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未来に生き、欠けているものを創る

ビジネスの指数関数的成長を促す「ツルハシ」となるようなサービスを調べたり、考えたりします

指数関数的に進化するテクノロジー:エンジン

シンギュラリティ ツルハシテクノロジー

本ブログの中心テーマの一つである「指数関数的成長」、中でも指数関数的に成長するテクノロジーの周辺には、未来の大きなビジネスチャンスがあるとみています。急激に拡大するテクノロジーを所与として、新しい製品・サービスが生まれ、その周辺にエコシステムが形成されていくという大きな拡がりが生まれていきます。

このような拡がりの根源となるテクノロジーに対する理解を深めることで、

  • テクノロジーを利用して今後どのようなことが可能になるか
  • テクノロジーを活用した製品・サービスはどのような形に変容していくか

を見極めることが可能になると僕は信じています。

今後、指数関数的に成長するテクノロジーを1つ1つ深掘りしていきたいと思います。

ちなみに、指数関数的に成長するテクノロジーといえば、半導体およびコンピューティングに関連するテクノロジーを真っ先に思い浮かべるのではないでしょうか?ムーアの法則という経験則に支えられ、半世紀にわたって(カーツワイルによればもっと)継続しているテクノロジーの進化が、現在のインターネット・ICTの成長を支えています。本ブログでもいつかはこのテクノロジーにも触れたいと思いますが、まずは「指数関数的に成長していることがあまり知られてない」テクノロジーに触れていきたいと思います。

今回は、「意外な」指数関数的成長のテクノロジーとして、「エンジン(動力装置)」を取り上げます。

そもそもなぜ「指数関数的」成長が必要なのか?

特にテクノロジーを活用して新しいビジネスを創出をしたいと考えているスタートアップにとっては、テクノロジーが「指数関数的に成長するかどうか」はクリティカルな要素になります。

テクノロジーの進化には大きく2種類あります。「線形的成長」と「指数関数的成長(非線形的成長)」です。

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線形的に成長するテクノロジーの覇者は大企業

世の中の大半のテクノロジーは線形的成長をしています。線形的に成長するテクノロジーは、「何年後にテクノロジーがどの程度進んでいるか」を予想することが容易であり、予測されたテクノロジー進化に従って、予測精度の高い製品・サービス設計が可能になります。

逆に言えば、誰でも容易に予測できるので、「予測後の未来を誰が創るか」というと、すでにテクノロジーの研究開発に従事している大学の研究機関および大企業になります。未来が予測可能なら、その未来から生み出される価値(企業にとってはキャッシュ)もある程度精度の高い予測ができ、そこではヒト(人材)・モノ(設備)・カネ(投資資金)を備えている大企業が最終的な勝者になるでしょう。このような世界ではスタートアップの担う役割は相対的に小さくなります。

指数関数的に成長するテクノロジーを活用することで成功するスタートアップ

一方で、指数関数的に成長する未来というは、人間には想像することが困難です。よく「ハスの葉」の例えや「秀吉と曽呂利新左衛門」の例えのように、人が指数関数的な成長を見誤る例は数多く指摘されています。

面白い話なので、「秀吉と曽呂利新左衛門」の例えを少し引用してみます。

秀吉に仕えるお伽衆の1人に曽呂利新左衛門という者がいた。頭が良く話がとても面白い新左衛門に対して、秀吉が「何でも好きな褒美をやる」と言うと、新左衛門は「この広間の畳に、端の方から1畳目は米1粒、2畳目は2倍の2粒、3畳目はその倍の4粒、というように、2倍、2倍と米を置き、広間の100畳分全部いただきたい」と言った。秀吉はせいぜい米俵1俵か2俵くらいだと思い承知した。ところがあとで計算したところ、5畳までで16粒、7畳で128粒、16畳でも米1升(4万6千粒)程度であるが、32畳で1,800俵、100畳ともなると5.5 x 1,023俵という膨大な量になることがわかった。秀吉は青くなり、新左衛門に謝ってほうびを別のものに替えてもらったという。

