メンタルヘルス対策の強化を目的として、従業員数50人以上の全ての事業場にストレスチェックの実施を義務付ける「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が2015年12月1日に施行されました。
「ストレスチェックの施行は、多くの会社にとって人事マネジメントを検証する良い機会になる」と、YSメンタルヘルスの岡田基良社長は指摘します。今回は、運用と対策のポイントについて伺いました
●ストレスチェックの課題は
---多くの会社でメンタルヘルス対応に注目が集まっています。
岡田基良（以下、岡田） 2014年度、精神疾患の労災認定者497人のうち、未遂を含む自殺者は99人となり過去最多を更新しています。また、年間3万人が自殺しているといわれており、これらの状況を鑑みれば、ストレスチェック導入は待ったなしの状態だったともいえます。
厚労省は57項目のチェックポイントを提示しアプリなども配布していますが、これは紆余曲折のうえ承認されたものです。複雑なルールが多く医療従事者においてもその解釈が統一されているとはいえないでしょう。
---ストレスチェックの課題はどのあたりにありそうですか。
岡田 ストレスチェックは労働者を保護するために制定されたものです。ところが、労働者は受験の際の結果や個人情報が本当に守られるのかという不安を感じています。さらに、高ストレス者と判定された場合、人事上のなんらかの不利益を被るのではないかと疑心暗鬼を感じています。面接指導を希望をすれば、会社からは要注意者として認識されてしまう危険性もあります。
実施者である医療従事者は疾患を判断し予防するプロフェッショナルですが、経営に精通しているわけではありません。労働意欲が既に減退している労働者にとっては、面談をして問題が解決に至らない場合は、会社への不満が強まり、会社とのトラブルに派生するリスクも秘めています。また周囲が過剰な反応をすることにより、個々の社員の労働意欲が減退するリスクもあります。そのため運用には細心の注意が必要とされます。
●組織診断の重要性
---デリケートな問題を扱うので各社とも差別化が難しそうですね。
岡田 厚労省はストレスが高いということを本人に「気づかせる」ことが、メンタル疾患の予防につながると指摘しています。そう考えれば運用のポイントが見えてきます。そのひとつが組織診断であると考えています。
ストレスチェックを運用するなかで、ストレスが会社において様々な影響を与えていることが分かってくると思います。例えばパワハラ管理職の存在があります。パワハラ管理職が多くマネジメントがともなわない部署は、メンタル不調者が多かったり、離職率が高いなど何らかの問題を抱えているものです。このような部署を社内の好業績部署と比較をしたり、階層（役職）間の比較をすることで、業務の問題点や改善点が明らかになります。
---様々な切り口による相関性を見るということですね。
岡田 これまでは見逃していたような問題点や改善点が明確になれば、効果的な打ち手を選択することができます。組織診断を実施することで適切な処方を施すことができるはずです。組織によって風土はまったく異なりますから、もっとも効果があり運用可能な施策を選択しなければいけません。
労働者に寄り添いながら、丁寧に働きかけて相互理解が高まればメンタル疾患は予防できるものと考えています。今後、ストレスチェックの義務化で、社内における心の病に対する理解度が大いに促進されることを期待しています。
---ありがとうございました。
まだ見えにくいストレスチェックですが、多くの労働者にとって望ましいものになることを願わずにはいられません。果たしてどのような効果をもたらすのでしょうか。各社の取り組みに注目が集まっています。
尾藤克之
経営コンサルタント