日本経済新聞は11月22日付朝刊1面トップで、「民泊、許可制で全国解禁 政府、来春にもルール 訪日客急増に対応」と見出しをつけ、厚生労働省が今年度中に「旅館業法の省令」を改正し、従来の4種類の営業許可に新たに「民泊」を加える方針が有力だと報じた。しかし、旅館業の営業許可の種類は法律で定められており、「省令」改正で新たな種類を追加することはできない。石井啓一国交相も記者会見で「事実誤認」と指摘した。近い将来、旅館業法施行令(政令)の改正で許可基準が緩和される可能性は否定できないが、新たに「民泊」という種類を追加して解禁するという報道は事実誤認といえる。
日本経済新聞2015年11月22日付朝刊1面トップ
民泊、許可制で全国解禁 来春にもルール https://t.co/nuFJQUJDW1
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) 2015, 11月 21
「民泊」は法律上の概念ではないが、一般には、自宅の一部や別荘、マンションの空き室などを活用して宿泊サービスを提供することとされている。この民泊サービスが旅館業法で規制されている「旅館業」に当てはまる場合、都道府県知事等の許可を受けずに営業できない。旅館業法は、「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種類を「旅館業」と定め、具体的な許可基準は「旅館業施行令」という政令で定めている(省令ではない)。したがって、民泊サービスが、たとえば「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」(簡易宿所)に該当する場合は、「客室の延床面積は33平方メートル以上」などの基準を満たし、営業許可を受けなければ違法となる。
日経の記事は、政府の方針として「今年度中に旅館業法の省令を改正し、営業許可の基準を緩和する。『ホテル』『旅館』『簡易宿所』『下宿』の4種類の営業許可に、新たに『民泊』を加える案が有力だ」と報道。しかし、旅館業法は、政令や省令に4種類以外の新たな種類を新設することを委任していないため、政令や省令の改正によって「民泊」という種類を新たに追加することはできない。「民泊」を新設するには法改正が必要となる。石井国交相も11月24日の記者会見で、同紙の報道を念頭に「この報道では、省令ではなくて旅館業法、法律で規定している営業許可の新設が省令で可能となると事実誤認もみられる」と指摘した。旅館業法を所管している厚労省生活衛生課の担当者も、日本報道検証機構の問い合わせに対し、営業許可の基準を定めている旅館業法施行令で「民泊」を新たに追加することはできないと説明。そもそも、旅館業法の省令である「旅館業法施行規則」は、許可申請の手続きなどを定めたものであり、許可基準を定めたものではない。
一方で、日経の記事は、「簡易宿所は客室の延べ床面積が合計33平方メートル必要だが、一般住宅を利用する民泊の場合は広さの基準を緩和する見通しだ」とも指摘している。これが「民泊」の新設ではなく、既存の「簡易宿所」の許可基準の緩和を意味するのであれば、法施行令(政令)の改正でも可能。ただ、現行法でも、民泊サービスが簡易宿所の基準を満たし、許可を受ければ可能であり、基準の緩和は「民泊の解禁」というより「合法的な民泊の範囲の拡大」を意味する。しかし、厚労省と国交省観光庁が設置した有識者会議「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」は11月27日から協議を開始したが、政令で定める許可基準の緩和は議題に上っていなかった。この検討会は来年3月までに中間的な論点整理を行う予定だが、11月30日現在、所管する塩崎恭久厚労相も、来春までに旅館業法施行令の改正を行う方針は示していない。
当機構は日本経済新聞社に問題点を指摘して質問したが、同社広報室からは「編集判断や記事掲載について原則公表していません」との回答があった。日経は29日付朝刊で検討会の初会合を報じた際も、国交・厚労両省は旅館業法の省令改正などで来年4月にも解禁すると改めて報じており、30日現在、訂正していない。
民泊、許可制で全国解禁 政府、来春にもルール 訪日客急増に対応
厚生労働省と国土交通省は個人が所有するマンションや戸建て住宅の空き部屋に旅行者を有料で泊める「民泊」を来年4月にも全国で解禁する方針だ。現在は旅館業法などで原則禁止しているが、無許可の営業が広がり、トラブルも相次いでいる。訪日客の急増で宿泊施設の不足が深刻になっており、早急に明確な基準をつくり、安心して使える民泊を普及させたい考えだ。
政府は6月にネット仲介を通じた民泊の規制改革について16年中に結論を得ることを決めた。ただ法令違反が続き、旅館業法違反の容疑で逮捕者が出たり、見知らぬ人物の出入りによる近隣の苦情が増えたりするなどの問題が噴出。厚労省と国交省は法改正を必要としない範囲で早急に基準を整えることにした。