人間の生物学的特徴や、大半のものが線形に推移する世界・社会の中で生きてきたという経験がこのような「線形的な思考」を植え付けているのかもしれませんね。

話が少し逸れましたが、このように予測困難なテクノロジーの進歩が発生している世界では、スタートアップが主導的な役割を担うことが多いです。テクノロジーが指数関数的に成長することを「事業戦略」として盛り込んでそこに大規模な投資を行うことができる大企業はあまりいません。株主が線形的な思考を持っているならなおさらです。しかし、スタートアップにはそのような制約はありませんので、(たとえ自分が指数関数的成長を信じていなくても)市場の創造に向けてテクノロジーを活用することができます。

指数関数的に成長しているテクノロジー:エンジン

いよいよ今回のメイントピックである、エンジン(動力装置)に移りたいと思います。意外に思う方も多いと思うのですが、エンジンは1850年くらいから一貫して指数関数的に成長しているテクノロジーの一つです。

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縦軸に1ポンド(約450g)あたりの馬力をとり、時系列で1850年から現代までをざっくりと概観してみると、見事に指数関数的成長が見て取れます。(縦軸を対数変換しているので、実際には対数軸で直線に成長していることが見えれば、それはすなわち指数関数的成長をしていることになります。)

もう1点面白い点は、一つ一つの動力テクノロジー(蒸気機関、ガソリンピストンエンジンなど)は通常のテクノロジーのイメージ通り、ある程度急激に成長した後飽和状態(これ以上は急激に成長できずに成長が鈍化する状態)になっています。しかし、あるテクノロジーの成長が鈍化するとともに、次の「破壊的テクノロジー」が勃興して、動力テクノロジー全体の成長をけん引していきます。このような代替テクノロジーの連鎖によって、150年以上もの間エンジンは指数関数的に出力エネルギーを拡大させてきました。

図の引用元である『ナノフューチャー』著者J・ストーズ・ホールによれば、エンジンのトレンドラインには、これまで6種類のテクノロジーが存在していたそうです。図ではざっくりと3つのトレンドに分離していますが、もう少し細かい線が実際には描かれることになりますね。

1. 蒸気圧縮ピストン

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エンジン黎明期は蒸気圧縮ピストンと呼ばれる、蒸気機関が中心となりました。イギリスの発明家ニューコメンが初めて商業化に成功した蒸気圧縮ピストンエンジンは、温度差による蒸気-水の変化を活用しています。まず熱せられた水は蒸気になり、その蒸気を注入することによってシリンダーが押し上げられます。次に、蒸気を冷やして水に戻すことで、シリンダー内に真空が創られ、シリンダーが押し下げられます。このように水・蒸気を温めたり冷やしたりを繰り返すことでピストンの上下という運動を発生させることができる装置です。

2. 蒸気吸気ピストン

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ニューコメンの蒸気機関は蒸気による動力という、まさに革命的なテクノロジーでしたが、蒸気を冷ましたり、水を温めたりするために都度シリンダーを温めたり冷ましたりしなければならず、多くのエネルギーロスが発生していました。その問題を解決するべく、スコットランドのジェームズ・ワットが蒸気吸気ピストン型のエンジンを開発しました。ワットの開発した蒸気機関では、シリンダーとは分離された「復水器」というものを作り、そこだけを温めたり冷ましたりすることで蒸気⇔水の変換を実施していました。このシステムにより、シリンダー自体は一定の熱を維持することができ無駄なエネルギーをシリンダーの温度変化に利用する必要がなくなりました。

このテクノロジー革新により、水車と同程度の経済性(コスト競争力)を持つようになりました。

3. 蒸気タービン

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蒸気吸気ピストンも、ピストンを使った上下動という負荷の大きい動きが必要になる点では蒸気圧縮ピストンと変わりませんでした。これに対し、常軌タービン型エンジンは、タービンという一種の羽根車を回転させることで動力を得ることになります。仕組みは非常にシンプルで、高温・高圧の水蒸気をタービンに向けて一定方向から吹き付けることで、タービンを回転させます。

