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「自殺における宗教者の役割と可能性」 関学神学部で講演会

2015年10月21日23時12分 記者 : 土門稔 印刷
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講演するアン・マシュウ・ヨウネス氏=9月25日

関西学院大学(兵庫県西宮市)で9月25日、同大神学部などの主催で「アメリカにおける自死予防・介入・ケア~地域のゲートキーパーとしての宗教者の役割と可能性~」と題した講演会が開かれた。

講演したのは、1980年にハーバード大学で心理学(カウンセリングとコンサルティング)の博士号を取得し、米連邦政府機関の職員として35年間勤めたサイコロジストのアン・マシュウ・ヨウネス氏。同氏は国際的な祈りの運動「アシュラム」創始者のスタンレー・ジョーンズ牧師の孫に当たる。2012年には、ウェスレー神学校(ワシントンDC)で実践神学博士を取得した。

毎年、世界で80万人が自殺で亡くなっている現状

ヨウネス氏はまず、WHO(世界保健機関)が2014年に初めて出した自殺予防に関する報告書について触れ、世界で毎年80万人が自殺し、米国では10万人当たり13人(2013年)、約12・8分に1人が亡くなっていると述べた。男女比では8:2となっており、手段としては銃火器が51・5%、毒物(ガスや農薬)が16・1%、窒息が24・5%などとなっている。日本では年間自殺者は3万人台が続いていたが、近年は自殺対策の結果、約2万5千人台に数が減ったものの、G8の中ではロシアに次いで2番目と、世界の中でも際立って自殺者が多い。

現在、世界各国は緊急課題として自殺対策に取り組んでいる。自殺の手段となる道具を減らすことで予防可能であることが明らかになっており、スリランカでは農薬使用を制限することで、自殺率を50%減少させた。イスラエルでは、軍人が週末に武器を自宅に持ち帰ることを禁止することで、2年間で40%減少したという。

自殺の危険因子と予防因子

近年の研究では、自殺を促進する要因として、① 社会的要因(簡単に銃が手に入ることなど)、② コミュニティー要因(戦争や災害、孤立の状況など)、③ 個人的要因(精神疾患、アルコール依存、経済的要因など)の3つが指摘されている。

一方、予防要因としては、① 強い関係、② 人やペット、コミュニティーとつながっていること、③ 信仰、④ 前向きな自己保存の方法などが重要とされている。

自殺は予防可能であると、ヨウネス氏は話した。

自殺の予防の方法と具体的包括アプローチ

具体的な自殺予防の方法としては、特に2点が重視されている。1つ目が、自死遺族への支援。自殺者が出ると、家族や親友は大きなショックを受け、連鎖自殺の可能性があるためケアが必要となる。2つ目は、過去に自殺未遂をした人の支援と、抑制要因を学ぶこと。なぜ自殺に至らなかったかを当事者から学ぶことで、将来的な自殺予防のプログラムに生かすことができるという。

自殺予防については、複雑で包括的アプローチが必要だと強調した。大学のキャンパスの場合には、① 学生に一番近い教員、学生課、寮監などに自殺予防の研修を行う、② キャンパスの中で「助けを求めていい」「助けになる場所がある」という情報を発信する、③ キャンパスの中で当日すぐにカウンセリングを受けられること、④ 屋根や高所に塀を建てるなどの防止手段、という対策が実施されている。

また、米国では全国160カ所で、専門のカウンセラーが24時間対応する無料の自殺相談ホットラインがあり、2015年は9カ月間で約130万件の電話があったという。

包括的アプローチの要点としては次の7点がある。① 誰が自殺リスクの高い人かを特定すること、② どういうときに専門家の助けを得られるかを人々に発信する、③ 精神医療サービスへのアクセスを提供する(経済負担を下げる)、④ コミュニティーや職場、大学などが自殺に対する危機管理体制を作る、⑤ 自殺を衝動するときに使う手段を規制する(日本でも1年間で最も自殺が多い日とされる9月1日に電車の柵が高くされるようになった)、⑥ 全ての人が生きる力を向上させること(ストレスコントロールの力、危機対応の力をつける)、⑦ 最も重要なのは、社会や人とのつながりを失わないこと。

このような取り組みがあることで、自殺を減らすことができると述べた。

自殺予防における信仰

また近年、宗教における信仰が、自殺予防に大きな効果があると注目されている。米国ではキリスト教、ユダヤ教、イスラム教などが呼び掛け、聖日に自殺について学び祈るという集会が行われたり、連邦政府が宗教者のために「Your life MATTERS」というホームページを作り、自殺にどう対応するかについて各宗派が情報を提供したりしているという。

「自殺を考えている人は、カウンセラーよりも牧師や聖職者などにまず相談するので、その役割はとても重要」と述べた。

医療機関の自殺対策

また近年、医療機関では自殺対策プログラムを実施している。精神病院に入院していた人が退院する場合、次の来院まで1週間の期間が空くと自殺のリスクが高まるため、退院翌日に来院するようにしたり、連絡がつかないときは連絡がつくまで探したりするなど、きめ細やかなプログラムを実践することで、ある医療機関では、自殺者が実施前の10万人当たり87人から、実施4年後には75%減少したという。

メディアと自殺

メディアと自殺の関係については、欧米メディアでの自殺報道に関する指針についても説明があった。

① どんな手段で、どこで自殺したのかなどを映像で見せてはいけない。
② 自殺した個人の情報を詳しく伝えてはいけない。
③ 自殺をロマンティックな英雄行為として取り上げてはいけない。
④ 自殺を受け入れる必要があることとして報道してはいけない。
⑤ 自殺は避けられない、解決できないというニュアンスの言葉を使ってはいけない。
⑥ 自殺の原因を簡単に説明しない。

20年前までは、メディアが自殺の背景を詳細に報道したために、そこから連鎖が起きるという悪影響があったが、近年は自殺報道に関する指針がメディアの間で定着してきているという。2014年に俳優のロビン・ウイリアムスが亡くなった時も、自殺ということを大きく取り上げなかった。むしろ自殺を乗り越えたことや、どこで援助を受けられるのかなどの情報を流すことによって、メディアは人々に希望を与えるものだとの認識が広がってきているという。

自殺と社会

ヨウネス氏は最後に、「自殺は今まで個人の問題とされてきたが、社会の問題である」と指摘し、限られた人だけでなく、議論し公のものにすることが必要であると語った。米国でも20年前までは、自殺は本人と精神科医と家族だけで話す話題だったが、公衆衛生の課題であり、社会の課題であると位置づけられるようになってきたという。

その後行われた質疑応答では、「キリスト教では自殺は罪だとして、教会では葬儀や埋葬ができない時代もあった。宗教的な自殺へのスティグマを、どう変えていくのか」との質問があった。

ヨウネス氏は、「社会は精神疾患にも大きなスティグマを持ってきたが、近年は研究が進み、自殺した人の多くが精神疾患や鬱(うつ)を患っていたことが分かってきた。教会でも認識が変わってきている」と述べた。米国の教会でも、自殺をした人の葬儀や埋葬をしないということは少なくなり、葬儀の中で自殺が罪であることを語るのではなく、神はそれでも彼を愛されているというメッセージを語る葬儀も増えてきているという。

同大神学部の榎本てる子准教授(実践神学)は、「教会はまだまだ自殺問題に関心が低い。それをキリスト教大学でどうカバーしていくかを考えるきっかけにしてほしい」と話した。

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