何が背景にあるのだろうか。

 11月末に開かれた、歴史問題をめぐる市民団体主催のシンポジウムに参加予定だった中国人12人に対し、日本政府がビザを発給しなかった。

 シンポでは植民地支配の歴史などについて日中韓の市民が議論する予定だった。発給拒否によって市民レベルの交流が閉ざされる結果となった。

 主催者側は「国家権力による言論の封殺行為」と反発する。外務省は「個別のケースについて査証の審査の中身は答えられない」と言うばかりで、拒否の理由は説明しようとしない。

 シンポのタイトルは「戦争法の廃止を求め 侵略と植民地支配の歴史を直視し アジアに平和をつくる集い」。主催した市民団体の代表呼びかけ人5人には、著名なルポライター、大学名誉教授らが名を連ねる。

 ビザが出なかった中国人12人は、旧日本軍の731部隊による細菌戦の被害者遺族ら。招請した弁護士によると、裁判やNGOとの交流のためにこれまで何度も来日したことがあるが、ビザ発給を拒まれたことは一度もなかったという。

 今回、ビザを取るために弁護士が11月4日付で現地の日本大使館に提出した招請理由書には(1)集いへの参加と発言(2)韓国・日本からの参加者との交流(3)細菌戦問題に取り組むNGOとの意見交換――などの目的が書かれている。

 主催者やシンポの目的は明確で、参加予定者に来日実績もある。なのになぜ今回は発給拒否なのか。不可解である。

 シンポのチラシに、こんな記述がある。「《韓国・中国の日本による植民地支配と侵略戦争の被害者》と《日本で安倍政権の戦争法に反対する市民》が一堂に集まり連帯と交流の場を持ちます。この連帯・交流の集いは、戦争に突き進む安倍政権への反撃の第一歩です」

 安保関連法を成立させた安倍政権を批判する内容がシンポのテーマだったことが、ビザ発給を拒む理由ではないのか。そう受け取られたとしてもやむを得ないだろう。

 折しも、中国で今月開かれるミスコンテストのカナダ代表に選ばれた女性が中国に入国できなくなっている。中国の人権状況を批判したことが理由ではないか、と報じられている。

 だれを入国させ、入国させないかをめぐる判断は、その国の政治のありようを映し出す。

 異なる価値観や意見を尊重する国であるのかどうか。不可解なビザ拒否は、日本の民主主義への疑念を生みかねない。