月2日。
そうですか。
由香利さんは母子家庭でした。
この事故で母親まで亡くし養護施設で育てられてきたようです。
彼女はずっと亡くなった母親のために罪を背負って生きていたのでしょうかねぇ。
幸せになってはいけない…という事ですか?でも由香利さんに責任はないじゃないですか。
それでも由香利さんは自分だけが幸せになる事を後ろめたく思ってしまったのかもしれません。
もしかするとおなかの子の父親と離れた理由も…。
行ってみましょうか。
どちらへ?川野さんの会社です。
4月2日の火災とあのドキュメンタリーがどうかかわっているのか取材テープにヒントがあるかもしれません。
陣川くん君どうしますか?すいません。
僕は行くところがあるので。
えっ?失礼します。
先輩先輩先輩…ちょっとちょっとちょっと…!
(三浦信輔)どうしたんだよ?
(芹沢)防犯カメラに映っていた男の身元わかりましたよ。
(伊丹)本当か?
(芹沢)ええ。
2か月くらい前この男と被害者が制作会社近辺の喫茶店で口論になってたらしいんです。
(鈴本友之)そっとしといてもらえませんか?なんでやめなきゃいけないんですか?鈴本友之か…。
被害者との関係は?それがまた聞いてビックリなんですよ。
なんだよ早く言えよ!被害者に取材されていた青井由香利の恋人なんです。
それ間違いないのか?ええ。
泊まり込みは勘弁してくださいね。
心配はご無用です。
どうぞ。
拝見します。
この日の映像が2か月ほど前青井由香利さんが伊勢崎に帰った時の映像のようですねぇ。
「麻紀さんごめんなさい。
ここからはちょっと…」
(麻紀)「わかった」杉下さんこの墓って…。
誰でしょう?この人。
(ノック)
(鈴本光枝)友之?はい。
(光枝)警察の方が見えてるけど。
鈴本友之さんですね?
(鈴本)はい。
青井由香利さんの事でちょっと。
「なんだろう?」「私…母親になってもいいのかな…」
(麻紀)「どういう事?」「私のお母さんは絶対に…絶対に許されない事をしたんです」「でも相手の方は許してくれるって…」さっきの墓参りもこの手紙もあの火災事故の事で間違いないでしょうね。
そのようですねぇ。
ありがとうございました。
川野いい画撮ってるなぁ。
ほら。
せっかく完成させたのに残念ですね。
あのハードディスクさえ壊されなければ…。
仮ナレだけでも残っていれば構成がわかったのにな。
なっ?はい。
仮ナレ?番組にナレーションをつけるんですけれども構成のために編集の段階で仮に自分で吹き込むんです。
自分でナレーションを?ええ。
その仮ナレーションが残ってないんですか?普通は入れてるんですけどね…。
ちなみに川野さんはいつもどうやってその仮ナレを録音していたんでしょう?そういや見た事ないな…。
あるか?いえ私も知りません。
(鈴本)由香利とは2年ほど前彼女が僕の勤務先に事務員として入社してきて知り合いました。
ひと目惚れでした。
何度も口説いてやっと親しい関係になれました。
だけど…。
今日はもう帰ります。
そっか。
送ってくよ。
私にはもう構わないでください。
(鈴本)由香利…。
それから間もなく由香利は姿を消しました。
君は由香利さんが以前住んでいたマンションで彼女が戻るのを待っていましたね。
あのあと探偵を使って居場所を捜し出しました。
そこで川野さんが取材してるのも知りましたよ。
20年前彼女の母親が起こした火事の事も…。
そこまでわかっててじゃあなんで由香利さんに会いに行かなかったんです?おなかの子の父親なんだろ?それについてはもちろん責任を負う覚悟です。
だけど彼女が出てった意思も考えると…。
君は由香利さんの過去を知って尻込みしてるだけじゃないのか?違います!
(ノック)
(伊丹)お取り込み中のところ…失礼しますよ〜。
陣川さん…なんで?
