経済が高度成長を遂げるいっぽうで、安保闘争やベトナム反戦といった反体制運動が高まりをみせ、激動のまっただなかにあった1960〜70年代の日本。荒々しく変化する時代に対峙できないと、従来の表現方法に限界を感じた写真家・美術作家たちは、写真メディアを通した新しい表現を探求しはじめました。
1968年「現代写真ゼロ年」──写真と美術の融合
1968年頃から、それまで確立していた「写真」と「美術」との境界が曖昧になり、両分野が相互に影響を与えるようになります。その動きに火をつけたのは、雑誌というメディアでした。
1968年12月、『美術手帖』が日本の美術雑誌の中で初めて、一冊丸ごと写真の特集を組んだ号を刊行。大辻清司による写真の歴史と技術に関するテキストや、岡田隆彦による写真が現代社会形成に影響を及ぼす可能性について論じたエッセイを掲載しました。マイケルさんは「美術の領域で写真について取り上げるのは、当時とても画期的なことでした」と語ります。
同年、中平卓馬、高梨豊、多木浩二によって創刊された『プロヴォーク』は、それまでの日本の写真界の主流だった、ピントのあった綺麗な構図の報道的・記録的写真のあり方を、真っ向から否定する表現を提示。傾いた構図、極端なコントラスト、ブレ、ノイズを組み合わせた「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれるスタイルは、流動する社会の空気を巧みにとらえました。同誌は第3号までしか発行されませんでしたが、「新しい写真の方向性を示した、写真史の資料として非常に貴重なものです」と マイケルさん。
会場では、『プロヴォーク』誌とそこから抜粋された写真が展示されています。もともとはページをめくり、シークエンスに沿って鑑賞されることを前提に選ばれた写真たち。オリジナルの意図も感じもらうために、展示方法にも工夫がみられました。
海外の美術動向との連携・同時性
1966年、ニューヨークのジョージ・イーストマン・ハウスで、写真展「Toward a Social Landscape」が開催されました。ブルース・ダヴィッドソン、リー・フリードランダー、ゲイリー・ウィノグランドなど、当時のアメリカでスナップショット的な手法で注目を集めていた写真家たちのグループ展です。 彼らの「何の変哲もない日常風景を写真に収める」というスタイルに、 同時代の日本の写真家たちは大きな影響を受けました。この写真展で提示された新たな表現のかたちは、日本で「コンポラ写真」と名付けられ、写真家たちによって積極的に取り入れられていきました。
1968年6月、『カメラ毎日』で同展の特集が組まれたころには、すでに大辻清司、牛腸茂雄、関口正夫といった写真家たちがこのスタイルを実践していました。「海外の新しい写真表現に対して即時的に反応していったことも、この時代の注目すべき点です」とマイケルさん。
また、植松奎二や野村仁などコンセプチュアル・アートに取り組んでいた美術作家たちも、積極的に写真表現を取り入れめています。彼らはサイトスペシフィックかつ一過性のパフォーマンスの様子を、写真に収めるという方法をとり、それは同時期に海外のコンセプチュアル・アーティストたちも、同様のアプローチを採用しています。このコンセプチュアル・アートにおける写真の使用は、世界的に同時多発的に起こっているのです。
なんでもない日々に写真を向ける──公から個へのシフト、「私写真」の展開
「コンポラ写真」が実践され、平凡な日常の風景を写真に収めるスタイルが追求されるようになってから、写真家の目は、社会だけでなく個にも向けられるようになります。荒木経惟による自費出版『センチメンタルな旅』(1971)は、その先駆的作品となりました。同書には商業的、実験的な写真、またすでに紋切り化していた前衛を気取ったスタイルからの決別を表明した言葉を収録したリーフレットが添えられており、それまでの写真集と一線を画す意識的な作品となっています。
その後、ラリー・クラークやナン・ゴールディンなども、自分を取り巻く環境を淡々と写真に収めました。彼らの作品には、ドラッグ・暴力・病気が身近にある様子が写されており、とても「平凡な日常」とは言いがたいものがあります。「なんでもない私的なこと」を題材に写真を撮る荒木のスタイルは、ユニークなものだったのです。
今日にも通じる普遍的イメージ
日本人として、これらの写真を見ると、時代を感じさせるファッション、車、看板などに目を奪われ、「懐かしい」というイメージにとらわれてしまいます。しかし、ニューヨークに場を移すことで、写真の中にある日本土着の記号的要素への反応が薄まり、それぞれのイメージの普遍性が際立つような気がしました。
海外での認知度も高い日本の写真家たちが多く輩出されたこの時期を、体系づけてまとめることで、この時代の写真表現の変遷と重要性を客観的に振り返ることができる展示です。「展示してある作品の多くはいまだ風化することなく、非常に今日的なイメージを湛えてます」という、マイケルのさんの言葉が印象的でした。
会期:2015年9月11日〜12月5日
住所:100 Washington Square East, NYC 10003(New York University)
開館時間:11:00~18:00(水曜は11:00〜20:00、土曜は11:00〜17:00)
電話番号:212-998-6780
休館日:日・月・祝日
URL:https://www.nyu.edu/greyart/
会期:2015年10月9日〜1月10日
住所:333 East 47th Street New York, NY 10017
開館時間:11:00〜18:00(火〜木)/11:00〜21:00(金)/11:00〜17:00(土・日)
電話番号:212-715-1258
休館日:月曜
URL:http://www.japansociety.org/page/programs/gallery/for-a-new-world-to-come
※2015年3月7日〜7月12日にヒューストン美術館で開催された、「来るべき世界の為に:1968年から1979年における日本美術・写真における実験」展の巡回展となります。