そして翌日、今日はレディアは露店広場を回っている為、狩りはお休みである。
ワシとミリィ、クロード、シルシュのみで昨日と同じティロスの街へ来ていた。
しかし今日は廃工場へは向かわない。
いや、一度は行ったのだがクロード一人ではいまいち安定しない為、早々に離脱する事になった。
クロードは謝っていたが気にするなと言っておく。それとは別にやりたい事もあるのだ。
「シルシュ、先日の機械人形、ラッキーラビを探してもらえるか?」
「わかりました」
ラッキーラビのドロップするラビットヘアバンドはそれなりに高値で売れる為、本日はこれを入手しようという算段である。
「クロード、こいつをつけておけ」
そう言ってクロードに月光の籠手を放り投げた。
「ボクがですか?」
「スティールは魔力が高すぎると盗み自体はしやすいが、逆にレアアイテムは盗みにくくなるんだ。大きな手で小さなものを探るようなものだな」
「成程……よくわかりませんが」
「やってみればわかるさ」
そうこう言っているうちに、シルシュの耳がぴくんと動き、東の方を向く。
「魔物です。多分ラッキーラビかと」
「よし、行こう」
全員にセイフトプロテクションを念じてはいるが、多数のラッキーラビに囲まれると結構ヤバい。
慎重に進んでいくと、物陰を警戒するように歩くラッキーラビを発見した。
まだワシらに気付いていないようである。
(クロードを前にして一気に行く。遅れるなよ)
(うんっ)
(わかりました)
(いきます……っ!)
口を結んだクロードが地を蹴り、盾を構えてラッキーラビに突撃していく。
ラッキーラビはワシらに気付いて銃を構えるが、盾を構えたクロードに怯んだのか、そのまま正面を狙って発砲してしまい、銃弾は盾でかきんと弾かれてしまった。
「だああああああああああっ!!」
「……!!」
クロードは突撃の勢いのままに、盾でラッキーラビを押し潰す形で壁へ叩きつけた。
どかっという音と共に、壁の上から雪が落ちてくる。
「ナイスだクロード! 離れろっ!」
「はいっ」
離れたクロードの後ろから、宝剣フレイブランドを構え、タイムスクエアを念じる。
時間停止中にブルーボール、ブラックボール、グリーンボールを念じ、斬撃と同時に解き放つ。
――――テトラボール。
剣閃と共にラッキーラビの腕が舞い、銃を持ったまま地面に落ち、消滅していく。
もう一方の腕を持ったまま背負い、地面に投げつけると同時に背中に乗って腕を締め上げ、その動きを束縛する。
ラッキーラビは機械の身体の割に非力で、銃を奪えば殆ど無力化できるのだ。
無力化はしたが、ぎしぎしと抵抗をするように身体を動かすラッキーラビは、殺せとばかりに目線を向けてくる。
「……!」
「な、なんだか可哀そうです……」
「人の姿をしているだけで、ダンジョンが生み出した魔物だ。そんな感情を持つと、死ぬぞ」
「……は、はい……」
シルシュを警告するようにぎろりと睨む。
ミリィとクロードは若干憐憫を感じてはいるのだろうが、何も口にはしない。
「クロード、じゃあこいつからスティールをするのだ」
「わ、わかりました……ってもどこから?」
うつ伏せに押し倒したラッキーラビの背中にはワシが乗り、足をバタバタさせて抵抗している。
どこから腕を突っ込もうかと、クロードが戸惑うように眺めていた。
かといって下手に動いて体勢を変えると、逃げられてしまうかもしれない。
「そのままラッキーラビの足に乗り、ここから入れればいい」
そう言ってラッキーラビの尻をぺちんと叩くと、クロードが更に戸惑うような顔を見せた。
「えぇ……だ、大丈夫かな……」
「大丈夫だ」
クロードはラッキーラビの足を押さえつける様に座り、ラッキーラビの尻の部分から月光の籠手を装着した腕を突き入れる。