(陣川)そ…そっちこそ。
(せき払い)鈴本友之さんあなた川野麻紀さんが亡くなった夜彼女に会いに行ってますよね?あれ何しに行ったんですか?番組の制作中止をお願いしようと…。
でも結局諦めて引き返しましたよ。
(伊丹)引き返したねぇ…。
(せき払い)ちょっと場所を変えてゆっくりお話をお聞かせ願えますか?拝見します。
私の母は人の命を巻き添えにして死んだんです。
相手の遺族の方は私を許すと書いてくれましたけど私だけが幸せになんかなっていいんでしょうか?杉下さんやっぱり思ったとおりでした。
そうですか。
だとするとあの手紙の意味も変わってきますねぇ。
(米沢)お待たせしました。
こちらが川野さんの所持品です。
どうもありがとう。
あっ…。
やはりそうでしたか。
もう何度も何度も勘弁してくださいよ本当に。
すみませんねぇ。
これがもう最後になると思いますので。
川野さんが作ろうとしていた作品の全容がわかりました。
本当ですか?でもハードディスクは壊されていたんじゃ…。
川野麻紀さんの所持品に仮ナレーションが残っていたんです。
川野さんは仮ナレーションを録音するのにこれを使っていました。
(麻紀の声)「1992年4月2日群馬県伊勢崎市」ここにある雑居ビルで火災事故が発生した。
「火災を起こした女性を含め3人の命が失われる悲惨な事故だった」なんです?これは。
違う作品じゃないんですか?いえ間違いなくこの作品のものです。
もっとも古賀さんが元々考えていた企画とはテーマ自体変わっていますが。
えっ?
(麻紀の声)「彼女はその火災事故を起こした女性の娘だ」「青井由香利さん30歳」「彼女は母親が人を死なせてしまった事で自分が幸せになる事を許さずに生きてきた」「そんな彼女が今新しい命を宿している」「子供の父親を置いて彼女は飛び出した」「1人で産む気なのだ」「まるで幸せから逃げるように…」「そして彼女は自分の出産予定日をあえてあの事故の日に設定した」「ここはその火災事故で亡くなった犠牲者の墓」「彼女は今も月に一度はここに来て墓前に手を合わせ続けている」「母親の罪を背負って生きる彼女がどのように母親に変わっていくのだろうか」2か月ほど前伊勢崎で墓参りをした頃からでしょう。
由香利さんが今でもずっと母親の罪を背負い続けている事を知って川野さん自身の気持ちが変わっていった。
ドキュメンタリーは撮影を続けていくうちに新たな発見が生まれテーマ自体が変わっていく事もあるようですね。
この企画はまさに川野さんの中で母親の罪を背負って生きる女性が自らが母親として再生していくというテーマに変わっていったのでしょう。
そしてこの作品が川野さんの死の真相を教えてくれました。
どういう事ですか?川野さんは自殺ではなく殺されたという事です。
ええっ!?そしてその犯人は…。
あなたですね津村さん。
津村が!?あなたは川野さんが編集ルームで作っていた作品についてこうおっしゃいました。
せっかく完成させたのに残念ですね。
「せっかく完成させたのに残念ですね」…。
あなたはどうして彼女はもう作品を完成させたと思ったのでしょう?いいですか?あのドキュメンタリーは『四月二日の妊婦たち』という作品ですよ。
つまり出産の日が来るまであの作品が完成する事はありえなかった。
あなたがなぜあの作品が完成したと言えたのか考えられるのは仮編集の映像を見た事があるからです。
そう殺害現場で。
(古賀)そんなわけないでしょう津村が犯人なんて。
だってこいつはあれほど川野に憧れていたんですよ。
もう憧れてなんかいませんよ。
津村…。
あの人は…ドキュメンタリーを裏切ったんです。
これ…。
どうした?私…前見ちゃったんですよこの手紙。
んっ?
(紗弥の声)ここに置いてあったから…。
川野さんが書いたんですよね?そしてこれを自分で由香利さんに送った…?答えてください!そうよ私がやった。
そんな…捏造じゃないですか!いい画が撮れたわ。
(紗弥の声)あの人はもう私の憧れてる川野麻紀じゃなかった。
私が憧れ続けた真のドキュメンタリー作家じゃなくなってたのよ!