蒸気期間は復水器などの付帯設備が多いため小型化には向いていません。しかし、発電所など小型化ニーズが乏しいエリアでは現在も活用されています。実際蒸気タービンは火力発電所や原子力発電所で利用される、現役のテクノロジーです。

4. ガソリンピストンエンジン

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蒸気は水蒸気⇔水の気圧差を利用していましたが、燃焼により大きな気圧差を生じさせることができるのが、ガソリンピストンエンジンです。ガソリンと空気の混合気をピストンにより圧縮したのち、点火することで気体が一気に膨張します。この圧力でピストンを押し下げることができます。気圧差を生み出すのには、点火装置という非常に小さい部位のみがあればよいため、蒸気機関に比べて小型化がしやすく、現在の殆どの内燃機関はガソリンエンジンとなっています。現代の主流テクノロジーといっていいでしょう。

5. ガスタービン

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燃料を利用して、ピストン運動ではなく、回転運動を生成するのがガスタービンになります。原理はほぼ蒸気タービンと同様ですが、燃料を点火することによる急激な膨張(ガスの発生)を利用している点がガスタービンの特徴です。ガソリンピストンエンジンと同様小型化が可能なため、内燃機関としての利用が多いです。現在ではヘリコプターを含むほとんどの航空機の動力源としてガスタービンが利用されています。

陸のガソリンピストン、空のガスタービンという棲み分けですね。

6. 液体燃料ロケット

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ガスタービンを上回る効率性を達成しているのが、液体燃料ロケットエンジンになります。推進剤といわれる燃料と酸化剤をエンジンの燃焼室で混合し燃焼させることで、強力な推力を発生させる構造になっています。燃料によっては非常に大きな推力を得ることができるため、ロケットのように重力に打ち勝ち宇宙空間まで到達できるような動力を得ることができます。

エンジンの展望

現在は液体燃料ロケットによるエンジンが最も効率がいい(gあたりの馬力が大きい)と言われていますが、ご覧のとおり成長の鈍化が見て取れます。動力テクノロジー全体の指数関数的成長を信じるならば、ガスタービン以上に効率的な代替テクノロジーが次世代エンジンとして台頭してくることが期待されます。

ちなみに参考にした『ナノ・フューチャー』では、エンジンの未来は「超小型」の方向へ進むとみています。(書籍がナノに特化しているので当然といえば当然ですが・・)gあたりの馬力が大きくなるということは、非常に小さいエンジンだとしても現在のロケット並みの推力を生み出すことも不可能ではありません。極限まで小さくできるなら、車に1台のエンジンを積むのではなく、タイヤの溝の1つ1つにエンジンを取り付けるということも可能になります。地面の凹凸に反応して、一つ一つの超小型エンジンがピストン運動を行えば、どんなに荒れた土地でも一切揺れることなく移動することも不可能ではありません。

このように超小型エンジンが実現することで、人々の生活は大きく変化することが見込まれます。

「そんなのずっと先だ」と思われる方もいるかと思いますが、指数関数的成長の世界ではもうすぐで実現するとみられています。今の指数関数的成長が続けば、2050年には分子サイズのエンジンを作ることも可能になります。そのような世界でどういった製品・サービスが実現できるか考えるのはワクワクしますね。

参考資料

タイトル通りナノテクノロジーがどのような未来を切り拓くかについての本です。一般的なナノテクの本とは異なり、「分子アセンブラ(ナノレベルの工場)」をどうやったら作れるかを真剣に論じています。ドレクスラーという人が以前「創造する機械」という本で描いた世界をより現代のテクノロジーの進化に当てはめたものです。ものすごくマニアックな内容ですが、ナノレベルで工場を作れるようになるとどれだけ世界が変わるかを想像するのはとても楽しいです。