家族と同居していても実際は1人暮らしと変わらない日中独居のお年寄りが増えています。
この70代の男性。
娘の留守中に発作を起こし孤立状態で亡くなりました。
いってきます。
新聞配達やパートの仕事を掛け持ちしながら父の介護を続けてきた娘。
介護のために仕事を辞めれば収入が断たれてしまう。
受けられる介護サービスにも限界がある。
昼間の時間は、ほとんど目が行き届かない状態になっていました。
家族と同居しているから大丈夫と周囲も見過ごしがちだった日中独居の問題。
家族だけでは支えきれない高齢者を社会でどう支えていくのか。
介護の現場の新たな課題に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
介護が必要な親と暮らしながら生活のためには働かざるをえない子どもは決して少なくありません。
65歳まで男女ともに働き続けられる社会を目指そうという目標とともに掲げられているのが在宅介護を推し進める方向性です。
こうした中、家族と同居してはいても仕事などで日中夜間、問わず家族が家におらず長い時間、実質1人暮らしの状態に置かれた高齢者が一体どれだけいるのでしょうか。
こうした状態の高齢者が抱える課題は同居する家族がいるゆえに見過ごされがちになると見られています。
身の回りに話し相手がおらず孤独感を募らせる人。
家族が留守のときに急変が起き亡くなる方。
こちらは東京監察医務院が調査した家族と同居していたにもかかわらず誰にも、みとられることなく亡くなった高齢者の数です。
去年は2109人で10年前に比べて倍増しています。
在宅介護の資源が限られている中でこれまで孤立しがちな1人暮らしのお年寄りに重点が置かれがちでした。
介護認定がたとえ同じでも家族と同居していれば介護力があると見られてきたのです。
しかし実際には、支えるはずの家族自体が疲弊していたり経済的な理由から十分なサービスが受けられないなど高齢者が孤立を深めるケースが少なくありません。
家族が働きに出ている間1人暮らしと変わらない日中独居のお年寄り。
介護を受ける高齢者と介護する家族の置かれた状況を踏まえた支援が行き届いていない実態からご覧ください。
横浜市に住む小柏さん親子です。
息子の武彦さん、父の武市さん。
6畳2間のアパートで2人で暮らしています。
武市さんは、ほとんど寝たきりで自力では、なかなか起き上がることができません。
息子の武彦さんの仕事は警備会社の契約社員。
週に3回、宿泊勤務があり昼夜、家を空けざるをえない状況です。
こんにちはうしおだヘルパーです。
1人では食事もままならない、武市さん。
週に4回訪問介護を利用しています。
1回につき利用できるのは1時間ずつ。
そのほか昼間、高齢者を預かるデイサービスを週に2回利用しています。
武市さんは息子が宿泊勤務する週3回に、デイサービスを増やしたいと思っています。
しかし、介護サービスを増やす経済的な余裕がありません。
一家の収入は武市さんの年金を合わせて月30万円ほど。
家賃や光熱費に加えおととし亡くなった妻の医療費と葬儀代で抱えた借金があります。
介護サービスに充てられるのは現在の自己負担分月2万6000円が限界です。
日中独居のお年寄りが必要な介護を受けられないのは経済的な理由だけではありません。
家族と同居していることがネックになる場合もあるといいます。
自治体によっては掃除や買い物といった家事全般を支援する生活援助のサービスが同居する家族がいるという理由で受けにくくなるのです。
今、地域の訪問介護の現場では、家族がいる世帯を支援する難しさに直面しています。
ここが担当する高齢者250人のうち、同居する家族がいる人は、およそ200人。
子どもが働いている場合は自分が親を支えようと頑張り過ぎるあまりに必要な支援を受けないことも多いといいます。
同居する家族の中には事態を深刻化させてしまうケースもあります。
横浜市で母親を介護しながら働いている、娘の友紀子さんです。
75歳になる母、昭子さんは認知症で目が離せません。
友紀子さんが働いている日中はほとんど1人で過ごしています。
実は友紀子さんは、2年前まで父親の介護もしていました。
脳梗塞で倒れ、寝たきりの状態だった父、一郎さん。
友紀子さんの留守中発作を起こし、亡くなりました。
友紀子さんは親のために建てた二世帯住宅のローンを返済するため、3つの仕事を掛け持ちしてきました。
早朝、新聞配達に出たあと昼間はスーパーでパートの仕事そして夕方は再び新聞配達。
家に残した両親が心配でも自分が頑張るしかないと思っていました。
父親は訪問介護と看護のサービスを週5日1時間ほど受けていましたが日中のほとんどの時間は目が届かない状態になっていました。
認知症の母親をこのまま支え続けられるのか。
友紀子さんは今不安を募らせています。
母、昭子さんは週3回の訪問サービスを受けていますが経済的には、これが限界です。
母親の要介護度は5段階のうち3番目。
預かってくれる施設を探そうにもより介護度の高い人が優先されるため難しいのが現実です。
友紀子さんは親のために建てたこの家で、最後まで介護を続けたいと考えています。
今夜のゲストは淑徳大学教授で、ご自身もケアマネージャーとして介護の現場に携わった経験をお持ちの結城康博さんをお迎えしています。
一生懸命働きながら、親の介護をしている子どもたち。
しかし結果として、多くの日中の時間、孤立状態、目が届かない状態に置かれている高齢者の方々っていうのは、相当増えてるというふうに見ていいんでしょうか?