それと同時にラッキーラビの身体が大きく震え、激しく暴れだした。
「……っ! 暴れるな……このっ……!」
「ひいいい……」
「うわぁ……」
クロードはラッキーラビの体内に突き入れた腕を、恐る恐る動かしているようだ。
ミリィとシルシュはその様子を、赤い顔で見ていた。
ちょっとこの光景は刺激が強すぎるかもしれない。
「……二人とも後ろを向いていろ。シルシュは警戒も忘れずにな」
「う、うん……」
「はい……」
シルシュがほんのり薄桃色に染まった髪を揺らしながら、ミリィを連れて後ろを向く。
シルシュの耳と尻尾が探る様に忙しなく動いているが、何を探っているのやら……。
なんだかんだ言ってこういうの好きだよな、シルシュの奴。
「あ、あの~中々取れないんですけど……」
「魔力が低いと、その分深くまで探れるのだ。レアアイテムも盗みやすい……と言うかもっと一気に行け、そんな恐る恐るじゃ取れるものも取れんぞ」
クロードの腕を掴み、思いきりラッキーラビの体内に押し込むと更にその身体が震える。
その後、何度も休憩を挟みつつクロードのスティールは続けられたのであった。
スティールを使っている間は魔力を消耗するし、魔力の低いクロードがやっているので時間がかかるのは仕方ない。
そしてついに、
「や、やった! やりました!」
かなり長時間をかけてやっと探り当てたようだ。
ミリィはシルシュにもたれかかり、シルシュは髪の色が随分とピンクに近くなっている。
もうラッキーラビも抵抗する力もないのか、時折ぴくぴくと震えるのみである。
「そのまま引き抜くのだ」
「は、はいっ」
クロードがラッキーラビの臀部からどぷ、という音と共に腕を引き抜くと、その手に持っていたのはラビットヘアバンド。
一発目で盗めるとは、ラッキーである。
背中を足で押しつけたまま、剣を構えると、光を失った機械の瞳が明後日の方向を見ていた。
「……悪く思うなよ」
そのまま剣を突き下ろすと、黄金の軌跡と共にラッキーラビは宙に霧散していくのであった。
「お疲れ様だったな、クロード」
「いえ……」
そうは言うが、すっかり疲弊したような顔をしている。
魔力消費もさることながら、アレは精神的ダメージも大きいだろう。
クロードの顔は少し虚ろである。
「……次はシルシュにやって貰うか?」
「いえ、大丈夫です。シルシュさんは見張りがありますし」
「しかし……」
「ボクは、強くなると言ったでしょう? このくらいはどうと言う事はありませんよ」
元気を振り絞るように笑い、弱々しいガッツポーズを見せるクロード。
「……わかったよ」
そう言ってクロードの頭を撫でていると、またシルシュの耳がピクリと動いた。
「ラッキーラビです」
発見したラッキーラビを捕縛し、また同様の手順でスティールを繰り返したのであった。
結局今日手に入れたラビットヘアバンドは2つ、金額にして三百万ルピほどであろうか。
かなり稼げたが、クロードの精神的疲労がピークに達している。
夜、クロードの部屋へ行くとそれが見て取れた。
「大丈夫か? クロード?」
「はい……」
あはは、と元気なさそうに笑うクロード。
やはり無理をさせ過ぎたか。
袋から先ほど手に入れたラビットヘアバンドを取り出し、クロードに被せる。
「へ……? ゼフ君……?」
「似合っているぞ」
不思議そうな顔をするクロードの頭を撫でると長いウサ耳が揺れた。
「これはプレゼントだよ。クロードはこういうの、好きだろう」
「……でも」
「気にするな。それにこれはクロードが頑張った分だからな」
「……ありがとうございます」
俯き、肩を震わせるクロードをベッドに倒し、ゆっくりとその背中に手を這わせた。
クロードは無理をし過ぎるきらいがある。
ワシがどこかでブレーキをかけてやらねばならないだろうな。
