片付け下手と“生きづらさ”はリンクしている 早死や孤独の要因となる社会問題に
最近何かと取り上げられることが多い、片付けテクニックや収納アイデア。足の踏み場もないほど散らかった芸能人の汚部屋、整理収納のビフォーアフターなどは、見た目にも面白く、多くの人の目を引き、アクセスも好調なようだ。
しかし、整理収納への関心が高まる一方で、メディア受けする情報ばかりが先走っている気がする。片付けの方法が本当に分からなくて困っている人というのは、家中が物で溢れかえっているのに、片付けをするために収納アイテムを増やし、さらに部屋が狭くなってしまう悪循環に陥っている。正しい情報や知識を得られなくて、精神的に追い詰められてしまう例も少なくないのだ。
早死、病気、うつ…様々な困難の要因に
今年10月、雑誌『週刊SPA!』(扶桑社)で発表された「早死にした人の生活環境」のランキング。トップになったのは「部屋にモノが多い」という理由だった。
意外に思うかもしれないが、事実、部屋に物が多い状態は生命を脅かす危険性に繋がっている。物で埋め尽くされた部屋はホコリが溜まりやすく不衛生であり、アレルギーや病気を誘発しやすい環境だ。家が散らかっていると家族や夫婦間で喧嘩が起きやすくなり、人を招くこともできないので社会的な孤立や孤独にも陥りやすい。
また、物が多いということは「何を捨てるか」「何を買うべきか」の取捨選択意識の希薄さや、判断力、決断力、思考力の低下を示しており、散らかった部屋に住み続けることで能力はどんどん鈍くなっていく。その代表例がゴミ屋敷だろう。異常なほどゴミを溜め込んでしまうのは、片付け方が分からない、掃除が面倒だから、という単純な理由だけではなく、精神疾患や孤独との関係も深いという。
片付けができなくて生き辛さを感じる。あるいは逆に、生き辛さを抱えるゆえに片付けができなくなるというパターンもある。片付けは人の精神状態に強く影響すると言えるのではないだろうか。
片付けできないことが原因で離婚
片付けくらいその気になれば誰にでもできると思うのは大きな間違いだ。片付けというのは特別学ぶ機会もなく、家庭環境は親から子へ連鎖しやすい部分がある。特に女性の場合、片付けができないことを恥と思い、周囲に分からないように隠しているケースも多い。SOSを発信しにくいことだからこそ、片付けをめぐる問題は深刻化しやすい。
整理収納アドバイザー認定講師の長野裕香さん(オフィスミカサ代表)の元には、年間100件以上のお片付け相談が寄せられるという。相談者のほとんどは女性や主婦だ。
「深刻なケースでは、妻が片付けできなくて離婚に至った夫婦がありました。モノが溢れかえった家はリラックスとはほど遠い環境で、帰宅しても落ち着いて過ごすことができず、探し物でよく夫婦喧嘩になっていたそうです。夫は片付けができない妻のことが信用できなくて、仕事の書類など大切なものは車のトランクに置いて保管していました。
また、別のケースでは、夫婦喧嘩したとき、妻のモノだけを壊して回る夫もいました。部屋を埋め尽くすモノや、片付けられない妻に対する怒りが、潜在意識の中にあったのかもしれません」(長野裕香さん)
長野氏が開催する講座や個別レッスンを受けて、これまで片付けられなくて辛かった、物への価値観が変わった、と涙を流す人もいるという。
「片付けられないというのは、モノを大切にできていない状態であると考えています。モノを大切にするようになるにつれ、片付けが進み、それをきっかけに家族関係、夫婦関係が改善されるケースはとても多い。モノを大切にすることと人を大切にすることは密接に繋がっているのではないでしょうか」(長野裕香さん)
「ちょっと便利、ちょっとカワイイ」で物が増える
「女性に多いのは、ちょっと便利、ちょっとカワイイ、ちょっとオシャレという理由で手軽にモノを買ってしまい、すぐに飽きたり、使い切らずに放置してしまうケースです。相談者の中には使い切れないほどたくさんの日用品や化粧品、洋服などを持っているという人も多い。モノが多いと何がどこにあるのか分からなくなり、探し物や二度買いをしてしまいますし、いつも『片付けなきゃ』と強迫観念にかられ、マイナス思考に陥りやすくもなります。金銭的、時間的、精神的損失のリスクがあることをたくさんの人に知ってほしいと思います」(長野裕香さん)
最も重要なのは片付けの土台となる「整理」
しかし、巷に溢れる整理収納情報は、収納グッズを使ったテクニックやインテリアに偏っている。長野氏は、もっとも伝えるべき「整理」の概念がおざなりになっていると指摘する。
「家にあるモノをいる、いらないで区別して取り分ける『整理』の土台をしっかり築くことが、片付けには何より重要です。この整理への意識が欠けていると、収納グッズを買い込み、アイデアを真似することで満足し、不要なモノを棚にいっぱい詰め込むだけで終わってしまう。一見片付いているように見えても、こういった人はすぐにリバウンドして、片付けできないループから抜け出すことができずにストレスを募らせてしまいます。これでは、根本的な問題解決には至りません。
大切なのは、自分にとって本当に必要なものは何かということを知ることです。自分の中の物欲を見つめ、『絶対にこれしかない』というお気に入りを見つけるまで買わない、使い切るまで次のモノを買わない、1個買ったら1個処分するなど、ルールを決めておくことも大事。モノを買うことでストレスを発散してしまっている人は、少しリッチなランチに変えてみる、家族旅行の予算を少し増やしてみるなど 、サービスやプライスレスな思い出にお金をかるよう心掛けてみるのもよいでしょう」(長野裕香さん)
「家にいるのがキライ」「家族の仲が悪い」というのは片付けとは別問題のように思えるが、家の中がすっきり片付くことによってこれら問題が解決できたという人を長野氏はたくさん見てきたそうだ。次々新商品が登場し、社会に物があふれる今、本当に正しい片付けの方法や物との付き合い方を学ぶことが必要とされている。たかが片付け。されど片付け。片付けで人生を劇的に変えることができるかもしれない。
(内野チエ)