「アニメ大国・日本は人工知能競争で勝てる」東大松尾豊の提言

2015.12.02 09:00

クリエイター、研究者、僧侶らで語る「人工知能の現在と未来」。第8回目SENSORS SALON参加者は真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)、松尾豊氏(東京大学 特任准教授・GCI寄付講座共同代表)、市原えつこ氏(アーティスト)、松本紹圭氏(光明寺僧侶)、そしてモデレーターに西村真里子(HEART CATCH)。舞台となったのは神谷町 光明寺。エンターテイメントから宗教まで、人工知能が変えようとしている世界の様々な事象を語り尽くした。レポート第4弾で掘り下げたテーマは「人工知能と日本」。

テスラモーターズおよび SpaceX CEO イーロン・マスクやブラックホールの研究で知られる理論物理学者のホーキング博士らが人工知能(AI)兵器の開発禁止を訴える公開書簡にサインしたことが話題になった。
人工知能に限らずロボットなどの新しいテクノロジーに対して、恐怖心や拒否反応を持ってしまうことは珍しいことではない。

【左から】モデレーター・西村真里子氏(SENSORS.jp編集長、HEART CATCH)、真鍋大度氏(Rhizomatiks Research)、松本紹圭氏(光明寺僧侶)、松尾豊氏(東京大学 准教授)、市原えつこ氏(セクハラインターフェース)

市原:
日本は自然信仰が価値観のベースにあるので、諸外国に比べると、宗教観がゆるいですよね。何でも生命があるという考え方をするから、あまり人と人以外を厳密に分けないというか。だから人工知能に恐怖を感じるようなホラーみたいなビジョンが生まれないのかもしれませんね。
松本:
人間が特別な位置にいないというか、自然もネイチャーというより、もともと自然(じねん)ですしね。人間の作為のない「そのまま」「ありのまま」という意味の言葉で。人間が特別な位置にあるというのではなくて、色んないのちと同じところに人間もあるんだという考え方ですね。
市原:
あそこまで初音ミクが普及して、なかには「俺の嫁」とまで言ってしまう人が出るのも、そのあたりのアニミズム的な世界観が影響しているかもしれません。
松本:
世界にはさまざまな宗教がありますが、仏教は数あるメジャー宗教の中でも物語性が薄いというか、相対化されている気がします。もちろん物語的な表現もありますが、ロジカルに本質へと迫っていく側面も強い。

松本紹圭氏(光明寺僧侶)

松尾:
日本人の場合は、同質性が比較的高いというのもあるんでしょうか。おそらく背景が全然違う人だったら、物語性を強く打ち出さないと、共感しにくいのではないでしょうか。
松本:
多様性の高い社会と比べると、日本はお互いにいちいち確認しなくても皆が同じグラウンドに立っているという前提でシステムが作られている、ハイコンテクストな社会です。その点では、人工知能が適応するには難易度の高い社会であると思います。

『2001年宇宙の旅』や『ターミネーター』などハリウッドのSF映画では、繰り返し人工知能が人類を襲うシナリオの映画が量産されてきた。一方で、日本においては『鉄腕アトム』や『ドラえもん』など、人と共生していくタイプのロボットが文化的に描かれ、親しまれている。
日本がいかに世界の技術と渡り合っていくのかを考えた際、こうしたテクノロジーが社会にうまく溶け込み、技術と人間が共生していくビジョンを持つことが重要だと松尾氏は語る。

松尾豊氏(東京大学 准教授)

松尾:
例えば農業、建築、食品加工、あとは調理。こうした仕事はどれも体を使うものですが、今までは機械化するのがすごく難しかった。人工知能を搭載したロボットであればこういう作業ができるようになってきています。当然、自動運転や物流にも応用されます。こうした領域はもともと日本が強みを持っている分野ですし、人工知能技術をうまく取り込んでいくことで、世界でもかなりのシェアを取っていけるのではないかと思っています。

少子高齢化が加速化し、労働集約型の産業への就業率の下降が見込まれる中、こうした技術の利活用は急務であると言える。農業や介護、さらには熟練工の後継者不足。さらには原子力発電所における廃炉の問題。全て肉体的な労働を伴う仕事であり、こうしたニーズの大きい仕事を技術でカバーできるとすれば国全体の競争力を維持・発展するためには注力していくべきだと松尾氏は主張する。

人工知能の二類型:DisruptiveとSustainable(提供:松尾豊氏)

SENSORSで以前、松尾氏に個別インタビューを行った際、"人工知能"というビッグワードに右往左往しないために、まずはSustainable/Disruptiveと二類型に分けて把握すべきだと説明した。

これは上述した日本産業の成長戦略を描く上でも重要な理解となる。Sustainableの方は従来までのデータ収集を主軸とする技術であり、Google、Facebook、Amazonなどすでに巨大なグローバル企業が熾烈な争いを繰り広げている。対して、日本企業に光明があるのがDisruptiveの方だ。認識や身体性につながる発展であり、カメラやセンサー、ロボットや製造装置などモノづくりを得意とする日本にとってチャンスが大きい。
人工知能技術が製造業をはじめとした、日本の産業界に取り入れられ、成長を促す起爆剤となることが期待される。

最終回、「修行するAI」人工知能の未来〜真鍋大度×光明寺 松本僧侶×市原えつこ×東大 松尾豊(明日公開予定)

※配信後にタイトルを修正しました

構成:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh


写真:延原優樹

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