あぶくま抄・論説

論説

  • Check

【福島大に「農学類」】国に「特別枠」対応望む(11月30日)

 福島大が平成30年度をめどに学部相当の農業系人材育成組織を設置する方針を固めた。本県の復興には農業の再生が不可欠なだけに、大学の決断を歓迎する。実現に向けて、施設整備や卒業後の学生の受け皿づくりなど県を挙げて応援したい。
 本県の基幹産業の農業は、東京電力福島第一原発事故によって大きな被害を受けた。農産物の安全・安心を確保するため、国や県を中心に農地の除染、栽培技術の研究などが進められている。農業者もさまざまな取り組みを行っており、全国の大学や研究者から専門的知識を生かした支援を受けている。農業の再生にとって、大学の役割はますます大きくなっている。
 日本学術会議などが一昨年発表した緊急提言は「原発事故の被災地である福島県には東北六県で唯一、農学系の高等教育・研究機関がない」ため、新たな対策や技術の導入が遅れる-と指摘した。こうした状況を考えると、福島大の農業系学部設置はまさに時宜を得たものといえる。
 農業系学部の新設に際して忘れてならないのは、入学生の確保と卒業後の受け皿整備だ。もし定員を下回る志望しかなく、就職にも困る状況だと学部は立ち行かない。幸い、福島大のアンケートによると課題は克服できそうだ。
 県内の企業、団体、自治体対象のアンケートで、「農学部等が設置された場合、卒業生を採用したいか」との設問に52%が「採用したい」と回答した。学部に求める分野については「作物を育てるための学問」「経済・経営の観点からの農業支援」「食品にかかわる学問」が上位を占め、期待の高さを示した。高校の進路指導担当者向けアンケートでは、生徒の進学意向の設問に「10人以上いる」「数人いる」「1人いるかどうか」の回答は約8割に上った。入学希望者を確保でき、卒業後の受け皿もあることが明らかになった。
 ただし、少子化が進み、運営費交付金が減少しているため、設置にはなおハードルがある。中井勝己学長は「学生定員、教員数を増やすことは現実的ではない」として、既存の4学類の定員数見直しや教員の配置換えで対応する考えを示している。しかし、果たしてこれでいいのか。
 国は農業系学部新設に特別枠を設けるべきではないか。原発事故からの復興には基礎研究から応用、人材育成、六次化まで対応できる本格的な学部が必要だ。県やJA、関係団体は国に対して強く働き掛け、大学の取り組みを後押ししてほしい。(芳見 弘一)

カテゴリー:論説

論説

>>一覧