《第64回》文部科学大臣賞作品紹介(1)

 第64回全国小・中学校作文コンクールの中央最終審査会が行われ、各賞が決定しました。応募は3万1193点(小学校低学年4490点、高学年8147点、中学校1万8556点)。文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。(敬称略)


<中学校>

「一期一会 ~その想いを紡ぐ~」
静岡・静岡サレジオ中1年 高田愛弓(たかだ・あゆみ)

 1年前、私は海外で手術をするという、特殊な経験をした。修学旅行でオーストラリアに行った際、飛行機内で腸閉塞になり、シドニーの小児総合病院で緊急手術を受けたのだ。

 私には元々、腸閉塞の「持病」がある。4年生で虫垂炎と腹膜炎をこじらせてから、3か月に1度程の割合で繰り返し起こるようになった。軽い時は2、3日の絶食後に腸の炎症が治れば退院、吐き続ければ開腹手術で2週間の入院を余儀なくされる。

 一般的に、どんな病気であれ、開腹手術を受けたことがある人は誰でも、腸閉塞を起こすリスクを抱えるというが、一度もならない人もいれば、私のように繰り返すケースもある。起こってから命の危機までの猶予が短く、判断力と処理能力を問われる病だ。だから、前日まで元気に登校していたのに、今朝になったら手術したという電話を学校にする、ということが何回かあって、先生方は驚かれ、その度にご心配をおかけしてしまう。

 6年生でオーストラリアに行くことは、入学した時から決まっており、私は4年生で1回目の手術をした時から、「オーストラリアには行けますか?」と尋ね続けてきた。それから入退院を繰り返しながらも、担当医の先生と話し合いをして、その度に、「行けるようにしようね」と言われて頑張ってきたのだ。

 私は、いつなるか分からない病気を恐れて人と同じ経験を諦めるのは嫌だった。グローバルな人間になるために必死で勉強しているのに、努力を棒に振るわけにはいかない。重い扉を開けて、私は自分の運命を切り開こうと思った。オーストラリアに行ければ、大きく前進できると思ったし、自分の身体に自信がつくと思ったのだ。

 「万全の準備」を整えて出発したのに、「万一の場合」になってしまった修学旅行で、私は自分の身勝手さを感じずにはいられない程、多くの人に迷惑をかけてしまった。私の事情を全て分かっていながら、行くことを承諾してくださった末吉弘治校長先生をはじめ、担任の青野雅子先生、6年A組のクラスメートや引率の先生方、日本旅行の石川さんや増子さんなど多くの人が私一人のために全力を尽くしてくださった。その姿に、言葉ではいい表せない程の感動や愛情を頂いた。また現地で手術してくださったキャロライン医師やナースの皆さん、通訳の明子さんも、私の術後を懸命に支えてくださった。

 私は異国の地で命を助けられたことで、「一期一会」について深く考えるようになった。ありふれた日常のファインダーがぼやけているのに対して、海外という非日常のそれは鮮明に被写体を捉え、印象的な一枚を撮ることができるのだろう。

 ここでしか出会えなかった人たち。病気でなかったら来るはずのない場所。先生方との深い信頼関係や絆。ここで得た全てが私の中に息づいて、エネルギーになった。誰か一人でも欠けていたら、今の私はなかったかもしれない。(指導教員・村田宏)


◆冒頭から引き込まれた

【講評】

 原稿用紙40枚に及ぶ大作で、しかも冒頭から読者を引き込み、最後まで読者を引き付ける力作です。修学旅行でオーストラリアに行き、楽しい思い出と共に帰国できる間際、乗り換え飛行機の中で腸閉塞を起こしてしまいました。異国で手術を余儀なくされたその時の状況や高田さんの想(おも)いが、感動的に表現されています。(桑原隆)


主催=読売新聞社
後援=文部科学省、各都道府県教育委員会
協賛=JR東日本、JR東海、JR西日本、イーブックイニシアティブジャパン
協力=三菱鉛筆、ベネフィット・ワン

(2014年12月27日 17:25)
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