アニメーションと実写の境界線が消える?
島村達雄 インタビュー
島村達雄●株式会社白組 代表取締役。東映動画スタジオで日本最初の長編アニメーション「白蛇伝」製作に参加。サントリーCMで日本ではじめてカンヌ国際広告フェスティバル入賞。個人制作アニメーションに「月夜とめがね」「幻影都市」など。イメージフォーラム映像研究所 アニメーションコース講師。
白組●映画作品のVFX(特殊効果)では、日本アカデミー賞など多くの映画賞を獲得した 『ALWAYS三丁目の夕日』や、その続編『ALWAYS 続・三丁目の夕日』など、ゲームのオープニングCGでは『テイルズ・オブ・デスティニー』 『RULE OF ROSE』など、2D, 3Dのアニメーションや特殊効果映像を企画製作。
アニメーションの現状について
———日本のアニメーションの世界を概観するとどのような現状になっているでしょうか。
島村達雄(以下島村):いわゆる産業としてのアニメーションは、ピークは過ぎたとは言われるけれど、やはりTVアニメーションが一番大きな存在ですね。今の若い人はTVをあまり見なくなったので、昔とは微妙にターゲットを変えてますけどね。それから、大人数で製作する劇場用の長編アニメーション。もうひとつ、大きな産業としてはゲームの世界があります。今の家庭用ゲーム機は非常に進化していて、プレイヤーの操作に反応して瞬時に超高画質のアニメーションを描画できる。リアルタイム・レンダリングと言うのですが、インタラクティブに楽しむアニメーションでもあるわけです。もしかしたら、TVや映画よりもゲームの業界のほうが従事している人口は多いかもしれませんね。そのなかでは、アート・アニメーションに負けないアイディアや表現がたくさん生まれています。
———「白組」の若いスタッフの方はどうですか。
島村:彼らはみんなアニメーションが大好きで、まずはプロフェッショナルとして自分の技術を磨き、その上で、ディレクターなどの演出に携わる道を選ぶ人もいれば、専門技術者として大成する人もいる。コンピューターの進歩のおかげで、アクションや画像合成の勉強が容易になった。フィルムの時代のテストとは比べられない量の試行錯誤が可能だ。これは、個人で制作する若い人にも言えることだけど。
———個人制作の作家についてはどう思われますか
島村:現在、映像作品は世の中にあふれていて、作ることも発表することも非常に 容易(たやす)くなった。でも、昔も同じかもしれないけれど、作り“続ける”ことが大変だよね。やっぱり1コマ1コマ作るわけだから、凄くエネルギーが要る。経済的な困難もつきまとう。昔の宮廷画家みたいにパトロンでもいればいいけどね。20世紀の画家と画商みたいな関係とか。
———近年、ギャラリーがアニメーション映像そのものを美術作品として扱う例は少しずつ増えてきましたけどね。
島村:そうだね。先進的アートを指向するアニメーションは、絶対に必要ですよ。商品として市場に流通するアニメーションがある一方、前衛として新しい表現を開拓するという作品もないといけない。
————島村さんが、アート・アニメーション『幻影都市』を作られていた頃の様子をお聞かせ下さい。
島村:映画だけじゃなく、絵画やデザインも“実験的”な気風が盛り上がっていた頃で、非常に楽しんで作っていました。『幻影都市』は、完成後には映画館で上映してくれました。普通の長編劇映画の前にくっつけてくれた。そのときにCMのディレクターの方の目に留まったみたいです。
最初、僕は東映動画にいたんですが、CM製作はおおらかで、結構アーティスティックな試みをしていました。表現の実験場みたいだった。サントリーとか、資生堂とか、尖った作品を作ることが企業のイメージアップに繋がっていました。60年代のCMって、3分の1くらいはアニメーションでしたね。
現在は、CMも含めた商業、産業映像の世界では、ドローイングも、モデル(立体)アニメーションもかなりの部分がCGに取って代わっています。しかし、CGの仮想空間だけでは絶対に表現出来ない“無限のディテール・ゆらぎ”が現実世界にはあるので、これらもハンドメイドはアニメーション表現の核であり続けるでしょうね。
———アニメーションと実写の境界線が消える?
島村:CGの進化の歴史は、写実的表現が中心でした。いまは実写と見間違えるようなレンズ効果(広角、望遠)、ライティング、質感表現もできます。モーションキャプチャーで役者と同じ演技をするデジタルアクター。それが実写といえるのかアニメーションなのかは微妙な問題で、分けてもしようがないくらい複雑に入り組んでいる映像作品も生まれています。最近、はやりのDI技法はフィルム撮影されたすべての実写映像をデジタル画像ファイルに転換して画像処理をします。実写が、限りなくアニメーションに近づいていると言えます。『ALWAYS 三丁目の夕日』(山崎貴監督、86年白組入社)でも、実写映像を1コマごとに処理、加工しています。山崎監督は、アニメーションやVFX出身なので、コマで考えるという感覚を持って実写に取り組んだと言えるでしょう。今後はこういったタイプの監督は増えてくると思います。昔の大林宣彦監督のようにね。大林さんは、今のデジタル処理や合成技術の感覚を持ってフィルムで実践していたわけです。これから映像作品を作る人は、実写もアニメーションも区別して考えていない人が増えるだろうから、今までにない面白いものが出来そうだよね。映画の原点って静止画を連続映写する=アニメーションでしょ? その原点の魅力を、オールド・ファッションとしてではなく、新しいメディアも貪欲に採り入れて進化させた先鋭的な作品が、これからはたくさん出てくるのではないかと思っています。
———ありがとうございました。
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