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栗村修の“輪”生相談<63>20代男性「ゴール前になると緊張で心拍数がとても高くなってしまいます」

2015/12/01 06:00更新

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 当方、実業団レースやホビーレース等に参戦しているのです が、ゴール前やラスト周回になると緊張で心拍数がとても高くなってしまいます。

 集団後方にいたり、ペースが速すぎたりして、明らかに着に絡めないような状況だと、あきらめモードからか変化はないのですが、「もしかしたら勝てるかも?」みたいな状況で心拍数が異常に上がってしまい、怖気づいてしまいます。普段、週末に参加している周回練習でも、スプリント周回を設けているのですが同じような事になります。

 周りも緊張しているし、勝ちたいって思っているのは分かっているのですが、どうすれば克服することができるでしょうか。やはり場数を踏むしかないのでしょうか。

(20代男性)

 実は僕は、とっても心配性だったんです。子供のころ、遠足の前夜なんかも、普通の子はワクワクして眠るのでしょうが、僕は「迷子になってそのまま家に帰れなかったらどうしよう…」などと考え、不安になるのが常でした。今でも、例えば普段とは違う場所でMCをやる前などは、すごく緊張します(そうは見えないかもしれませんが)。

 だから質問者さんのお悩みは、わからないでもないですね。遠足はどうだかわかりませんが、僕以外の(元)選手からも、全日本選手権などの重要なレース前にものすごく緊張して寝られなかった、という話はよく聞きます。

 ただ、そういう緊張って、どちらかというと“レース前”の感情であり、はじまってしまえば意外と気にならないものなんです。アドレナリンが出て興奮するからかな? その意味では、レース中に緊張するという質問者さんは、僕の中ではレアケースという感じがします。

 そもそも、レース中の「ドキドキ」は必ずしも否定すべきものではないと思います。興奮して頭のリミッターが外れるからこそ火事場の馬鹿力でパワーが出ますし、いい練習になるんです。鼻歌交じりのリラックスしたLSDからいきなりスプリントをしても、いい練習にはならないと思いますよ。ほどほどの緊張は集中力に変わり、ターボになるんです。

 じゃあほどほどの、質がいい緊張って何だろう、という話になります。僕は質問者さんの「もしかしたら勝てるかも?」という若干“弱気”な言葉にヒントをみています。

 結論から言うと、強いスプリンターの緊張って「もしかしたら勝てるかも?」じゃないと思うんですよ。僕もずっと選手・監督をやってきましたが、正直、スプリント直後の選手たちには近づくのを躊躇してしまいました。怖いんです。彼らはもう、狩りを終えたばかりの肉食動物です。それくらいぶっ飛んでるんです。

スプリンターたちはゴールスプリントバトルで、肉体だけでなく精神的にも爆発的パワーを発揮する Photo: Yuzuru SUNADAスプリンターたちはゴールスプリントバトルで、肉体だけでなく精神的にも爆発的パワーを発揮する Photo: Yuzuru SUNADA

 彼らの緊張はたぶん、「もしかしたら勝てるかも?」じゃないんです。あえて言葉にすれば「勝つぜオラー!!」というくらいの絶叫になると思うんですよ。狩り、いや、勝利への意志が不安を上回っているのです。

 だからとりあえずは、心のなかでつぶやく言葉を変えてみてはどうでしょう。「勝てるかも?」じゃなくって、ご自身の精神状態を適度な緊張感に変えてくれるもの…。

 トップスプリンターの様な“狩人”になるのが無理ならば、敢えて逆をいって、最終ラップに入ると同時に「僭越ながら勝たせていただきます」とか「お先に失礼いたします」などの言葉を心の中でつぶやいてみてはいかがでしょう(口に出すとあぶない人になる可能性があるのであくまで心の中で…)。効果がなかったら申し訳ないですが…。

 大切なのは、自分の心を適度な緊張感に誘うことなので、例えば、「手のひらに『人』と書いて飲み込む」や「観衆の頭をすべてカボチャだと思う」の様な、自分独自のルールを見つけ出すことが効果的だと思います。そういった意味での“言葉遊び”をぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

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