(英エコノミスト誌 2015年11月28日号)
パリのテロ事件はバラク・オバマ大統領の対シリア路線を変えなかった――変えられる材料は、ほとんどないだろう。
11月24日にフランス大統領を迎えた際のバラク・オバマ大統領の挨拶は、米国の最古の同盟国であり、現在打ちのめされている国との連帯を表明する言葉としては、やや甘ったるく聞こえたかもしれない。
「我々はフランスの精神と文化を、フランスの『joie de vivre(生きる喜び)』の心を愛している」。オバマ大統領はフランソワ・オランド大統領にこう語りかけた。
「テロ攻撃後、米国民はそれぞれがパリを訪れたときのことを思い出している。エッフェル塔へ行ったり、セーヌ川沿いを歩いたりしたときのことを」
オランド大統領が「oh là là (おやおや)!」とつぶやいたとしても、許されたかもしれない。オランド大統領がワシントンを訪れたのは、フランスの惨劇の元凶であるイスラム国(IS)に対して、これまで以上に積極的な軍事行動を主導するようオバマ大統領を説得するためであって、気休めを言ってもらうためではなかったからだ。
あくまで積極的軍事行動を避けるオバマ大統領
米国政府の関係者も含め、パリの虐殺事件をきっかけに、オバマ大統領がジハード(聖戦)主義者に対してより大胆な攻撃に出るものと期待していた多くの人が失望している。オランド大統領が米国に求めているのは、自身が約束したISへの「容赦ない」作戦行動に軍事的な支援を強めてもらうことだ。
オバマ大統領はその志を支持し、テロリストを「破滅させなければならない」という誓いを繰り返した。だが、その目的を達成するための新たな策については、何の約束もしなかった。わずかな例外は、米国とフランスの情報共有を強化することと、欧州連合(EU)が――オバマ大統領が提言したように――航空会社に乗客の情報共有を義務づける場合に米国の専門家が支援することだけだ。
オバマ大統領は恐らく、米国がすでにシリアに関わりすぎていると懸念しているのだろう。米国は10月に、シリアでの軍事行動の強化を表明している。これには、シリアにいるISの敵対勢力を支援する軍事顧問として「50人未満」の特殊部隊を派遣するという、オバマ大統領がそれまで反対していた内容も含まれている。
考えられる限りで最も控えめな地上軍配備だが、この対策が必要になったのは、それまで米国が国外で実施していた訓練計画が失敗に終わったからだ。米国が5億ドルを投じたこの訓練計画は、数人の戦闘員しか戦地に送り込んでおらず、10月には廃止されたようだ。