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【スポーツ】

<首都スポ>フェンシング女子 サーブルで金を目指す江村美咲

2015年12月1日 紙面から

笑顔が眩しい女子サーブル日本代表の江村美咲=東京都北区の味の素トレーニングセンターで(武藤健一撮影)

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 北京、ロンドンと2大会連続で、男子がメダルを獲得した日本フェンシング界。そのフルーレ種目ではなく、ダイナミックさに魅せられ、別種目のサーブルで世界に挑む少女がいる。江村美咲(エリートアカデミー)、17歳。フェンシング一家で育った高校2年生が目指すのは「東京五輪で金メダルを取って恩返し」。長い手足を生かし、果敢に飛び込むアタックを武器に、U−17世界選手権やユース五輪でメダルを獲得した。将来が有望視される選手が集う寄宿制の「エリートアカデミー」(東京都北区)で生活。来年のリオデジャネイロ五輪、そして、2020年の東京五輪に向け、進化を続ける女子高生剣士に注目だ。 (フリーライター・田中夕子)

 フェンシングにのめり込むきっかけは、実にささいなことだった。

 小学生から両親と兄の影響で始めたものの、ユニホームのハイレグラインが気になるし、フェンシングの練習前に行うバスケットボールのほうがずっと楽しい。「人とは違うことがいい」という理由で、卒業文集には「オリンピックで金メダルをとりたい」と書きはした。だが、内心に抱いていた当時の夢は、五輪よりも、パティシエになって好きなお菓子を食べる生活をすること。まさか「東京オリンピックで金メダルを取りたい」と本気で思う日が来るなど思いもしなかった。

 転機は中学入学を直前に控えた12歳の時だ。当時はフルーレの選手だったが、練習場所だった味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)でサーブルの大会があると聞いた。そして、優勝商品に一瞬で目を奪われた。

 「ものすごくはまっていた『ウサビッチ』(アニメ)のパズルだったんです。サーブルに興味があったわけではないけれど、どうしてもパズルがほしくて試合に出ました」

 父を相手にした練習はわずか1日だったにもかかわらず、あれよあれよという間に勝ち上がる。気付けば表彰台の頂点に立ち、景品のパズルを手にした。

 「パズルをもらえたことだけじゃなく、勝てたことがうれしかった。フルーレは選手の人数も多いし、ずっと勝てなかったので」

 スピードとダイナミックさにも魅せられ中学入学と同時にサーブルへ転向。中3時には、カデ(U−17)のワールドカップ(W杯)ロンドン大会で優勝するなど、着実に力をつけていった。

 勝つ喜びを知れば、負ける悔しさもそれまでよりも倍増する。最大のライバルは、同い年で福岡出身の高嶋理紗と向江彩伽(ともにエリートアカデミー)だ。なかなか勝つことができず、負けるたび「またか」と悔し涙を流した。

 練習と生活の拠点となるナショナルトレセンから、江村の自宅までは自転車ならば10分もかからない場所にある。中学生のころは自宅から練習に通っていたが、ライバルたちは、将来有望な若手を一貫指導で強化する「エリートアカデミー」で寮生活を送っている。最初は「自分は自分」と思っていたが、めきめきと力をつけていく2人の姿を見るうち、「このままじゃずっと勝てない」と焦りを抱き、大原学園高進学と同時に親元を離れ、入寮を決めた。

 エリートアカデミーは卓球、レスリング、飛び込み、ライフル射撃とフェンシングの5種目で構成され、4台の二段ベッドが置かれた部屋に4人で生活する。練習がない日も午前9時までに朝食を済ませ、外出時は場所と目的の報告が義務付けられている。門限は、夏が午後7時半、冬は午後6時半。どんな理由があろうと、1分でも遅れたら1カ月の外出禁止。消灯時間の午後11時には寮母に携帯電話を預けなければならない。

 午前練習と午後練習の合間にも、通信制の高校から出される課題に取り組まねばならず、自由な時間はない。五輪で金メダルという夢があるとはいえ、17歳にはなかなか厳しい状況にも思えるが、江村はさほど苦にしてはいないらしい。

 「練習時間が十分あるのでそれだけでも自信になるし、(同級生の)2人がどんな生活をしているかも見える。自主練習していれば、自分も負けたくないし、やらなきゃと思う。本気になれたし、(アカデミーに)入ってよかったです」

 昨年はユース五輪やアジア大会など、五輪に続く規模の国際大会を経験、どちらも目標としていた個人でのメダル獲得はならなかったが、ユース五輪の団体戦では金メダルを獲得。五輪本番さながらに、ライトアップされたセンターピストで決勝を戦った。

 「いろんな選手が『この場に立ちたい』と思う場所に、今自分が立っているんだ、と思ったらすごく自信になりました。『日本で開催されるオリンピックで金メダルを取れたら本当にうれしいだろうな』って。前は金メダルが取れたらいいな、と思っていたけれど、今は取れたらいいな、じゃなくて、取る。前よりもずっと、勝ちたい、勝ちたいって思うようになりました」

 パズルがほしくて試合に出たあの日から、来るべきその日に向けて。17歳の可能性は広がるばかりだ。

     ◇

 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」面がトーチュウに誕生。連日、最終面で展開中

 

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