(紗弥)本当に放送するつもりなんですか?川野さん恥ずかしくないんですか?ええ。
これが私の最高傑作よ。
(麻紀の声)「まるで幸せから逃げるように…」「そして彼女は自分の出産予定日をあえてあの事故の日に設定した」「彼女は母親が人を死なせてしまった事で自分が幸せになる事を許さずに生きてきた」「そんな彼女が今新しい命を宿している」「ここはその火災事故で亡くなった犠牲者の墓」
(紗弥の声)あんな偽物を川野麻紀の作品として世に出す事は出来なかった。
偽物…ですか。
そうよ!あの人は私の目標だったのよ。
あの人がいたから私は今までやってこれた。
なのに…あんなデタラメを…。
許せるわけないでしょう!川野さんはどうして当初の企画を変更して由香利さんだけを撮影する事にしたのでしょう?ご存じですか?知らないわよそんな事!これだと思うものを見つけたからではないんですか?あなたが言ったように目の前の出来事から何を拾い上げて作品にするか…ですよ。
20年前の火災事故ではある夫婦が巻き添えで亡くなっています。
残された一人娘の名は大山麻紀さん。
えっ?その後彼女は親戚のうちに養子に入り名字が変わりました。
おわかりですね?川野麻紀さんは火災の犠牲者の遺族だったんです。
川野さんも驚いたでしょうね。
候補者リストには絶対に忘れる事の出来ない名前があった。
由香利さんを撮影するのは川野さんにも複雑な思いがあったかもしれません。
ですが彼女はそれすらもドキュメンタリーの1つの側面だと考えた。
あの手紙は犠牲者の遺族としての心からの言葉だったのでしょう。
しかし1人のディレクターとしては越えてはならない一線だった。
それでも由香利さんを救う事でこの作品は成立する。
たとえそれが自分にとって最後のドキュメンタリーになったとしてももう川野さんに悔いはなかった。
僕にはそう思えるのですがねぇ。
そんな…嘘…。
しかし今僕たちがお話しした事をたとえあなたが知らなかったとしてもあなたに川野さんを殺す理由などどこにもありませんよ。
嘘…。
うう…。
嘘…ああ…。
ああ麻紀さん…。
(紗弥の泣き声)川野さんがあの事故の…?ええ。
川野さんはあなたが過去を乗り越え幸せを選ぶ決意をするまでをずっと撮っていたんです。
(麻紀の声)「幼い頃からずっと罪の意識を背負い続ける人生とはどんなものだっただろうか?」「しかし彼女には幸せになる権利がある」「生まれてくる子供にも」「私4月2日の出産やめようと思うんですけど」どういう事?普通に産もうと思うんです。
きちんと本来の予定日どおりに。
(麻紀の声)「彼女は今やっと幸せに向き合おうとし始めた」犯人捕まったんですね。
彼女は一歩を踏み出しました。
は?君がまだ踏み切れないのなら僕が由香利さんをもらいます。
何を言ってるんですか?君が逃げ続けるのなら僕が父親になりますよ。
なんの事です?僕がおなかの子供の父親になります。
ふざけないでくださいよ!じゃあどうするんだよ!僕が由香利と結婚します!由香利…。
ずっと言おうと思ってた事があるんだけど…。
私の母は昔…。
関係ないよ。
関係ない。
僕が幸せにする。
由香利さーん!うう…。
(月本幸子)大丈夫でしょうか?幸子さん陣川くんにお水を1杯。
いらない。
まだまだいけるって!おいさっちゃん!さっちゃんって…。
つまみ足りてないよちょっとほら…。
はい。
噂どおりの方ですね。
でも楽しみですね。
川野さんのドキュメンタリー放送が決まったそうですよ。
そのようですねぇ。
はいどうぞ。
(陣川)はいサンキュー。
子持ちししゃも…。
子持ち…!?また余計な事を…。
あらいけませんでしたか?公次ー!!こうじ…?子供に名づけるつもりだったっちゅうの!ああ子供…。
なるほど自分の名前から一字取ったわけですねぇ。
イエス。
陣川公平の公の字を取って公次よ!杉さんは本当にわかってる!うう…。
ショックだったんですね。
大丈夫大丈夫。
いつもの事だからすぐ立ち直りますよ。
2015/12/01(火) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒season10[再][解][字]
陣川警部補(原田龍二)が右京(水谷豊)と尊(及川光博)に父親になると報告しにきた!意中の相手(松本莉緒)はドキュメンタリー番組の担当者が不審死したと相談してきた
詳細情報
◇出演者
水谷豊、及川光博、鈴木杏樹
川原和久、大谷亮介、山中崇史、山西惇、六角精児
【ゲスト】
原田龍二、松本莉緒
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
福祉 – 音声解説
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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