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[Part2]巨額の寄付金を扱うプロ集団






ゲイツ財団/photo:Wake Shinya

年4000億円規模の寄付を世界中に投じる財団がある。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが、妻メリンダと設立した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」だ。


巨額のお金を、どこで、どう生かすのか。それを決めるのが、400人いる「プログラム・オフィサー」だ。その一人、ワカール・アジマールに財団のある米シアトルで会うと、彼は「画期的」と語るプロジェクトについて話し始めた。


財団はポリオ(小児まひ)の撲滅支援に力を入れる。ナイジェリアでの予防接種活動に関して昨年9月、日本の国際協力機構(JICA)と契約を結んだ。JICAはすでに、ナイジェリア政府に最大82億8500万円を貸し出す約束をしていた。契約は、80%以上の自治体で、子どもの8割が予防接種を受けたと確認できた場合、財団がナイジェリア政府に代わってJICAに返済する内容。ゲイツ夫妻らの寄付が、国の借金を肩代わりするわけだ。


アジマールは、主な狙いはインセンティブ(動機づけ)だと説明した。この仕組みだと、ナイジェリア政府は成果を出せば懐は痛まない。「現地の政府が本気で取り組むことで活動が進む。政府がインセンティブを持つ方法を考えた」。財団は、JICAの持つ支援のノウハウを利用し、活動の達成率を高められる。


実は、財団にはこうしたプロジェクトを現地で行う「実動部隊」はいない。財団はノウハウのある機関やNGOと提携して計画をつくり、そこにお金を出す。プログラム・オフィサーたちは、どの国にどんな課題があるのか探し、提携先を決めて戦略を立てる。行政や金融、医療などの高度な知識と経験がいる。このため優秀な人材集めに力を入れる。


アジマールは財団に入る前、パキスタンなどでポリオ撲滅に奔走する医療コンサルタントだった。国連機関やNGO職員として、アジアやアフリカの貧困国や紛争地域でも働き、人脈も豊富だ。




欧州から批判も


財団は2000年、ゲイツ夫妻が財産を寄付して設立した。06年には、著名投資家のウォーレン・バフェットが、約300億ドル相当の株式を財団に寄付すると発表。財団によると、資産は現在約420億ドル(約4兆9500億円)で、13年には年36億ドル(約4200億円)をNGOへの寄付などで支出した。主な分野をみると、貧困問題など「国際開発」に49%、「国際保健」に30%、「米国内施策」に14%という内訳だ。資産全体の規模は、ゲイツ夫妻とバフェットから毎年、寄付が加わるほか、一部を株式などで運用して保っている。


米政府は、税を優遇する慈善財団に、資産の最低5%を毎年、慈善活動に使うよう求めている。ゲイツ財団の場合は10%前後を使っているという。


財団は外部の寄付を受け付けない。支出先などの情報は公開しているが、使い道の最終決定権はゲイツ夫妻とバフェットの3人の評議員が握る。


米国では、成功して富を得た経営者らが私財で財団をつくったり、公益目的の基金に寄付したりする例は多い。古くは車社会を生んだフォード家のフォード財団、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが設立したカーネギー財団がある。最近では13年にフェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグと妻がシリコンバレーにある地域の財団に、約10億ドル相当の株式を寄付した。


ビルとバフェットは10年、資産の少なくとも半分を慈善事業に寄付するよう世界の富豪に呼びかける活動も始めた。ところが、これに欧州から批判が出た。


巨額の寄付に対する税優遇制度では、欧州より米国の方が、多くのメリットを受けられる仕組みになっている。自らもビルの呼びかけを受けたというドイツの大富豪は、独誌シュピーゲルで、こういう趣旨の批判をした。


──米国では多額の寄付をするほど、多額の税金を払わなくて済む。金持ちは寄付か税金かを選べるが、多くは寄付を選び、自分で支援する相手を決める。何が人々のためになるのかを、国に代わって金持ちが判断している。それは国や税を否定し、民主主義社会にも逆行するのではないか──。


ゲイツ財団が抱える寄付金は、ゲイツ夫妻が亡くなってから20年以内に、すべて使い切る約束が交わされている。


(和気真也)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)





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