そうですね。
私もいろいろ現場を見ていると、かなり増えています。
ここでの問題っていうのは、やっぱり第一に、経済的な問題が挙げられます。
今、お子さんたちが雇用が非常に不安定化しつつある。
具体的には非正規雇用者が増えてますので、終身雇用制度というものが少し解体しつつあることで、自己負担の問題が出てきているという点ですね。
もう2つ目は、家族の介護力がちょっと減っていると。
昔であれば、3人きょうだいとか当たり前で、きょうだいで介護をしていくんですが、今は一人っ子とかで、1人が全部を担っていかなければいけない。
そういうふうに家族の介護力が減退していると。
3つ目としては、介護保険制度、VTRにもありましたように、例えば生活援助というサービスが、家族介護が、同居者がいれば、少し使いにくいということで、こういう雇用形態とか、そういうものを見ながら、制度がメンテナンスされていないところに、私は問題があると思いますね。
今、生活援助とおっしゃいましたけれども、具体的にもう一度整理していただくと、これは掃除や洗濯、そうした家事一般のですね。
そうですね。
ここに見ていただきますけれども、ヘルパーさんのサービスというのを大きく分けると、身体介護ということで、身体介護ですね、お風呂の介助とか、清しきとかですけども、それからこういう掃除とか、洗濯とか、買い物、食事、ある意味、身の回りのお世話をすると。
あとは身体介護と生活援助、混合型にするんですが、この生活援助というサービスが、ある程度現役世代のお子さんがいると使いにくい。
まあ、全然使えないわけではないんですけれども、いろいろちょっとハードルが高くなるという点が、これは地域性にもよりますけどね。
具体的に先ほどのVTRに出てこられました、息子さんがお父さんを介護しているケースでは、現在、これだけの介護サービスを受けていらっしゃるんですけれども、もし、生活援助というものが使えた場合、もう少し目の届く範囲って広がるって考えていいんですか?
そうですね、番組にもありましたように、日中独居だと例えば今、問題になっていたのは孤立死、孤独死、非常に安否確認も心配ですよね。
ですから、自己負担が限られていると。
例えばですね、これ、生活援助が少し使いやすくなれば、例えば最初の息子さんが夜勤のときに、身体介護はちょっと我慢していただきたいけれども、例えば生活援助、ちょっとこれ、生活援助のほうが身体介護を絡めるよりは、ちょっと費用が安くなるわけですね。
例えばこれ、詳細に僕はケースを見てませんが、例えばこれ、独居高齢者だったら、こういうふうに、ヘルパーさんの目をちょっと厚くして、見守り機能をやることもできるんで、これで費用負担とか、ある程度同額なり、抑えられるということなので、こういうサービスの使い方も、なかなか日中独居の方にはまだ使いづらいのかなと思いますね。
どうして今のルールでは、家族がいれば、こうした見守り機能も付加できるような生活援助というのは、使いづらくなっているんですか?
基本的には、こういう介護っていうのは、家族がある程度やっていくもんだということが考えられていますね。
とにかくこういう掃除とか、洗濯とか、掃除とか選択すれば見守り機能も合わせてつきますけど、こういうものってやっぱり、介護っていうと、家族がいれば、十分じゃないか、社会保険サービスでやる必要がないんじゃないかという、まだそういう考え方が、制度に残っているんですが、先ほど申し上げたように、働き方も変わってますし、家族構成も変わってますから、やはりそういうところで、社会サービスを見ていくべきだと、僕は思いますね。
一律的に、家族がいるから、こういうサービスはあまり使いにくくするべきではない時代に来ているんではないかということですか?
そうですね。
そういうことですね。
もう一つの制限としては、自己負担を十分にできない、財政的な壁があって、こうしたサービスを受けられない。
でも社会全体から見ると、家族が働けたほうが、社会全体としての負担は減っていくんではないかと思うんですが?
