何でも、ソーセージ、ハム、ベーコン、サラミ、コンビーフ、スパムミートなどの加工肉を毎日50グラム以上食べ続けると大腸癌や直腸癌の発癌リスクが18%増加するという。
さらに、こうした肉類を使って用いたソースも同じで、食べる量を減らす必要があるとWHOは報じた。
これに激しく激怒したのがドイツやアメリカである。ドイツは「ソーセージの国」と言われるほど加工肉が好きな国であり、アメリカもまた国民の主食は肉ではないかというほど肉を食べまくる国民だ。
そんな国民に向かって加工肉を50グラム以上食べ続けるなと言っても無理な話である。そのため、この発表でWHOは激しい攻撃にさらされて、「絶対に癌になると言ってない」と釈明する騒ぎとなった。
食べ物の恨みは怖い。だから、他人の好きな食べ物をあれこれけなしたら後で泣きを見る。
これで私が個人的な体験として思い出したのがSPAM(スパム)のことだ。あなたは、SPAM(スパム)というアメリカの缶詰を食べたことがあるだろうか?
「これはドッグフードなのか?」と冗談で言った
SPAM(スパム)と言えば、今では迷惑メールのことを指すことが多いので、日本人の中には、スパムが缶詰の加工肉であると知っている人はあまりいないかもいれない。
在日米軍がいる沖縄では、このスパムがごく普通に流通していて珍しい食べ物ではないと言われているが、日本の普通の家庭にスパムが食卓に上がることはゼロとは言わないまでも、ほとんどないはずだ。
実は私もアメリカやメキシコに行くまで、このスパムという食べ物を見たことがなかった。
スパムは「ランチョンミート」と呼ばれるもので、分かりやすく言えばソーセージやハムのようなものが缶詰の中に詰め込まれたものと言えば理解が早いかもしれない。
スパムは楕円柱の形をした缶詰に肉が詰め込まれていて、それを缶詰から引き出しながら、適当な厚さに切って食べる。
ハンバーグのようにパンにはさんで食べてもいいし、焼いたものを皿に乗せてケチャップやソースをかけて食べてもいい。
昔、何度もメキシコに行っていたときがあった。(古き良きメキシコの想い出と崩壊国家を狙うハイエナのこと)
あるとき、たまたまメキシコ人の売春女性が売春宿で昼食を食べるというので、私の分も一緒に作ってくれたのだが、それがスパムを焼いて豆のソースをかけて食べるものだった。
メキシコ人はタコスばかり食べているのだが、彼女は私が「外国人」だったので、こうした料理を作ってくれたのかもしれない。それが私が初めて食べた「スパム」だった。
彼女はこのスパムが好きだったようで、テーブルの上にも台所にもスパムの缶詰が置かれていた。
味は塩味がとてもキツくて、正直に言うと上等な味ではない。初めてこれを食べたとき、期待とは裏腹にあまりに残念な味に「これはドッグフード?」と冗談のつもりで言った。
その瞬間に彼女の表情が変わり、皿を取り上げられ、「あんた、出て行って!」と激しく怒られた。
スパム。味は塩味がとてもキツくて、正直に言うと上等な味ではない。初めてこれを食べたとき、期待とは裏腹にあまりに残念な味に「これはドッグフード?」と冗談のつもりで言った。
最後は慣れて、それほど嫌いでもなくなった
メキシコ人の女性は短気なことも多いが、頭ごなしに激怒されてこちらも呆然としてしまった。
このときは「こんなちょっとした冗談で激怒することもないのに」と思ったが、その人の大好きな料理をけなすというのは、「ちょっとした冗談」で済まなかったのだ。
今考えると、もう少し言い方があったのだと思う。スパムは彼女が好きな料理であり、それを私は無神経な言い方でけなして彼女を傷つけてしまった。
何度も謝罪したが許してくれず、その後も口を聞いてくれず、結局彼女とは仲直りできなかった。食べ物の恨みは怖い。自分がそれを嫌いでも、それが好きな人がたくさんいる。
そんなわけで、スパムには苦い大失敗の想い出があるので、そのことを想い出したくなくて、あまり近寄りたくない食べ物だった。
ところで、私は肉そのものは嫌いではない。というよりも、私自身はどちらかというと肉食に近い。そのため、メキシコで初めて食べたスパムがまずかったと言っても、もう一度きちんと食べてみてみたいというのはあった。
2009年頃、アメリカでリーマン・ショック以後に中間層が一気に没落してアメリカでスパムの売上が上がったというニュースを見た。
スパムを販売しているホーメルフーズの株価も堅調で、苦い想い出をチラチラと想い出しながらも、私はスパムをもう一度食べたいとずっと思っていた。
その後、用事があって千葉に立ち寄った帰り、たまたま千葉のマーケットに入ったとき、そこになぜかスパムの缶がたくさん陳列しているのを見て、あっと思って思わずそれを買った。
そして、私は久しぶりにそれを自分で焼いて食べてみた。久しぶりのスパムは相変わらず塩辛く、いかにも加工しましたという独特の味がした。ドッグフードとは言わないが、決して絶品というわけでもない。
しかし、その時はスパムに対してまったく何の期待もしていなかったので、まずいとも思わず、私は淡々とそれを食べ、数日でスパムを全部食べ切った。最後は慣れて、それほど嫌いでもなくなった。
今はスパムと言っても、いろんな種類があるようだ。いろんな種類が出るほど、アメリカでは人気だということだ。
スパムは、株価的に言えば「極上の味」だった
私がスパムを食べたのはメキシコだったが、スパムを作っているホーメルフーズは、もちろんアメリカの企業である。それも、とても古い企業で、1891年に創業している歴史のある企業でもある。
今後、貧困と格差がアメリカで拡大していく中で、保存のきくスパムを食べるアメリカ人も増えるのだろうかと思いつつ、ホーメルフーズのことは気にしていた。
古き良き企業、確立され愛されているブランド、これからも変わらず欧米では食べられ続ける食品。長期投資にはうってつけである。
もしそうなら、ホーメルフーズの株式を買っておくべきだったが、私はそれを買わなかった。
あまり「スパム」には良い想い出がないので、こんな企業の株式を買ったら、株価を見るたびに、あの激怒するメキシコ女性のことを想い出してしまう。
そう思って無意識にホーメルフーズを避けて、スパムのこともずっと忘れていた。
それを想い出したのが2015年10月26日にWHOが発表した「加工肉の発癌性」騒動だ。
WHOが食べるなと警告している食品に、わざわざスパムが含まれていたので私は苦笑いした。そして、WHOに激怒する欧米人に、例のメキシコ女性のことを想い出して、また落ち込んだりして複雑な気持ちになった。
そこで先日、ふとホーメルフーズのことを想い出して、株価がどうなっているのか見て、私は仰天して思わず声を漏らしてしまった。
2009年に買っておけばいいかもしれないと思って買わなかったが、もしあのときに買っていると、なんと4倍以上になっていたのである。私は絶句したまま、ホーメルフーズの株価を見つめるしかなかった。
スパムは、株価的に言えば「極上の味」だったのである。残念だ。とても残念だ。私はつくづくスパムとは縁がない。まだ、あのメキシコの女性に呪われているのかもしれない。
食べ物の恨みは、怖いのだ……。
2009年のどこのタイミングで買っていても、3倍や4倍以上になっていた。スパムは、株価的に言えば「極上の味」だったのである。
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