厚労省は今年度中に旅館業法の省令を改正し、営業許可の基準を緩和する。「ホテル」「旅館」「簡易宿所」「下宿」の4種類の営業許可に、新たに「民泊」を加える案が有力だ。都道府県などに申請して基準を満たせば、許可を得られる。
許可の基準は、客室数の規制がないなど民泊に最も近い簡易宿所を参考にする。簡易宿所は客室の延べ床面積が合計33平方メートル以上必要だが、一般住宅を利用する民泊の場合は広さの基準を緩和する見通しだ。旅館業法には宿泊名簿の管理や入浴設備などの詳細な規則があるが、民泊の実情に合わせ新基準を検討する。…(以下、略)
日本経済新聞2015年11月22日付朝刊1面トップ
「民泊」解禁、ルール探る テロなど悪用回避・近隣トラブル防止 有識者会議、議論スタート
国土交通省と厚生労働省は27日、一般住宅に旅行者らを有料で泊める「民泊」の解禁に向け、有識者会議の議論を始めた。民泊は旅館業法で禁止されているが、両省は省令改正などで来年4月にも解禁する。解禁に向けたルール整備では安全の確保、近隣住民とのトラブル防止、旅館やホテルとの公平な競争環境の確保という3つが課題となる。…(以下、略)…日本経済新聞2015年11月28日付朝刊5面
- 旅館業法概要 (厚生労働省)
- 「民泊サービス」のあり方に関する検討会 (厚生労働省)
旅館業法
第二条 この法律で「旅館業」とは、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業をいう。
2 この法律で「ホテル営業」とは、洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
3 この法律で「旅館営業」とは、和式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
4 この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいう。
5 この法律で「下宿営業」とは、施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。
6 この法律で「宿泊」とは、寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。
第三条 旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。第四項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。ただし、ホテル営業、旅館営業又は簡易宿所営業の許可を受けた者が、当該施設において下宿営業を経営しようとする場合は、この限りでない。…(以下、略)…
法令データ提供システム ※許可基準については、旅館業法施行令(政令)参照。
石井啓一・国土交通省大臣記者会見(11月24日)
Q.空き家とか、マンションの空き部屋に旅行客を泊める民泊について。観光庁も所管する国土交通省大臣としての所感として、今、現行法が想定してないような形で、現実にそういうようなニュービジネスが先行して広がっているような状態ですが、ここに法の網をかけることが必要じゃないかと、与党でも議論されています。これについての大臣としての認識を。もう1点、今週金曜日に、観光庁と厚生労働省が、有識者会議立ち上げて、ここをどうしようかと、法律の網をどうかけていこうかということをこれから議論すると思うが、一部報道によると、法改正を必要としない省令改正などによって、何か新しいルールをつくっていこうという検討をされるという報道もありました。そこら辺についてどうお考えなのか。
A.民泊については、一定のニーズが認められる一方で、衛生面、感染症の蔓延防止等の衛生面、それから治安とか、あるいは防火等の安全面、また近隣住民等とのトラブル防止、それから旅館とかホテルとの公正な競争条件の確保、こういった課題がございますので、今後の民泊に対する適正なルールについて検討していきたいと思っておりますが、今ご指摘がございましたとおり、民泊のあり方について、今月末から関係省庁、有識者から成る有識者会議を立ち上げて、検討をしていきたいと思っております。
有識者会議の議論を踏まえて、厚生労働省等と調整の上、年度内の一定の方向性が得られるよう、検討を進めていきたいと思っております。なお、報道では、厚生労働省所管の旅館業法の省令を改正して、ホテル、旅館、簡易宿所、下宿に加えて民泊の営業許可を新設する云々という報道がございましたが、そうした方針は決まっておりません。また、この報道では、省令ではなくて旅館業法、法律で規定している営業許可の新設が省令で可能となると事実誤認も見られるところです。今申し上げたように、有識者会議を立ち上げて、その中でしっかり検討していきたいと思っております。
- (初稿:2015年11月30日 22:00)