基本的には、確かにこれ、生活援助サービスを使いやすくしていきますと、生活援助サービスがある程度、ちょっと介護給付費が膨らんでしまう可能性はあります。
ただし、もし本当に自己負担がこういうきめ細かいサービスをやらなければ、例えばもう生活保護サービスを使うしかなくなってしまいます。
例えば、もし私が最初のケースでいきますと、申し訳ないんだけども、息子さんとお父さんを世帯分離して、少し同居じゃなくて、分離して、生活保護しないと、なかなかやっていけないという、これ、どんどん介護度が重くなってきますと、仕事と介護を両立できなくなりますから、私はある程度、介護保険サービスを、こういう使いやすくすることによって、生活保護にある程度、利用するべきときはするんですけども、生活保護にまでいかないように、社会保険で抑えるというやり方も、中長期的に見ると、財政的にも僕はいいと思うんですけどね。
お伝えしていますように、日中、事実上1人暮らしと同じ、日中独居に対する対策が、追いついていないわけですけれども、そうした中、介護サービスに代わる、地域独自の生活援助サービスを広げようという、新たな取り組みが始まっています。
全国平均を上回るスピードで急速に高齢化が進む埼玉県幸手市です。
介護サービスが行き届かない世帯に向けて自治体と住民が連携し独自の対策に乗り出しています。
まず行ったのは日中、1人で過ごす高齢者がどれだけいるのか把握する調査です。
個別に家庭を訪問して事情を詳しく聞き取りこれまで見過ごしてきた日中独居の実態をつかもうとしています。
調査の結果、高齢者がいる世帯230軒のうち174軒が日中、1人でいる時間が長いことが分かりました。
日中、1人で過ごしているのに介護サービスが十分に受けられていない人たちに利用してもらうことにしたのが「幸せ手伝い隊」です。
費用は介護サービスの3分の1程度。
家族がいると利用しにくい生活援助を行い、見守りにもつなげようという試みです。
このサービスの利用を始めた渡辺登代子さんです。
同居する50代の息子が働いているため、日中はほとんど1人で過ごしています。
高血圧の持病があり足腰も弱っている渡辺さん。
この夏、息子の留守中にめまいで倒れ起き上がれなくなることもありました。
自分で動けるうちはできるだけ介護サービスの世話には、なりたくないとより負担の少ない手伝い隊を利用することにしました。
こんにちは。
きょうはお元気ですか?
おかげさまで調子がいい。
あらそうそれは、よかったですね。
1人で出歩くことにまだ不安があるので買い物の代行や病院や役所への付き添いなど月6回、利用しています。
渡辺さんを支援しているのは近所で暮らしている70歳の女性。
地元の商店街で使える商品券がもらえる仕組みで、今では300人が登録しています。
サービスを通して親しくなった女性に頻繁に様子を見に来てもらえるようになった渡辺さん。
日中、1人でいる不安が少なくなったといいます。
支える側も、元気なうちに地域の役に立つことで新たな生きがいにつながったといいます。
結城さん、今の高齢者どうしが地域で支え合う取り組みっていうの、どのように受け止められましたか?
非常にいい試みで、この日中独居とか、家族の介護の場合、非常に家族だけで孤立しやすい場合があるんですね。
そして地域も実は声をかけにくいんですね。
でも、こういう有償ボランティア的な、こういう多様なサービスがあるということは、地域の目が入りやすいきっかけ作りになりますので、ある意味、家族がいるから安心だというんではなくて、家族の介護者に対しての、目の配り方が、非常にしやすくなるということで、いい方法だと思います。
もう一つは、家族介護者側も、こういう有償ボランティア的なサービスがあるということで、1回使ってみることによって、いろいろ情報を得やすくなると。
自分だけで頑張らずに、介護保険だけではなくて、多様なサービスがあると。
これを通して、例えば家族介護者の集いとか、そういう介護者どうしで集って、ある程度、情報交換する会に参加する機会も得られるかもしれないということで、地域がそういう家族に入ることによって、孤立化を防ぐという意味で、非常にいいことかなと思いますね。
しかし、これが抜本的な解決策ではないですよね。
そうですね。
これは非常にいい効果はありますけども、やっぱり抜本的な問題は、やっぱり足りないサービスを増やしていくとか、最初、前半のVTRで使いにくい介護保険サービスをよりよくしていくとか、介護人材不足をちゃんと問題を解決して、ちゃんと介護サービスをきちっとしていくということがありますね。
実際ですね、使いにくい介護保険サービスというのは、きょうは在宅のことをいっていましたけれども、施設サービス、例えば特別養護老人ホームでも、実は同居家族がいると、なかなか点数が低くなってしまったりという問題もありますから、そのへんも家族と個人というサービス、そういうところも大事だと思います。
最後に、どうしてもこういう家族を支えるときっていうのは、サービスのことばかりに目が向けられがちですけど、やっぱり家族が介護しやすい労働環境を作る。
具体的にはですね、介護休暇を取りやすくするとか、介護のために2、3日休んでも大丈夫なように、職場環境を介護の理解があるために、そういうようなインセンティブを働かせるような仕組み作りがやっぱり必要不可欠ですので、そういうところに補助金を出すとか、働きやすい、介護しやすい環境も、同時に作らなきゃいけないんではないでしょうかね。
そういうことが行われないと、65歳まで男女ともに働き、そして在宅介護の大きな流れを作ろうとしていても、不安ばかりが大きくなりますよね。
そうですね。
政府も介護離職ゼロを目指すわけですから、サービスを増やすということと同時に、日中独居でも安心して暮らせるような、働きやすい環境と、そして介護しやすい環境、これが両方、問われているんではないでしょうかね。
2015/12/02(水) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「家族はいるけれど〜急増“日中独居”高齢者〜」[字][再]
同居している家族が働きに出るなど、留守の間、孤立してしまう、“独居”状態の高齢者が増えている。見過ごされがちな“家庭内独居”の問題とどう向き合うのか、考える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】淑徳大学教授…結城康博,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】淑徳大学教授…結城康博,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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